助太刀しに飛び込んでみた
あと二、三日ほどは連載できそう。
そのあとはわかんないです。
そして、ポチがほぼほぼ登場しなかった。
リライン・パックスは動物が好きな少女だった。だから、『休日の楽園』の中でも、モンスターと触れ合うことができるジョブ『調教師』を選んだ。彼女自身は調教という言葉を嫌って、『動物の友達』と自分の事を呼んでいるの。現実世界ではかなり背が高く、イケメン顔なのを気にしているため、ゲーム内では小人族から進化したコロポックル族でプレイしている。雪ん子のような白い着物を着込み、頭の上で揺れる小さな葉っぱが可愛らしい。
そんな心優しい彼女が襲われているのには理由があった。それは、彼女の背後にある薄い光の膜の中で目を閉じて浅く息を吐き続けているドラゴンをリラインが守っているためだった。
元々この鍾乳洞の奥にいた老竜はお助けキャラであり、その高い知識でプレイヤーに助言を与えてくれるモンスターだった。襲い掛かってもダメージは通らず、一撃で殺されるため手を出すのは馬鹿ぐらいだった。
それが今日だけは違った。
「我も長く生きた。長く生きた竜は生まれ直さなくてはいけないのだ。これからしばしの間、我は弱体化する。その間、守ってもらえないだろうか」
老竜がリラインに告げた言葉だった。
老竜の元にいつものようにおしゃべりに来たら、いきなり頼みごとをされたリラインは一瞬泡を食ったように驚いたものの、ぶんぶんと頷いた。今はもうプレイヤーも少ないカリグラ平原であるから、誰にも気づかれることはないだろうという考えもあっての肯定だった。
「感謝する、我が友よ。次に会う時は幼い我を頼む」
「? は、はい。任せてほしいです」
老竜の最後の言葉に首をひねりながら、リラインは老竜が生まれ直しを始めるのを見守った。
老竜がどこかから出てきた薄い光の繭で包まれる。
そして、そこに六人の男たちがやって来たのだ。
「おい、宝探しに来て、特大の宝を見つけたみたいだな」
「竜を倒したとなれば、一気に名前が売れるだろ。それに、竜の鱗や何かは高く取引されてるよな。やっはー、俺達にも運が出て来たみたいだな」
そいつらはこのカリグラ平原の古代の宝を目当てに活動する、トレジャーハンターを名乗っているパーティーだった。今日も宝を求めてこの鍾乳洞を潜っていたらしい。そして、偶然老竜とリラインの話を聞いていたようだった。
「あ、あな、あなたた、ちは、な、な、何者で……すか」
「ん? 何を言っているか分かんねえぞ、嬢ちゃん」
「ふぁ! す、すい、ません」
「いいだろ、リーダー。こんな奴ほっといて。さっさとこの竜倒そうぜ。俺、新しく欲しい装備がに金が要るんだよ」
「そのガストの馬鹿に賛成だ。まあ、俺は売らずにここで手に入れた素材で何か作ってもらうがな。はっ」
「ジーク、今鼻で笑ったろ」
「笑ったら、何だって言うんだ」
「え、えっと、け、喧嘩は、よく、よくない……よ」
リラインは自分を置いてきぼりに始まったトレジャーハンターたちの仲間割れに、どうしようかとあわあわして、的外れな事を言ってしまっていた。リラインは人と話すのが苦手なのだ。動物相手なら普通に話せるが、人に話しかけようとするとおどおどした喋り方になってしまうのである。
そのため、現実世界では無口のため、しゃべらずの王子様と陰で呼ばれていたりする。
敵でありながら喧嘩を止められないかとおどおどするリラインと、竜を前にして仲間割れを始めるメンバーを見てため息をつく男が一人。この六人パーティーのリーダーである。
「ガスト、ジーク。それまでだ。喧嘩は竜を倒してからだ」
「へーい」
「了解」
信頼されているらしく、リーダーの言葉一つで二人は喧嘩をやめた。それを見て、ほっとするリライン。
「あ、あの、竜さんを、み、見逃、して、もらえ、あせんか」
噛みながらもどうにか大きな声で、リラインは自分の意思を伝えた。
しかし、そんな言葉一つではどうにもならない。
「すまないね。こんな面白いことをゲーマーとして逃すわけにはいかないんだ。ガスト、ロック。お嬢さんをどかすんだ。相手はソロだ。二人いれば十分だろ」
リーダーの命令に、呼ばれたガストとロックが迫る。ちなみに、ガストは獣人族のシーフ。ロックは巨人族のタンクである。力づくで抑え込む気の様だった。
この場所までソロで来られる実力者なら、自分たちと同じ程度のレベルだろう。それに、今の状態なら竜からの反撃もなさそうだ。そう判断した故の二人による制圧だった。
しかし、それは一つ大きな誤算があった。それは、
『みんな、お願い』
リラインが一人じゃなかったことだ。
リラインの前に現れたのは炎を体から噴出させる大蛇のモンスター、炎蛇。足に風を纏って空に浮かんでいる虎型モンスター、ツイストタイガー。手に盾と剣を持っている中身が空洞な鎧のモンスター、リビングアーマー。名前はそれぞれ、蛇のウィル、虎のファング、鎧のアンナである。
その三匹がトレジャーハンターたちの前に現れて、動きを止めたのだった。
「こいつテイマーか。とりあえずモンスターから倒せ。別に倒せないモンスターじゃないはずだ」
「了解。魔法準備するよ」
トレジャーハンター側もガストとロックを呼び戻して、モンスター戦闘用に意識を切り替えた。彼らの編成は前衛二、中衛一、後衛二、遊撃が一という編成だ。リーダーが腰の両手剣を抜きリビングアーマーを、大盾を構えたロックがツイストタイガーを抑えている内に、中衛のジークの槍で牽制しながら、魔法で炎蛇を倒す動きだった。パーティーを組んで長いのか、さっと陣形を取る。
(ど、どうしよう。プレイヤー相手に戦った事なんて無いよう)
落ち着いて対処しようとするトレジャーハンターたちに比べ、リラインはどうしていいか分からなくなっていた。今の所モンスターが持ちこたえてくれているが、それほど長くはもたないだろう。
「シャアッ!」
「ウィル!」
迷っている間にウィルが魔法を喰らったらしかった。炎の噴射で直撃は避けたようだが、HPゲージが一割以上減っていた。
「おい、魔法を避けたぞ。あんな動きをする奴だったか、あのモンスター」
「自分の下手をモンスターのせいにしてんなよ、サッカ。よく躾けられてるって事だろ」
「下手じゃないし。そんなこと言ってっとお前の頭を打ち抜くぞ」
「おお、怖い怖い」
トレジャーハンターたちはそんな冗談を言いながらも、着実に攻撃を当てていっている。それは、普段のモンスターを倒す時と同じ気楽さだ。
それが、リラインには許せなかった。
『ウィル、お願い。特大の炎を放って!』
「おい、あの子、今なんか変な言葉を……」
それはリラインからの攻撃のお願いだった。
分かったわ、と言うかのように、ウィルはとぐろを巻くと、体中から炎を噴出させた。波のように炎が敵に襲い掛かる。
攻撃しようとした槍を引き戻してジークが下がる。ちょろちょろと動きながら投げナイフで牽制していたガストも、これはヤバいとその場から飛び退いた。
リラインの言葉が分からなかったのは、リラインがスキル【蛇語】でしゃべったからである。
「私の友達を、殺させたりしましぇん! ……せん」
どうにか絞り出したリラインだったが、最後噛んだ。空気が一瞬止まる。
そしてここから闘いは本番に入って行く。
『ウィル、すぐに回復するからね。ファングは空から牽制をお願い。特に、後ろの魔法使いを頼みます。アンナは誰も私と竜の所に来ないようにしてください』
「動きが変わった。おそらく、良く分からない言葉で指示を出している。気を付けろ。三匹が連携を取ってるぞ」
ファングが空からの急降下を繰り返しながら、後衛を狙う。そのせいでロックが後衛のガードに回るしかなくなっていた。近づいたところで魔法を撃とうとすると、横から回復したウィルが炎を纏って飛び込んでくる。魔法使いの視線から外れたファングは、いくつもの風の刃を生み出してウィルを狙うジークの動きを止める。
それなら直接リラインを狙おうとリーダーが動くが、アンナが騎士よろしくリラインを守る。アンナは膂力でも剣の腕でもリーダーとほぼ互角で、盾を持っている分ガードだけは上だった。つまり、リーダーはアンナを突破できない。
さらに、スキルを使ってダメージを与えても、後衛のリラインがスキル【癒し】で回復を行ってしまう。コロポックル族特有の能力で、回復量と回復スピードも上昇しているため、一対一ではHPを削りきれていなかった。
お互いに攻め手がない千日手の状態。だが、有利なのはリラインだった。
(私の勝利条件は後ろの竜を守りきる事。このまま長引かせることができれば十分のはず)
そう思って、戦いに慣れていないリラインは油断した。いつのまにか、ウィルを襲っていたはずのシーフ、ガストが姿を消している事に気が付かなかったのだ。
盗賊系のプレイヤーが持つスキル【無音】や、【気配緩和】による奇襲だった。
「ごめんね、これでお終いさ」
それは背後からの一撃。防御力の低いリラインなら数発喰らえばHPも無くなるだろう。そして、リラインが立ち直るまでにそれだけの攻撃が出来る自信がガストにはあった。
予想外は、第三者の介入があったことだ。
「えっ?」
短剣を振りかぶった瞬間に、横に引っ張られる感覚。ガストはそのまま吹き飛ばされていた。
『だまし討ちは感心しないな』
ここにきてようやく、ポチが颯爽と登場した。
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