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ネコでもできるVRMMO  作者: 霜戸真広
ギルドとモンスター
72/83

交渉してみた

やっと本題に近づいてきました。

だけど、終わりは遠そうです。

エタらないよう、完結まで頑張ります。

「あら、ワルキューレの皆様。お久しぶりですわ」


 その闖入者は刹那たちと同様にバスタオルのような物を巻いていた。胸は大きくも無く小さくも無いという所だが、肉感的な臀部が男性の目を引き付ける体をしている。しっとりとした白髪を背中に流し、慈愛という言葉を貼りつけたような笑みを浮かべていた。

 刹那たちはその女を一瞬見て、そして世間話に戻った。


「ちょっとお待ちくださいな! 私が話しかけているのですよ」


 無視をするなんて失礼です、と怒った様子を見せる女に、その場にいたワルキューレたちは面倒そうな顔をして誰か相手しろよと他の者達を見る。誰も相手をしたくない様子だ。しかし、話を聞かないわけにはいかない。

 しょうがねえなぁ、と呟いて、持っていたお猪口を空にしてからリオンが端的に答えた。


「お前誰だっけ?」

「な、何ですの! 『休日の楽園』に存在する数百のギルドの中のトップギルドが一つにして、全プレイヤーの中でもトップのレベルを誇る剛腕のシグナス大佐が率いる『鋼の巨拳』、その一員にして、女性幹部であり、ヒューマン種から進化する中でもレア種族である神降ろしでもある、神巫女かんなぎのさざ波と言えば、わかるかしら」


 ここまで一息である。一気に言いきったさざ波はやりきったという顔をして、リオンを見た。

 

「あっ?」


 リアンはお猪口に酒を注いでいる所だった。


「す、少しはお話を聞こうという気はないのかしら」


 さざ波の慈愛の笑みに罅が入った。罅を入れた本人は気にした様子もなく、悪いと断りながらお猪口に口を付けた。刹那は我関せずと呑み続け、騒いでいた三人も別の湯船に入ってくつろいでいる。

 さざ波の我慢もこれまでかと思われた。


「それで、『鋼の巨拳』のような大手ギルドの幹部さんがたった五人のギルドに何の用なんだい? どうも最近、人を動かしているみたいだけど、それと何か関係があるのかい?」

「なっ……、いえ、そこまで知っていただけているなら話が早くて助かりますわ。そう、私は今テリタワ火山攻略のために動いていますの。あなたたちもお聞きでしょう? 最近のお助けモンスター狩りの事」

「ああ。お助けモンスター保護の事な」


 一瞬、二人の間で火花が散った。話のリードを取ろうとわざわざ挑発したリオンは、さざ波の顔に一瞬の罅を入れることに成功した。しかし、さざ波もそれがリオンの手だと分かり、すぐに顔に慈愛の笑みを貼りつけなおす。湯気の立つ風呂場に、冷え冷えとした空気が広がる。


「まあ、言い方はどちらでもいいですわ。優秀な私はいち早くこのイベントが重要だと気付きましたので、早急に動き出しているわけですの。シグナス大佐は御強い方ですが、攻略よりもご自分の鍛錬を優先する方ですので。私のような優秀な者が補佐して差し上げないと、ギルドの格という物を傷つけてしまいますから」

「はっ。自分の虚栄心を満たしたいだけだろうが、年増巫女。シグナスのおやっさんも、神輿なら神輿なりにもう少し下の奴を監督してほしいね」

「な、なんという物言いですか! 私のどこが年増だというのですか! ゲームとは言えど、失礼ですよ」

「へー、自分の所のボスを貶されるよりも、自分の事の方が重要なわけだ」

「ぐ……」


 リオンに自分の失言を指摘されて、さざ波は悔しそうにバスタオルのような物を握りしめる。怒りを瞳に宿して睨みつけるさざ波に対して、リオンはゆったりとお猪口に口をつけていた。

 まずはリオンに軍配が上がったという所だった。交渉事において、最初に精神的優位を取ることが重要だ。おそらくさざ波は普段、トップギルドの幹部という自分の立場を使って交渉事を進めていたのだろう。しかし、少数でありながらもトッププレイヤーの一人であるリオンに、そんな手は通じなかった。


(どうして、この女は私に敬意を払わない。一言私が号令をかけるだけで、多くのプレイヤーが動くのよ? 私を敵にすることの意味が分からないのかしら。つまり、その程度のプレイヤーということよね)


 『鋼の巨拳』の幹部になってからされたことがない失礼な態度に、さざ波は勝手にそうやって納得した。ならば、彼女がやることは一つである。

 勘違いして嘲笑う事だ。


「あなたたち、頭が可愛そうなのね?」

「ああ?」

「だって、そうでしょ? そうやって突っ張るのは、私たちの事を知らないからだわ。『鋼の巨拳』ほどの巨大ギルドにこんな態度を取って、無事に済むと考えているなんてお笑い草ですもの。ワルキューレというからどれだけの物かと思いましたけど」


 頭の悪い女たちの集まりでしたのね。

 そう締めくくって、さざ波は愉快そうに風呂に入っているリオンを見下した。


「はぁ。虎の威を借る狐とはあんたのためにあるような言葉だな。そんな脅しがあたしらに効くかよ。それから、もし悪態をつくなら、よく考えてから口にする方がいいな。ここが攻撃禁止エリアじゃなかったら、ただじゃすまねえぞ」

「何を……んっ!」


 リオンの言葉に疑問をはさもうとしたところで、さざ波は背後からの強い視線に振り返った。お風呂に浸かっているようで、ローズたちはいつでも襲い掛かれるようにそれぞれの武器を構えていた。

 さざ波は風呂の熱気から出る物とは違う汗が流れるのを感じた。嫌な感覚はそれで収まらない。目の前で酒を交わすエルフの瞳も強い意志と共に自分の方を向いていると分かった。

 

「ここで暴れる訳にもいかねえし。ここらであんたのここに来た理由を教えてくれないか」

「そうね。私も忙しいの。早く用事は済ませてしまいたいわ」


 そして、さざ波は要件を告げた。

読んでいただいてありがとうございました。

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