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ネコでもできるVRMMO  作者: 霜戸真広
ギルドとモンスター
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仲間になってみた

今回もリラインの話です。

ポチだけではさみしいので、これからはリラインも一緒に冒険させていく予定です。

 シグラの町は湖の街シェルナーラからカリグラ平原に向かう途中にある町の一つだ。名産品らしい物も乏しく、この町で受けられるクエストも大したものがないためプレイヤーの行き来が少ない町でもあった。

 ポチとリラインはわざわざそういう町を選んで今日会う約束をしていた。それはリラインの下に身を寄せるようになった竜、クリスタが目立たない様にという配慮だったわけだが、それは別の所でも活かされることとなった。


『え、と、あ、あの、ポ……ポチ、さん。この、この前は、ありがっひゃ!』

『あー、落ち着け。緊張して喋れないってことは、誰かから俺の正体を聞いたのか? まあ、とりあえずもう少し人がいないところに行くか』

『……はい』


 ポチを見るや、リラインがいきなりしどろもどろに話し始め、あまつさえ思いっきり舌を噛むという失敗をしでかしたのだ。もちろん猫語で大声を出したこともかなり奇異に見られていた。他のプレイヤーたちがいない場所を選んで正解だったなと、ポチはため息をついた。


 一人と三匹(リライン一人とポチ、ナナ、クリスタの三匹)はその後、町を出たところにあるちょっとした丘の所まで歩いた。そこには大きな木が立っており、その下には良い形で影が出来ていた。


『そんなことがあったんですね。ポチさんが助けてくれた時の強さに納得がいきました』

『ふふん、そうなの。猫さんはナナを助けるために身体を張ってくれたなの。ナナは罪作りな妖精なの』


 ナナとは普通にしゃべれるみたいだな。

 ポチは丘に向かうまで、一言も話さずにいた。いつも五月蠅いナナがリラインに率先して話しかけていたからだ。自分の武勇伝を語られるというのは恥ずかしいが、楽しそうにしているのを止めるのも忍びない。

 そして、その様子に確信を得ながら、ポチたちは丘の上の木の下に腰を下ろした。クリスタは話に興味がないのか、そのまま木の根に挟まるように丸くなると眠ってしまった。


「キュイ~」


 気の抜けた声は、とても安心している様子を示しているようで、リラインは背中をゆっくり撫でて笑った。

 しばらくの間、クリスタの可愛らしい吐息だけが響いた。

 最初に声を掛けたのは、ポチの方からだった。


『あー、俺がプレイヤーだって話を聞いたのか?』

『(……こくり)』


 リラインは口を開こうとしては閉じるを何度か繰り返して、そして軽く首を縦に振った。

 しくじった、とポチは前足で頭を掻いた。


『騙す気はなかったんだ。あの時は話すタイミングも無かったし、今日はそれを伝えとこうと思ったわけだし……。いや、言い訳は良くないな。騙していて悪かった』

『あ、う、いえ、あの……(ごにょごにょ)』


 ポチは今後プレイヤーと関わる時には自分の正体をなるべく明かすようにしようと決めていた。モモの時のようなことにならないためにである。

 それで早速しくじってんだから、人は簡単に成長できないって事なんだろうな。ポチは頭を下げたままそんなことを思った。

 どれだけ待ってでも、リラインの言葉をしっかり聞こうとポチは思っていた。

 しかし、掛けられた言葉はリラインからではなかった。


『いえ、勘違いしたのは私ですから、頭を上げてください、だってなの』


 ナナが代わりに喋っていたのだ。リラインは顔の前に仁王立ちしたナナの耳元に顔を寄せて、話す言葉を伝えていた。

 人と話すことが苦手なリラインが出来る、最大限の意思の伝え方だった。


『不快な思いとかはないですし、むしろいきなり態度を変えてしまってこちらこそ申し訳ありません、らしいなの』


 そこからリラインは何故人としゃべるのが苦手なのかをポツリポツリと話し始めた。


 ***


 リラインこと和は昔から背の大きな少女だった。それは小学校に入る前からそうで、どちらかというと男性的な顔つきも相まってその頃は男の子に間違われることも多かった。小学校に入り学年が上がるにつれて、その身長は更に伸びていった。運動も得意だった事もあり、同級生の少女達から慕われることも増えてきた。

 ルックスも顔付きも、運動神経も全て高水準だった和は少女たちのまさしく憧れの王子様であった。ただ一つだけ問題だったのは、和の性格は普通の少女と何も変わらなかったことだ。ぬいぐるみや人形が好きだし、服も可愛らしい物が着たかった。

 しかし、周りがそれを許してくれなかった。

 スカートを履いていけばそうじゃないと言われ、まるで男の子のような格好をさせられた。可愛い物が好きだと言えば、そんなものは似合わないと言われる。

 最終的には身体の大きさの割に高く、女性らしい声すらも似合わないと言われたのだ。それは、まるで彼女を理想の王子様という型にはめ込むような物だった。クラスの女子、それどころか時に上級生や先生すらも彼女を型に押し込めたのだ。

 内気な性格故に何も言い返す事が出来ずにいた和は、転校してきた見た目は可愛らしく中身は弾け飛んだ金髪少女によってその状況を抜け出す頃には、まともに人と話すことができない様になってしまったのだった。

 今では乱のように仲の良い友人か、飼育係として面倒を見ている動物たちとなら話すことができるようになっていた。

 このゲームを始めたのも、見た目が変われば気持ちも楽になるのではないか、という乱のおすすめがあったからだった。


 ***


『結局はモンスターとしか話せていないんですけど、なの』


 リラインは全てを話しきって、ふう、とため息をついた。ナナも疲れたのか、リラインの顔の前から動いてポチの背中に着地した。


『良く分かった。それなら俺の事はただの猫と思ってくれ。このゲームの中では俺はただの猫でしかないつもりだ。人としゃべれるようになる練習にしてくれればいい。よく見てくれ、俺が人間に見えるか?』

『あ……、見え、ない、です。可愛い黒猫にしか、見えません』

『そうだろう。まあ、きついみたいならさっきみたいにナナを酷使してくれてもいいけどな』

『いやなの~。喉が痛いなの!』

『いつももっと五月蠅いぐらいしゃべってる癖に、よく言うな』

『猫さん、冷たいなの。のど飴が欲しいなの。甘い奴なの』

『いいけど、ほとんどお前の顔面と同じくらいの奴しか持ってないぞ』


 ポチがナナとじゃれ合い始めたのを見て、リラインは自然と手が伸びた。それは優しくポチの背を撫でる。その感触はまさしく猫のそれだった。

 不思議そうに自分のことを見上げてくるポチに、リラインは満面の笑みを浮かべた。雪ん子の小さな見た目に相応の、みんなを元気にするような笑顔である。


『……(可愛い)』

『? ポチさん、何か言いましたか?』

『ああ、いや、何でも。ああ、でも、普通にしゃべれるようになってよかったよ。旅に出てから初めてこの事を打ち明けた相手だからな』

『それなら、もし良ければたまに一緒にプレイしませんか? あの、ポチさんが良かったらですけど』


 もじもじとした様子ながら、リラインはポチに自分から一緒に冒険しないかと持ちかけた。それがどれだけの勇気が必要だったかは、微妙に震えている肩からも分かる。


『もちろん、宜しく頼むな』

『ナナも嬉しいなの! リラちゃんと一緒に遊ぶなの』


 不安を一気に吹き飛ばしてくれたその言葉に応える様に、


『はい!』


 リラインは大きな声で答えた。


 ***


 丘を降りていく途中で、ポチは疑問に思っていたことを聞いた。


『そういえば、どうやって俺の事を知ったんだ? ユーリスの事で噂が一杯で、俺の事はほとんど噂にならなかったって話だったんだけど』

『ああ、それは友人に聞いたんです』


 リラインは楽しそうに乱の事を話した。それはもちろん、このゲームで八百屋をやっている事も。


『あの女将さんの中身が女子高生……』


 ポチはまったく想像できない現実での姿に茫然とした声を出した。

 二人が出会う事があるかは、まだ誰も知らない。


読んでいただきありがとうございました。

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