ローズの事を思い出してみた
前の話から日があいてしまいましたが、今日から再開します。
短いですが、とりあえず6話分はストックがあるので、今週は連続で投稿します。
来週からもなるべく頑張って書くので、応援お願いします。
『そういえば、ポチさんは他のプレイヤーさんと一緒に戦った事とかあるんですか?』
リラインによる薬草作りが終わった次の日、二人はレベル上げと薬草採取を兼ねてとある森に入っていた。出てくるのは昆虫系のモンスター達で、今も鉄の身体を持つアイアンマンティスを倒したところだった。リラインのレベルアップが目的なので、ファングやアンナが動きを止めたモンスターをポチがその爪で切り裂くのがパターンになっていた。
リラインは回復役に努めているのだが、ふと疑問に思ったのかそんな事を口にした。どうも、ソロでやってきたにしては連携が取れているポチの動きを不思議に思ったらしい。
『ああ、始まりの街で知り合ったプレイヤーと少しな……。そういえば、最近会ってないけどローズたち元気にしてるかな』
ポチは埋もれた胸の感触を思い出しながら、猫好きの事を想った。
***
「……ポチに逢いたい」
「いい加減うるさいぞ、ローズ。ここ最近、何かというとそればかり口にしやがって」
「だって、ポチじゃないと私は猫を撫でられないんですよ。現実世界ではアレルギーだし、この世界では怖がって逃げちゃうし……。こうなったら初期化するしか……」
ポチが久々にローズを思い出していた頃、ローズは全然大丈夫ではなかった。まるで空中にポチがいるかのように何度も撫でながら、ぶつぶつとポチの名前を呼んでいる。何かの禁断症状の様だった。
その様子をリオンは冷たい目で、刹那もどこか困った様子で眺めている。リューリューは我関せずを決め込み、リアンはいつも通りニシシと笑っていた。通常運転と言えば通常運転のワルキューレたちだった。
彼女たちはとある情報を求めてあちこちのフィールドを探し回っていた。
「そんな怖い事は言わないでほしいね。ローズ程のヒーラーを失うのは痛手が過ぎる」
「ポチ……ポチ……」
「こりゃ駄目だな。一回ポチに連絡する必要がありそうだぜ、ボス。これが終わったらメッセでも飛ばしておくか」
ふう、と豪快ながら世話好きなリオンはため息をついた。
その特徴的な和服の裾を揺らしながら、刹那も仕方がないと頷いた。ポチを自分たちのもめごとに巻き込んでしまうのは不本意に感じているが、流石にローズの変調は見逃すことができないようだった。
「本当! ああ、やっとポチに会えるのね……」
「別に毎日毎日俺らとの約束無視してポチに迷惑かけてなきゃ、いつでも会わしてやるのに。相手はプレイヤーなんだから気をつけろよ」
「はい……」
ポチに会えるとなって一気に明るくなったローズだったが、リオンに叱られて一気にしぼんだようだった。それを見て他のメンバーは笑い出す。
「リアンはしょうがないけど、刹那さんまで笑わないでください」
「ははは。悪いな。さあ、ローズの調子も戻ったようだし、冒険を再開しようか。お客さんも来ているようだしね」
「ははっ腕が鳴るぜ」
刹那の言葉で全員が一気に戦闘態勢をとった。
周りを囲んでいるのは体から溶岩を吹き出すマグマゴーレムや、強い炎耐性をもった巨大な赤鬼クリムゾンオーガたち。最前線にほど近い火山地帯でよく出てくるモンスターたちである。その巨体ゆえのHPと頑強さが飛びぬけている上に数も多いこの二種は、この辺りでは一番面倒とされているモンスターである。
まず動いたのはリアンだった。
「ニシシ、遅い遅い」
軽口を叩く余裕すら見せて、クリムゾンオーガが振り回す剛腕を軽々と避けていく。しかも、いつの間にか発動させていたスキル【風爪】によって、躱しながらダメージを着実に増やしていた。何匹ものクリムゾンオーガの中に突っ込みながら、まるで全方位が見えているかのような動きで全てのオーガを引き付けていた。
「くそっ、リアンのやつ抜け駆けしやがって。しょうがねえ。あたしはお前らの相手をしてやるよ」
エルダードワーフという種族ゆえに足の遅いリオンは、先を走っていったリアンに憎まれ口を叩きながら、マグマゴーレムの前に陣取った。まるで小さな活火山のように体から溶岩を吹き出すその大きさは、3メートル近いクリムゾンオーガと比べてもさらに高く、ごつい。背の低いリオンはそのまま押しつぶされてしまいそうだった。
マグマゴーレムはまるで人が蚊を潰すように、岩の腕を振り下ろす。通常攻撃ながらその一撃は当たればHPを目に見えて減らすだろう攻撃力を秘めていた。
どがんっ!
それは巨大な質量の物同士がぶつかったときに響くような、体を内から揺らす衝撃音だった。
それはマグマゴーレムの腕が弾かれた音だった。
「軽いなあ、お前」
弾いたのはもちろんリオンだった。その手には彼女の二つ名の由来ともなった鉄の棒が握られている。彼女の二つ名は『寄せ付けぬ者』。その鉄棒一つでもって、何者も寄せ付けぬ力を持った鍛冶師だった。
「ふむ。これでは私の活躍する舞台がないではないか。二人とも少しは譲ってくれないかな」
前に飛び出していった二人を追うようにしてゆっくりと出てきた刹那は、片手を腰に差した刀の柄に置くとそう声をかけた。
一瞬リオンとリアンは刹那のほうを向き、二人で顔を見合わせると叫んだ。
「「嫌だ!」」
双子らしく息を合わせた否定だった。
その言葉を聴いて、刹那は凶悪な笑みを浮かべる。
「では、早い者勝ちということでいいね。スキル【縮地】」
それは一瞬の出来事だった。瞬きする間に刹那の姿が消え、リアンの動き回るクリムゾンオーガの群れに突如姿を現していた。
戦闘本能の塊であるクリムゾンオーガは、目の前にいきなり現れた敵に躊躇することなく渾身の一撃を放った。
「スキル【守単衣】」
クリムゾンオーガの拳は確かに刹那の服に触れ、そしてそのまま流れるように地面を叩いていた。不思議そうな顔をしたクリムゾンオーガは、その顔のまま首を断ち切られて光となった。
衣服でもって敵の攻撃を受け流す刹那の奥義【守単衣】からの斬撃。バランスを狂わされたクリムゾンオーガに躱すことなどできるはずもなかった。
「それはあたしのっすよ~、ボス」
「それなら私より早く倒すのだな。ほらもう一匹」
刹那の手が消えたかのように見えるほどの神速の居抜き。殴りかかるモーションから動くこともできず、クリムゾンオーガに幾筋もの傷がつく。
それに負けないと気合を入れたのか、リアンの動きが変わる。多数を相手にいたぶるようにしていた攻撃から一転、敵の急所に鋭く伸ばした爪を突き刺していく。当たればただでは済まないであろうクリムゾンオーガの一撃をまるで気にした様子もなく躱しては、首筋や心臓を貫く。その動きはどこかフェンサーを思わせた。
「私も負けていられないな」
刹那もまた一匹でも多く殺そうと、刀の柄を握る手に力が入った。
その頃、リオンは豪快にマグマゴーレムを弾き飛ばしていた。
「はっはっは、軽い、軽いぞ!」
岩石の塊であるゴーレムを前にして、まるで物足りないといった様子で鉄棒を振り回していた。鍛冶師としての修行で培われた筋力値は、一流のタンカーを超えていた。その無茶苦茶な力でもって振るえば、何の特別な能力を持たないただ頑丈でただ重いだけの鉄棒が山を割るほどの威力を発揮する。
繰り出される巨大な拳も体から噴出される溶岩も、鉄棒の一振りが弾き飛ばしていく。HPと同時に、マグマゴーレムの体自体も削れていた。
「はははははは」
「はっはっはっはっは」
「ニシシシシ」
戦闘が終わるまで、三人の笑い声は続いた。
後衛の二人はいつもの事だと、ただ眺めているだけだった。
読んでいただいてありがとうございました。
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