猫好きに撫でられてみた
ちょっと短いです。
地の文の途中から名前の呼び方が利久からポチに変わってますが、一応仕様ですのであしからず。
始まりの街に降り立って一歩も進む前に修道女に拉致られた利久は、買ってもらった魚一匹――明らかに角とか生えていてモンスターだった。名前はそのままドリルフィッシュ――を近くの公園で食べながら、修道女の『rose』とおしゃべりした。といっても利久はニャーとしか言わないから会話と言えるかどうかは怪しいが。
名前は相手を見ると、頭上にプカンと浮いて表示される。目の前の少女の頭の上の名は、『rose』となっている。
たぶん『ローズ』だと思う。もしかしたら『ロゼ』かもしれない。名前を呼ぶことはないけど、とりあえずローズと呼ぼうと、利久は心の中で決めた。
色々と話を聞いていると、なんでもローズはリアルでは猫アレルギーらしい。触れないからこそ募る物があるという事だろうか。どうにも猫が好きで、リアルの猫は無理だけど仮想世界の猫ならってことでこのゲームを始める経緯らしい。
相手が猫のNPCだと勘違いしているからか、
「このゲームは細かいところまで良くできていて、町には野良猫がちゃんといて、触れるんだよ。ああもう、本当に可愛い」
とのことを、頭をなでたり、喉のところをごろごろしたり、肉球を触ってみたりしながらしゃべる。
最初はくすぐったくって暴れたりしていた利久も、途中からしょうがなくといった感じでちょうどいいタイミングで相槌を打ち、頭を撫でられたら気持ち良さそうにした。
ローズの触り方は愛があるためか利久も気持ち良く感じたが、やっぱりまだ慣れないせいか、体がぞわぞわする感覚も味わっていた。
(これは大丈夫なのか? 変な性癖に……目覚めないよな?)
利久は気持ちよさに流されそうになるのに耐えながら、そんなことを考えていた。
ただ話している間に何かが気にかかり、ローズの頭の部分を凝視する。その目に気付いたローズが恥ずかしそうにすると、被っている頭巾が少し動いた。
「やっぱり猫さんには気付かれるんですね」
少し周りを見渡してから、秘密よと前置きしてローズは頭巾を取った。
その下に隠されていたのは……紛れもない猫耳。何か嬉しいことでもあるのか、忙しなく動いている。
動くものに反応する猫の習性が出てしまったのか、利久は無意識に前足を使って優しく触る。良い触り心地だった。
「私は獣人族の猫人で、ポチのお仲間ですよ。猫が好きで種族進化もしてないからね」
このゲームには進化というシステムがあり、普通のプレイヤーはさっさと種族進化を重ねて強くなっていく。ローズはしかし、そういったプレイヤーからすれば例外に位置づけられる存在だった。
それと、最初に抱き上げられた時に利久が自分に似た匂いを感じたのも、ローズが猫人だからである。これが虎人とかだったら、野性の薄い利久もその匂いで怖がっていたかもしれない。
ふと、ローズの視線が利久の上を彷徨う。
「そういえば、ポチはお名前があるから、野良ではないのよね」
『ん? どうして俺の名前が分かったんだ?』
利久は可愛らしく首を傾げた。それを見てローズは感極まったという風に体を震わせた。
「誰かの使い魔の可能性もありますけど、それなら普通の猫を選ぶ訳はないですし……何かのクエストのキャラなのかな」
利久もプレイヤーであるから、頭上に名前が表示されていたのだ。ちなみにプレイヤーネームは『ポチ』。昔家で飼っていた猫から拝借した名前だ。
そうと分かってポチは、できればそっとしておいてほしいんだがなと、ため息をついた。
二人(一人と一匹?)の間にまったりとした時間が流れる。
街中の少し喧騒から離れた公園。木々に遮られて日光の量は完全じゃないけれど、風は気持ちいい上に、何よりもポチは可愛い女の子の膝の上という最上のベッドの上。猫じゃないと膝枕は出来ても、膝ベッドは出来ない。それもこんな可愛い子の。
ポチは猫になった役得を絶賛満喫中であった。
せっかくならこのまま寝てしまおう。ポチは慣れないながらに丸くなって、目を閉じた。
「ふふ、おやすみ」
優しい声に後押しされて、ポチは眠りの世界に落ちて行った。
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