リラインと冒険してみた
少しの間はモンスターとのバトルっぽくなる予定。
もう一人新キャラを考えているので、登場を期待していてください。
ポチとリラインが仲間になってから、二週間ほどが経っていた。
その間にシェルナーラを出て、カリグラ平原を抜けていた。現在は湿地帯のエリアを進んでいる。足に纏わりつく泥が行動を阻害する上に、泥の中にモンスターが紛れて襲い掛かってくるエリアである。いくつか罠のように底なし沼があり、このエリアを渡るにはモンスターの討伐とは別基準の技能が必要であった。
しっかりと準備をしないと通り抜ける事ができない場所である。しかし、ゲーム初心者組のポチとリラインがそんな事を知っているはずもなく、本来なら一旦道を引き返すところだったのだが……。
『こんなに楽をしていていいんだろうか……』
『こっちの虎ちゃんの毛も気持ちいいなの』
『たまにはいいんじゃないでしょうか』
二人は呑気な事を言いながら、湿地帯を進んでいた。ただし、自分たちの足ではなく、ツイストタイガーのファングの背中に乗って。その名の通り風属性の虎型モンスターであるファングは、足元に竜巻を生み出すことで空を走ることが可能である。その背に乗ることで、湿地帯の移動阻害を丸々無視していたのだった。ナナも気持ちよさそうにその背でゴロゴロしている。ファングは一人と二匹を乗せているのだが、疲れた様子は全くない。ポチもリラインも小さいから当然とも言えるが。
時折湿地帯特有の土系魔法を使う泥人形の亜種や、毒玉を吐きだす蛙型モンスターのマッドフロッグ、底なし沼に呼び込もうとするマドハンドといったモンスター達が出てくるのだが、
「グアッ!」
一声ファングが吠えると、その瞬間に風の刃が生まれてモンスター達を切り刻んだ。蛙は見えた瞬間に真っ二つで、毒玉を撃つ事すらできていなかった。泥故に打撃や斬撃には強い泥人形たちは、ファングの足元付近で体をくねらせながら進む炎蛇のウィルによって燃やされてボロボロに崩れていった。
ポチとリラインの出る場面がない事この上なかった。
『おお、本当に強いな。俺にももう少し背があれば、一緒に戦えたんだけどな……』
『う~、それは私も同感です~。現実の自分を少し見直したくなりました』
ファングの上でモンスターが倒されるのを見ながら、ポチとリラインはそんな事を呟いた。実は、最初ファングの力を安易に頼ってはいけないと考え、二人で湿地帯に飛び込んだのである。
その結果、ポチは頭の先まで沈み込み、リラインは泥に足をとられて二歩も歩けず顔面から泥の中に頭を突っ込むことになったのだった。
それを上から見ていたナナが腹を抱えて大笑いしたのは言うまでもない。
『それにしても、ファングもウィルも強いな。やっぱり野生のモンスターよりも、仲間になったモンスターの方が強いのか? 確か、ツイストタイガーも中級者向けのモンスターだよな?』
『えーと、それは少し違うんです』
『違う?』
『えっと、説明より見てもらった方が早いと思うので……』
そう言うと、リラインは右手をさらっと動かした。ステータスなどを表示しているようだ。そして、お目当ての物が見つかったのか、ポチに見えるように可視化して見せてくれた。そこには、ファングとウィルの名前、種族、簡単な特徴が書かれていたのだが、同時にレベルも書かれていた。
『両方ともオーバー六十あるんだけど……』
『? リラちゃんよりも虎ちゃんたちの方がレベルが高いなの』
『はい、実はこの子たちだけなら、もう中級レベルを突破しそうなほどなんです。どうしても、この子たちに闘わせてばかりで、私は回復になってしまいますから』
リラインは自分のレベルが低い恥ずかしさと、仲間たちのレベルの高さを自慢できた嬉しさで、複雑な形で笑った。頭の上の草もいつもより大きく揺れている。
最近ポチは気が付いたのだが、どうもコロポックル族の頭の上の草は感情に合わせて動きを変えるようである。感情のふり幅が大きくなるほど、大きく揺れるのである。
ポチは恥ずかしそうに頭の草を揺らすリラインを見ながら、そういえば、テイマーはレベルが上げにくいって甲斐が言っていたなあ、とそんな事を思い出していて、もう一つ不思議な事に気が付いた。
リラインと仲間たちのレベル差は二十近くある。普通ならプレイヤーの命令など聞かなくなっていてもおかしくない。
それをストレートに聞いてみると、
『友達のために闘う事に理由なんかいらないさ! リラインを守るためなら、僕はこの身を火にくべてもいいね』
ファングはそう言って、牙を大きく光らせていい笑顔をしてみせた。
『はっ! それなら私の炎で焼いてやろうかねぇ。下心が見え見えなんだよぉ、この発情猫がぁ。私は、リラインに助けられたからねぇ。恩を返したいのさぁ』
ファングに舌をシュルルと出しながら、ウィルはそう言った。ポチには蛇の言葉は分からないので、リラインを経由して聞いた。ちなみに、同じテイマーに属しているモンスター間では意思の疎通が可能である。
どうも、二匹の仲はあまりよろしくはなさそうだった。
『他の方々がどうかは知りませんけど、私とこの子たちはずっとこんな感じですね』
リラインはファングの背中を撫で、頭を寄せてきたウィルの頭を優しく触った。
私もなのー、とナナもリラインの胸元に突撃していく。リラインは優しく小さな妖精の頭もゆっくりと撫でた。
『こういう所がリラインの下にモンスター達が集まる理由なのかもな』
仲が良くて良い事だ、とポチは頷いた。
仲間のレベル上げに加えて、自分のレベルを上げないといけないし大変だな、と考えて、ポチは提案した。
『それなら俺が闘ってモンスターを倒せばいいわけだ。そうしたら回復役のリラインにも経験値が入るだろ?』
『そう、ですね。なんかポチさんに甘えてしまっているみたいですけど……』
パーティーを組めば、その仲間内で経験値は頭割りされる。ポチとリラインはパーティーを組んでいるので、ポチがモンスターを倒せばリラインにも経験値が入るという仕組みだった。ちなみに、テイムしたモンスターはパーティーメンバーとしては認められないため、経験値は敵を倒したモンスターにのみ支払われる。そのため、テイマーはパーティーを組むことも難しい場合が多かった。
その上で、さらにポチだけに闘わせてしまう事を申し訳なさそうにするリラインに対し、ポチは気にすんなと笑いかけた。
『俺だけだったらこの湿地帯を抜けるのは難しかったし、やっぱり人としゃべれないってのは街で不便だからな。ギブアンドテイクだよ』
『それなら……』
『ああ、気にしなくていい』
『ありがとうございます』
『いやいや、だから大げさだって。仲間だろ』
ポチとリラインはお互いの友情を再確認しているようだったが、虎型モンスターの上で頭を下げる見た目幼女と、その前で鷹揚に構えている黒猫という姿はシュールな絵面だった。
ポチを前衛にして、リラインが後衛で戦う姿が目撃されることで、猫を戦わせる鬼畜なテイマーがいる噂が流れることになるとは、この時点の二人が知る由もなかった。
『そうと決まれば、早速レベル上げだな。強い敵とドンドン戦うぞ!』
『はい!』
初めての仲間に対して自分が力を貸せることを喜ぶポチだった。
次の瞬間までは。
『猫さんがフラグを立てたせいなの』
『おい、これは俺のせいか? リラインも何とか言ってくれよ』
『えっと……』
『リラちゃんを困らせちゃ駄目なの』
『だから、ナナは全部俺のせいにすんなよ!』
ナナはポチの周りを飛びまわった。そして、めっ! っと可愛らしく注意する。それに対して、ポチは軽く吠える。
その呆れるほど呑気な姿に緊張感を奪われながら、リラインは目の前にいる大きな影を指さした。
『えっと、まずは目の前の敵に集中しませんか?』
大きな影の正体はマッドジェネラル。泥で構成されている所は泥人形どもとさして変わらないのだが、大きさは倍以上で、泥の密度も濃い。さらにその手に剣と盾が握られているだけでなく、周囲からこぽこぽと泥を隆起させて何体もの泥人形を生み出す能力まであった。
この湿地帯の徘徊型のレアモンスターである。
強い敵と戦うぞ、とポチが言ったすぐの出来事だった。
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