パーティーで戦ってみた
モンスターたちもしゃべり始めますよ!
新キャラを登場させるタイミングがつかめない……。どうしよう。
湿地帯をファングの背に乗って進んでいたポチとリラインは、突如現れたマッドジェネラルを前に戦闘態勢をとった。
と言っても、湿地帯に降りられないポチとリラインはファングから降りる訳にはいかない。回復役のリラインはどうにかなるが、基本的に接近戦を得意とするポチはほとんど攻撃する方法がなかった。ちなみに、ナナはその隙に安全地帯に飛んで逃げていた。
『がんばるなの~』
いつものように応援する気しかないようだった。
マッドジェネラルの周りにどんどん増えていく泥人形たちを忌々しそうに睨みながら、ポチはリラインに尋ねた。
『リビングアーマーの子は出せないのか? ここは少しでも戦力が欲しいところだと思うんだが……』
『ああ、そうですね! お願い、来て、アンナ!』
リラインはポチに言われて気が付いたのか、すぐさまアンナを呼び出した。テイマーの職を持っているプレイヤーは仲間にしたモンスターを呼び出すことができるのだ。
アンナは騎士のようにリラインを守るように現れた。磨き上げられた鎧がきらりと光っている。そして、ずぶん、という音と共に一気にその身長が減った。いや、身長が減ったのではない。その鎧の重みによって沈んでいたのだ。
バタバタと慌てたように抜け出そうとするアンナだったが、動けば動くほど泥が絡みつきどんどん沈んでいく。どうやらアンナが呼び出されたここは、ちょうど底なし沼だったらしい。ファングは泥の上を飛び、ウィルは泥の中を泳いでいたため気付かなかったのだ。
突如現れそして沈んでいくアンナの異様な姿に、思考能力の低い泥人形たちも何も言わずに突っ立ているだけだった。そして、いつしかバタバタという音も無くなり、諦めたのかアンナは身動きもしなくなった。
がしゃん。
それは何を伝えたかったのか、最後鎧を大きく揺らして音を立てると、剣を手放した。突き出した手はサムズアップの形のまま、泥の中に沈んでいった。
『ア、アンナっ!』
ようやく事態を理解したリラインは、すぐさまアンナを呼び戻すのだった。
気を取り直して、ポチはファングの背に乗ったままマッドジェネラルを睨む。マッドジェネラルは四方に泥人形の壁を作り上げると、今度は攻撃に転じるのであった。気付けば十五体にまで増えたそいつらが、緩慢ながら押しつぶそうとしてくる。
『はあぁ、とりあえず燃やし尽くしてやろうかねぇ』
『リラインとポチは僕の背中にしっかりとしがみついててね!』
それに対して早く動いたのはウィルとファングだった。ウィルは抑えていた火力を一気に上げると、周囲に炎の波を広げた。その瞬間にはファングは大きく跳び、その炎の範囲からは逃れていた。それどころか、その炎に合わせて風の刃を生み出して泥人形の壁の一角を切り裂いていた。一度ウィルによってカラカラに焼かれた泥人形たちは、風の刃で面白いほど木っ端みじんに散っていく。
『これ……俺たち、いらないな……』
『いつもこうなんですよ』
ポチとリラインがこう呟いてしまうのもしょうがない活躍である。特に炎を使うウィルの攻撃が泥人形の水分を簡単に蒸発させてしまうため、泥人形たちは生まれた先から体を崩していった。
『でも、見ているだけって訳にはいかないよな!』
そう言うと、ポチはスキル【猫騙し】を発動させた。何匹もの猫たちが空中に現れては、泥人形たちの顔面らしき部分にしがみついて伸ばした爪で首をはねていく。ただそれは、すぐさま体部分に吸収されてしまって攻撃としてはあまり効いていないようだった。新しく首が生まれるや、体全体で覆いかぶさるようにして分身の猫たちを潰して行った。
マッドジェネラルがいる限り、倒されても倒されても泥人形の数は減らないようだった。
『このまま持久戦を続けるとウィルがもたないですよ。どうしましょう』
『はっ! 心配はいらないさぁ、リライン。こんな奴ら全部焼き尽くしてやるわよぉ』
『もう、ウィルは無茶しすぎです』
数を減らさない敵に慌てるリラインを尻目に、ウィルはどんどん炎を吐きだす。
『僕も負けてられないね』
ファングも負けじと風を生みだして泥人形たちを吹き飛ばしていく。しかし、泥人形たちが壁となってマッドジェネラルにまで攻撃が届かない。
あの壁になっている泥人形をどかさない事にはどうにもならない。
ポチはどうにかできないかと考え、そして一つの解答に辿り着いた。
招き猫のように、ポチは前足を可愛く動かした。
ビュッ!
そんな音共に、空を飛んでいるポチの横を何かが飛んで行った。
「キャッ! な、何ですか、今の。敵の攻撃ですか!」
急な事に猫語でしゃべるのを忘れたリラインが、素の言葉で叫んだ。また襲ってくるのではないかと、ファングに気を付けるように言うリラインに対し、ポチはにんまりと笑みを浮かべた。
『いや、今のは俺の攻撃だ』
『へっ?』
不思議そうにしているリラインに、後で話すと断ると、ポチは何度かスキル【招き猫】を繰り返す。そうすると、泥が引き寄せられてポチが招いた方に飛んで行った。その一瞬ぽっかりと壁に穴を開けながら。
『俺が壁に穴を開けるから、ウィルに頼んでそこから炎を後ろに隠れている奴に当てるんだ』
『分かりました。ウィル、壁に穴が開くから、そこから後ろの奴を攻撃して』
『分かったよぉ』
その後は一瞬だった。
『スキル【招き猫】!』
ポチが叫びながら手を招くと、壁を形成していた泥人形が吹き飛んだ。
『ウィル、今っ!』
そこを逃さず、リラインの声が飛んだ。ウィルはまるで何かを丸呑みにするかのように口を大きく開けた。そして、体に纏っていた炎が一瞬瞬いたかと思うと、口腔から一気に炎を吹き出した。
まるでドラゴンの息吹を思わせるその技は見事泥人形に開いた穴を通り抜けてマッドジェネラルに直撃する。
しかし、片手に構えられた盾によって防がれてしまっている。
『ファングもお願い!』
『リラインのためなら!』
ウィルの炎にかかりきりになっているマッドジェネラルに向けて、横からファングの風の刃も降り注ぐ。そこも、ポチによって大きな穴を開けられていた。
勝負が決まったのはファングの放った風の刃がマッドジェネラルの盾を持つ手を吹き飛ばした瞬間だった。炎を受けていた盾が地面に落ちると、ウィルの炎は本体を焼き始める。いくら泥人形よりは大きく、強いと言っても火に弱いという事は変わらない。
マッドジェネラルはカラカラになって、ボロボロと崩れ去っていった。
どうにか倒した事に安堵しながら、リラインはウィルとファングを褒める。
『ウィルもファングもありがとうね。また、助けてもらっちゃった』
『気にしなくていいのよぉ』
『リラインのためなら、これぐらい簡単です!』
リラインとモンスター達の仲のいい雰囲気に、優しい気持ちになっているポチの下にナナが帰ってきた。
『お疲れ様なの』
『あー、俺はあんまり手伝えなかったけどな。特に、最後はウィルの火力……だけで終わっち、まった……。ああっ!』
『ど、どうしたなの!』
『はい?』
何かに気付いたように叫ぶポチに、ナナは驚いた声を上げた。リラインも不思議そうにポチを見る。
ポチはしくじったなあ、という顔をしていた。
『俺が敵を倒さないとリラインに経験値入らないのに、忘れてた……』
『ああ、そういえばそうでしたね……』
ポチとリラインは一瞬微妙な雰囲気になりつつ、この湿地帯を抜けたら頑張ろうと心に決めるのだった。
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