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ネコでもできるVRMMO  作者: 霜戸真広
ギルドとモンスター
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平原で戦ってみた


 『休日の楽園』にログインしたポチは、カイルに別れを告げるとシェルナーラの街を出た。喧騒から遠ざかり少し寂しい気持ちを味わっていた。


『次はどこに行くなの? お魚は食べ飽きたから、今度はお肉が美味しいところがいいなの!』

『……少しは寂しさに浸らせてくれよ。ナナの頭には食欲しかないのか?』

『なの!』

『そこで強く頷くなよ』


 こんなんで大丈夫なんだろうかと、ポチは呆れたような目で見るが、ナナは気にした様子もない。いつも通りフラフラとポチの周りを飛んでいる。


『先に言っておくが、今回は別の街に向かう訳じゃないからな』

『お、お肉が食べられないなの!』


 がーん、という効果音をわざわざ鳴らして落ち込んだようにしながら、器用にナナはポチの背中に着地した。そしてそのまま毛に顔を埋めて、幸せそうにふかふかなの~、と笑っている。

 落ち込んだ様子を心配する暇もない

 ポチはため息をついた。


『とりあえずカイル達に聞いたこの辺りの面白そうなエリアを回ってみるつもりだ。モンスターは危険だが、その分街にはない自然の中での日向ぼっこが出来るからな』


 ポチは地図を開くと、顔を上げて背中にまたがるような形になったナナにも分かるように前足でとある場所を指した。

 地図に書かれていたその名前は『カリグラ平原』。短い治世で大規模な建設事業を行い、最後は暗殺された狂気のローマ皇帝の名前を与えられた平原だった。


 『カリグラ平原』はその名前の由来となった皇帝を表すかのように、昔の栄光を示すような遺跡群が散乱している。バラバラに崩れ去った拳大の破片から、モンスターが住みつきダンジョンと化している巨大な建造物まである。

 見晴らしのいい平原の中で遺跡を隠れ蓑にして奇襲を仕掛けてくるモンスターもいるため、注意が必要なエリアとされている。

 遺跡の中にはランダムで古代の品が残されている事があり、それを狙うトレジャーハンターを職とするプレイヤーも多い。

 ポチがそんな場所にやって来たのも、遺跡が目当てだった。


『ん~、こういう崩れかけた感じも風流だな。少し埃っぽいのが欠点だな』

『ぼろっちいなの』

『まあ、良さそうな所を見つけたら、少し掃除が必要かもな』


 ポチは目の前をフラフラと揺れる草を鬱陶しそうに掻き分けながら、草原を進んでいく。

 そして、もう幾つ目になる崩れかけた壁を横目にポチが歩いていると、その壁の裏からぬっと赤黒い大きな足が現れた。

 それはこの草原を闊歩するモンスターの一つ、ルイン・オーガだった。赤黒くごつごつとした皮膚は生半な武器では傷一つつけることは出来ない。そして、このオーガは基本的に三匹ほどで活動している。

 つまり、最初に現れたルイン・オーガに目を奪われている内に、ポチは他の二匹に囲まれていた。三匹とも手には棍棒を握りしめている。

 それに気がついてポチはごくりと口内に溜まっていた唾を呑みこんだ。一触即発の空気が流れる。

 ただ、それをぶち壊すような声がポチの近くからした。


『猫さん、あの鬼さんの顔が怖いなの~』

『……』


 一気に馬鹿馬鹿しくなったポチは、とりあえずナナを咥えてその場を飛び退いた。次の瞬間にはさっきまでポチがいた地面を棍棒が凹ませていた。避けられたと分かったルイン・オーガ達はポチの方に頭を向ける。

 その眼光の鋭さにひっと声を上げるナナに、ポチは隠れているように言った。ナナがその通りにしたのを確認してから、ポチはルイン・オーガたちに向き合う。威嚇とでもいうかのように、伸ばした爪を舐めてみせる。


『なまった体を少しは動かしておかないとな。日向ぼっこする前の軽い運動ぐらいにはなってくれよ?』


 最初に跳びかかったのはルイン・オーガの方だった。しかし、仕掛けたのはポチが早かった。くいっと前足で招く動作をしたのだ。


「ぐがっ!?」


 驚くような声を上げてルイン・オーガの一匹がポチに引き寄せられる。それを待ち受けていたように、ポチの爪がその首を掻っ切るように閃く。


『駄目か……』


 が、嫌な音をさせただけで、爪はルイン・オーガの首を撫でるだけで終わった。しかし、先ほどにはなかった光を爪は放っている。スキル【爪とぎ】はオーガの皮膚相手にも発動しているようである。

 これならどうにでもなりそうだな、とポチは確信する。相手は防御をその硬い身体に任せきりにした鈍重なパワーファイターである。体が小さく、俊敏性に特化したポチが攻撃を受けることなど万が一も無い。そして、その硬さもポチの爪の前では無意味だった。

 ポチは乱暴に振り回される棍棒を避け、振り下ろされる巨大な足の裏を潜り抜ける。そして、足を中心に爪を砥いでいく。

 ルイン・オーガには一体この小さな動物は何をしているのかと、不思議に思った事だろう。そして、その不思議は解消されることなく消えていくことになる。


『まずは一匹』


 ポチの爪はルイン・オーガの皮膚を遂に突破した。首を狙った爪の一撃はスキル【首切り】によってルイン・オーガを即死させた。続いて首を失い消えていく体を足場にして、もう一匹のルイン・オーガにポチは跳びかかった。


「ガアッ!」


 しかし、それを待ち構えていたかのようにルイン・オーガは棍棒を振りかぶっていた。その姿はまさしく野球のバッター。当たればホームランどころか、ボールを爆散させかねないスイングがポチを襲った。

 ルイン・オーガがホームラン製造機とするならば、ポチはまさしく魔球だった。


『残念』


 そうポチが呟いた瞬間、ポチを吹き飛ばさんとした棍棒は大きく空ぶった。ポチが得意とする幻影を使った時間差攻撃にまんまと引っかかった形だった。


『二匹目』


 首に向かって振り下ろした一撃では殺しきれなかったが、着地までに繰り返した幾度もの攻撃でルイン・オーガのHPは零になった。

 最後の一匹も、そのまま目にもとまらぬ速さで切り裂くと、HPを零にして体を光にして消えて行った。


『よし、もう終わったから、出てきてもいいぞ、ナナ。……ナナ?』


 ポチはかっこよく決めると、姿を現すようにナナを呼んだ。しかし、ナナは姿を現そうとしない。

 その代わりに震えた声が聞こえた。


『まだ終わってないみたいなの……』

『ん?』


 ナナの声に釣られるようにして、ポチは振り向いた。そこにはゴブリンライダーと、彼らを背中に乗せたルイン・フォックスたちの姿。しかも、その数は5組。

 やばい、そう思うポチを尻目に、リーダーらしいゴブリンライダーが吠える。すると、ルイン・フォックスたちがその口を開いた。開いた口の前に、炎が集まって火球を作り上げていく。


『遠距離攻撃は聞いてないよ!』


 ポチはナナが隠れたであろう遺跡の壁まで一目散で逃げた。こっちにくるなと手を振っているナナを無視して、ポチは壁の内側に逃げ込む。その瞬間、五匹のルイン・フォックスの口から火球が放たれた。

 着弾した音は鈍いが、一度弾けるような音がして一気に炎が燃え広がった。遺跡の壁が炎に耐えたため、ポチたちにダメージはないが、熱気が凄まじかった。


『ねこさん、早く、倒してなの。熱いのはいやなの。ナナはこれ以上汗をかいて痩せなくても十分ボンキュッボンなの』

『妖精に痩せるって概念があるのかは知らないが、確かに熱いのは勘弁だ。こういう時は毛皮がぬきたくてしょうがない』

『脱げるなの!』

『……そんなキラキラした目で見るな。冗談に決まってるだろ』


 軽口をたたきながら、ポチはナナを背中にしがみつかせた。


『猫さんの毛皮が暑いなの』

『文句言うな。とりあえず、今は逃げるぞ』


 そう言ってポチが逃げ出した瞬間、火の中を走り抜けてきたゴブリンライダー達の攻撃が遺跡の壁を崩した。片手に持った槍を振り回して、ここにポチとゴブリンライダーたちの鬼ごっこが始まった。

 それは全速力で逃げたポチが、とある遺跡に入り込むまで続いた。


読んでいただきありがとうございました。

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