調合を見てみた
すぐにと言っていたのに、遅くなってしまいました。
GWまでまた忙しくなるので、どれほど投稿できるかわかりませんが頑張りたいと思います。
とりあえず箸休めの日常をここで終えて、次辺りでもう一人新キャラを登場させたいと考えています。
期待していてください。
ちなみに男性キャラです。
自室でリラインはゴリゴリと薬草を磨り潰してしていた。
リラインはメインとしてテイマーをやっているが、サブで調合士まがいのこともしている。その理由は金銭的なものだった。
仲間にしたモンスターたちの餌代。それが、テイマーの一つの課題だった。大きければ大きいほど、エンゲル係数は加速度的に上がっていく。それに加え、強くなればなるほど大きい個体が多いというのも問題だった。レベルを上げなければ先に進めず、しかし、上げればそれだけ多く食べるようになり餌代がかさむ。上手く立ち回らなければ破産一直線である。
それゆえ、リラインは手に職をつけることにしたわけである。
モンスターたちが自発的に探してくれることもあり、元手のかからない薬草を扱う調合士になったのは必然だった。薬草探しに森を中心に活動していたこともあって、リラインはコロポックル族に進化したのである。
そんなわけで、リラインは週に一二度、自室にこもるのであった。
「ああ、最近はずっと同じものばかりでしたが、ポチさんのおかげで新しい調合が試せそうです」
そんな風に笑いながら、リラインは薬研に入れた薬草をゴリゴリと磨り潰し続ける。一度潰したことがある薬草ならMPと引き換えに一瞬で磨り潰してくれるのだが、今扱っているのは初めての物なので少し時間がかかっていた。
それからしばらくの間はゴリゴリという音だけが響いた。
机の上に並べられた何種類もの薬草がすべて粉々にされる頃、太陽は山の裾野に隠れ始めていた。
「少し時間を掛けすぎてしまいました……。とりあえず搬入用のポーションを作らないといけませんね」
リラインは暗くなってきた部屋を明るくするために、一度小人族用の小さな椅子から降りて明かりをつけた。太陽が出ていた時よりもぼんやりとした光に照らされた部屋は、どこか魔女の部屋のような妖しさを含んでいた。
『おーい。入れてくれー』
『入れてくれなの~』
ちょうどよくポチたちの声がした。はい、と答えると、リラインはそっと扉を開けた。その隙間からすっとナナが入り込み、普段見ない器具の周りを楽しそうに飛び回った。
『倒したりしないでね』
『分ってるなの~。大きな鍋なの! これでシチュー作ったらずっと食べ続けられるなの』
本当に大丈夫だろうかと心配しながら、リラインはナナをハラハラしながら見ていた。パタパタと羽を動かして飛んでいるが、今のところは大丈夫そうだと視線をポチに移す。
ポチは何かを咥えていた。
『これはリラインの仲間か? 小さな犬だけど』
『はい。スリーピードッグのドリーです。相手の眠気を誘うモンスターですよ』
『なるほど。道理でいつもよりぐっすり眠れたわけだ』
ポチがここまで運んできたドリーという名のモンスターは、本当に小さかった。手乗りサイズほどで、それほど大きくもないポチが簡単に運べるほどだった。見た目はダックスフンドに近く、丸くなって寝むる姿は確かに眠気を誘った。
『いつの間にか俺の隣で寝ていたんだ。一匹にするのも悪いから運んできたんだ』
『ありがとうございます。この子は本当に起きないので、どこか暖かいところにでも寝かせておきますね』
ポチが口を離しても、床の上でぐっすりと眠っているドリーを両手で掬い上げると、リラインは布の切れ端が敷き詰められたバスケットにその体を優しく入れた。
『それでポーションとかはできたのか? この瓶の中身とか?』
『あ、いえ。それはポチさんから譲ってもらったスライムジェルです。今まではずっと薬草を磨り潰していたので、これから抽出とかをしていきたいと思います』
『そうか、スライムジェルは瓶に入っているのか……』
しっかりと仲が詰まった大きな瓶を見て、ポチは感心したようにつぶやいた。パチパチと前足で瓶の側面を叩いている。
まるで初めて見たかのような行動に、リラインは不思議そうに尋ねた。
『自分の物だったのに、知らないんですか?』
『うーん、この体だと物を扱うのは難しいんだよ。どうせお金もアイテムも使わないから、今までの物が丸々残ってたわけだし。やっぱり、リラインに渡して正解だな』
『大量にもらってばかりで、恐縮なんですが……。私のほうから何も返せていないですし……』
リラインが自責の念に駆られているが、ポチは気にすんなと笑った。どうせ、使い道もないものだからと。回復も自前でどうにかなるからと。
押し付け合いを何度も繰り返して、最終的にはリラインが折れた形だった。
『せっかくだからこのまま調合を見たいんだが、大丈夫か? 生産の現場ってのは見たことがないんだよ』
『はい! 全然大丈夫です。私ので良ければどうぞ見てください』
『じゃあ、お邪魔させてもらうな』
そうして、リラインはポチに見られながら作業することになった。
緊張するかもしれない。その考えは調合を始めた瞬間にリラインから消え去った。ものすごい集中力だった。
このゲーム内での調合はプレイヤースキルによるものが大きかった。というのも、決まったレシピは初級までしかなく、それ以上になると独学か先人の知識に頼るしかないからだ。NPCの薬師たちに弟子入りする者、科学の実験のように試行錯誤を繰り返す者、様々な方法でそれぞれが調合を行っているのである。
リラインは後者であった。元々実験などを黙々と進めることに忌避感のなかったリラインは、調合士になると決めてから一日中試験官を振る事もあった。
それでも最近は新しい薬草の採取が進まず、既存のポーションを作るだけだったのだが、ポチによってもたらされたアイテムで状況が変わったのだった。
『まずはいつものポーションを用意します』
ほとんど独り言のような小さな声音で言うと、いくつかの薬草を取り出して鍋に投入する。ゲームらしく、一度作った物はMPを支払えば勝手に出来上がる。リラインの調合士スキルとコロポックル族の特殊スキルで、本来なら下がる品質もほとんど変わらない出来栄えになる。
回復魔法があるとはいえ、ポーションなしでは冒険は出来ない。リラインは出来上がった物を瓶に移し替えていく。
その手際をポチとナナが感心したように見ている。普段のおどおどした様子からは考えられない動きである。
『これで卸す用のポーションは全部かな。MP回復用のも大丈夫。そうしたら、次は新しい奴を試そうかな』
リラインはポーションを並べ、数を数えると全てアイテムボックスに閉まった。そして、次だとさっきまで磨り潰していた薬草を手に取る。
ちなみに、ここにあるのはポチがモモと一緒に迷いと誘いの森を走り回っている頃に採取したものである。リラインでは潜れない少し深い所の物も混じっていた。
『これは、HP回復ポーションに使った回復草に似てますね。ステータスを見ると、これ単体でも少し回復作用があるみたいですね……。こちらはバッドステータスを与える毒草ですか。じゃあ、まずは一口』
『おい、何やってるんだ!』
『きゃっ!』
今まさに毒草を口まで運ぼうとしたリラインの手が、何かに引っ張られるようにぴんと伸びた。突然の事にリラインは悲鳴を上げてしまっている。
勿論やったのはポチだ。ポチがスキル【招き猫】で手を引っ張ったのだ。
『いきなりびっくりするだろ』
『えっと、これはこの草の毒性を確認するためで……。調合士の職業柄、私は毒耐性をかなり上げているので、毒では死ぬことはないので、いつもこうやって確認するんです』
『ああ、そうなのか。急だったからびっくりしたんだ。次からは俺に説明してからにして欲しい』
『ああ、確かに驚きましたよね。次からは気を付けます。では、毒草を食べます』
少しドタバタもしたが、リラインは新しい薬草の効能を調べつついくつもの方法で調合を繰り返していく。それは気の遠くなるような単純作業で、いつしかナナは興味を失って外に行ってしまった。ポチは活き活きとしているリラインを横目に、時折あくびをしながら楽しそうに調合を見ていた。
リラインがその手を止めたのは、とりあえず磨り潰した分が無くなった時。その机の上にはいくつもの失敗作が並んでいた。
『今回は上手くいきませんでしたけど、いいデータは取れたので次はもう少し良い物が作れそうです』
振り返ってリラインが楽しそうにそう言うと、ポチはドリーの隣で横になっていた。
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