お風呂に入ってみた
前回から続いてワルキューレたちの回になります。
ラノベのお約束な感じってやっぱり難しいですね……。
『休日の楽園』の現在の最前線であるテリタワ火山。その火山地帯が良く見える位置にガンドンという街がある。火山地帯が近いため湧き出している温泉を活かした温泉街と、火山地帯からとれる炎耐性持ちモンスターのドロップアイテムを用いた高温に耐えうる炉が作られることから生まれた鍛冶屋街が広がっているのが特徴だ。
特に、その温泉を求めるプレイヤーは多い。その温泉にもランクがいくつかあり、鍛冶屋たちが仕事終わりに一風呂浴びる様な大衆浴場から、贅を極めた食事やサービスでもてなす高級旅館まで幅広い。
そんな温泉街の一角、冒険者ギルドからもほど近い位置に紅鬼の湯はある。入れば紅鬼を片手で捻れるほどの効能があると謳う銭湯である。ただ、オーナーの意向でお客は女性のみという経営をしているため、御客の入りはあまり良くない。それでも、男性が入った瞬間に防犯装置が作動するようになっているため、ギルド帰りの女冒険者からしてみれば安心して入ることができる場所だった。
ちなみに防犯装置は高レベル帯の男性プレイヤーでも一瞬で消し炭にできるようなあれこれである。
そんな事もあって、この銭湯の中では女性たちが大いにくつろいでいるのだった。
そして、それはワルキューレたちも同じだった。
「はあ、やっぱりここの風呂はいいな。火山地帯だと発汗量が増えて、同時に不快感も上がる仕組みをどうにかしてほしいね」
「ふふふ、ポチ。ポチに逢える……」
「ふむ。それはリオンに同意だな。私の場合、スキルの都合で服を脱ぐわけにもいかぬからな。薄着が出来るお前たちが羨ましいよ」
「……羨ましい……」
「にしし。リューちゃんが言ってる羨ましいは、何についてっすかね」
若干一人、どこか別時空に漂っているが、おおむね全員が湯船につかってリラックスしていた。ちなみに、絶対にめくれないバスタオルのような物を全員装備して入っている。いくらバーチャルとは言え、体を無防備に出す事は出来ないようになっているのだ。
リューリューが見ているのは、そんなバスタオルのような物を巻くことで強調されたとある部位。
「ああ? 何だよ羨ましい事って」
「それは、決まってるっすよ。これこれ」
「うわひゃっ!」
リアンの手が掴んだのは、別時空に漂っていたローズの胸だった。ポチ一匹を圧殺することを可能にするその巨乳は、バスタオルのような物を盛大に膨らませている。
「な、何をするんですかっ!」
「おお、凄い揉み心地……! 一度味わったら病み付きになる事間違いないっすね」
「……私も……」
「ちょっと、リューもやめてください。ひゃっ! そ、そこは駄目です」
ばしゃばしゃと音を立て、ばいんばいんと胸を揺らしながら逃げるローズを見て、リアンとリューリューは自分の胸を見る。そこに存在したのは絶壁。
一息ため息をついた二人は、まるで強調するかのように両手で胸を隠しているローズを睨む。
「その胸に何が詰まっているか、教えてもらうっすよ~。スキル『風脚』」
「……同意。……バインド……」
「へっ?」
リューリューの魔法により動きを止められたローズは、空中を走るリアンにすぐさま捕獲されるのであった。
「あやつらは本当に。お客が私たちしかいないから良いものの……」
「つーか、ゲーム内で胸なんて一々気にしてどうすんかね。もし、欲しいなら最初の設定で盛っておけばいいだろうに」
バインドを力づくで破壊して再度ローズが逃げ出すのを見ながら、リオンは刹那の隣に腰を下ろした。緑の髪を上に纏めた刹那はどこにも余分な肉のついていない美しい肢体をさらけ出していた。リアンのドワーフ特有の筋肉質な体とはまったく逆だった。
二人が並ぶとお互いの良さが強調されるようでもある。
「ふむ。ローズが調子を取り戻したようだし、怒る、という訳にもいかぬか」
「リアンにそんな考えがあったかは分かんねえけどな。まあ、さっき連絡とって、明日にはポチと会える約束を取り付けたからな。そのせいでトリップしちまったわけだが……」
ポチには頭が上がらねえな。
リオンはちっこい黒猫を思い出して、頭を掻いた。
「今、ポチ殿は賢樹の森を冒険中だったか。もし、賢樹様に何かあれば連絡してもらうべきかもしれぬな」
「ああ、それはあたしも思ったから、その辺は伝えてある。どうやらポチはポチでその辺の情報を持っているらしいから、明日情報交換したいってことだ。こっちは外れ情報に振り回されちまったからな。少しは挽回したいところだぜ」
「ふむ。テリタワ火山の攻略に必要なイベントの捜索だったが、やはり火山付近では発見できぬしな。やはり、怪しいのは最近発生しているというお助けモンスターの生まれ直しという現象か……」
「てっきりデマか、単発のクエストのような物だと思ってたんだが、そうじゃないかもな。はあ、今日一日が完全に徒労になったかと思うと、やるせないね」
「ふふ、温泉を気持ちよく入るためだと思えば、悪くはないのではないかな。ほれ、リアンもどうだ」
刹那はどこからかとっくりとお猪口を取り出していた。そして、お猪口に酒を注ぐと、ぐいっと飲み干す。そして、同じく酒が入ったお猪口をリアンに渡す。
リアルでやったらすぐに酔っちまうな。そんな事を思いながら、リオンはお猪口を受け取る。
そして、二人は騒がしい三人を無視して、お酒を交わしながら他愛も無い話をするのだった。
「あら、ワルキューレの皆様。お久しぶりですわ」
一人の闖入者が現れるまでは。
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