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ネコでもできるVRMMO  作者: 霜戸真広
ギルドとモンスター
57/83

クリアしてみた

ここでクエストはいったん終了。

次からは新しい仲間と出会う話になります。

 そしてクエストは一気に収束していく。

 ナナの爆弾発言を受けて、とりあえずポチはナナと二人でマーマンの元に戻った。まだ猫を探しているマーマンの前にポチが出ていくのは危ないからと、ナナだけが先行する形である。

 大丈夫か。ナナ一人で。

 フラフラと飛んでいくナナの姿を、ポチは影から見守っていた。いつ一口で食べられるんじゃないかと気が気でなかった。

 そんなポチの心配をよそに、ナナはマーマンに話しかけた。もちろんマーマンの言葉で。


「グギガ、ガガゴ」

「ガガ、ギガグゴ」

「ギゲッ! ゴガグガ、ゲガギゴ」

「ゲッゲッゲッゲ。ギギガ」


 傍で聞いているポチには全く分からないが、どうやら会話できているらしい。ちなみに、ナナがマーマンと話せるのは、ポチと話した時のようにスキル【マーマン語】を取得したからである。ゲームを管理する妖精は無条件で取得できるのだ。

 もっと早くそのことに気がついておけばよかったと、ポチが後悔したのは言うまでもなかった。

 そして、話が終わったのかナナがポチの元に戻ってきた。


『それで、あいつはなんて言ってたんだ』

『あのマーマンさんは、ギザロさんって言うなの。最近生まれたばかりの初孫が可愛くて仕方がないらしいなの。マーマンの一族では名の知れた戦士なの。湖に住む大ナマズとの闘いは圧巻だったなの!』


 興奮して喋るナナに、ポチは嫌な予感がした。

 ぴしりとこめかみを引き攣らせながら、ポチはナナに猫なで声で尋ねる。


『ナナ。それで、どうしてギザロさんが猫を襲うのか教えてもらえるかな?』

『……もう一回聞いてくるなの』


 その恐ろしい雰囲気に、ナナはすぐさまそこを離れてマーマンの元に戻って行った。

 そして、今度こそきちんと話を聞いてきたのだった。

 ナナからどうしてマーマンが猫を襲うのか話を聞いたポチは、すぐさまカイルを呼び出した。

 そのままギザロの前に連れて行く。


『ポチの兄さん! 嫌っす。怖いっす。俺っちを売るんすか! この薄情猫! ぎゃあ!』

『ちょっとは大人しくしろ』


 ポチは逃げだそうとするカイルを【招き猫】で引き寄せる。

 そしてギザロの前に、まるでお供え物のようにカイルを置いた。カイルはマーマン特有のぎょろりとした目で見下ろされ、金縛りにあったかのように体が動かなくなる。

 そして、ギザロの手がカイルに向けて伸ばされた。


『うー、死にたくないっす~』


 カイルは悲鳴を上げながら、目を閉じてその瞬間を待った。

 するりっ。


『ん?』


 何かが外されるような音がして、近づいてきていた魚の匂いが遠のいていった。

 何が起きたか分からず、カイルは目を開いた。そこには真珠のネックレスをもって喜んでいるギザロの姿。


「グガグゴ」


 お礼の言葉だったのか、それだけ言うとナナとポチに何かを手渡してギザロは湖に戻って行った。カイルは何が起きたか分からずにポカンとしている。


『何がおきたんすか?』

『ああ、要はマーマンの、ギザロさんの狙いは猫じゃなくてお前が首から下げていた真珠だったんだよ。あの真珠魚の腹から出て来ただろ』

『あれっすか? 確かに、俺っちが食べてた魚から出てきた奴っす。綺麗だったんで首からかけてたんすが、あれが狙いっすか?』


 ポチは頷いて、ナナ経由でギザロから聞いたこの事件のあらましを語り始めた。

 最初はギザロの初孫へのプレゼントだった。戦士として優秀なギザロが用意したのは、このシェルナーラ湖にのみ住む特殊な真珠貝のモンスターからとれる真珠だった。その真珠貝は湖の奥底にしかおらず、その群生地に行くまでには大型の水棲モンスターが待ち構えているため、マーマンの中でもとって来られる者が限られている一品である。しかも、その真珠には敏捷値にプラスを与える効果も付与されている物だった。

 しかし、その付与効果が今回は悪い方向に働いた。

 ギザロが真珠を用意したまでは良かったが、その真珠を魚に食べられてしまったのだ。本来ならマーマンの方が早いためすぐに捕まえられるのだが、魚にも敏捷値にプラスが入ったせいで逃げられてしまったのだ。どうにか追ったギザロが見たのはその魚が漁師に釣られる所。さらに漁師を追ったギザロは、漁師が猫たちに投げ渡している魚の中に目的の魚を見つけたのだった。

 そして、ギザロがどうにかプレイヤーの目を逃れて陸に上がった時には、もう猫たちは魚を咥えてその場から消えていた。


『それで最初は魚を奪って腹を割いていたらしいが、偶然真珠を首から下げたカイルを見つけたって訳だ。それからは仲間にも頭を下げて、猫探しを手伝ってもらったという事だな』

『なるほどっす。でも、別にあの真珠にこだわらなくても良かったんじゃないっすか? また、取ればよかったんす。俺っちだってあれ気に入ってたんすから』


 さっきまでぶるぶる震えていたのが嘘かのように、カイルは取られた真珠についてぶつくさ言い始めた。


『うーん、その辺は聞いてみないと分かんねえなあ。……ギザロさん、呼んで聞いてみるか?』

『にゃっ!』

『……そんな逃げなくてもいいだろうに』

『丸まって可愛いなの。つんつん、なの』


 ギザロの名前を出した瞬間に悲鳴を上げたカイルは、尻尾を丸めてぶるぶる震えている。どうも、マーマンにトラウマを持ってしまったようだ。全速力で追いかけられたら当然かもしれないが。

 ナナはそんなカイルを楽しそうにつんつんしている。


『まあ、冗談はこれぐらいにして、これで依頼達成だな。報告はカイルの方からお願いしてもいいか?』

『はいっす。あ~、マーマンを思い出すせいで、お魚が食べられなくなるっすよ~』

 

 最後に哀切漂う言葉を残して、カイルは去って行った。

 これでようやく日向ぼっこの場所探しが開始できるなと、ポチはぐーんと伸びをする。猫の仕草も板についてきていた。


『よし、行く――』

『待つなの!』


 ポチの言葉にナナが待ったをかけた。

 また面倒事か?、とポチは嫌そうな目でナナを見る。見られた方は、強気に腕組みしていた。


『……どうした?』

『猫さんは私に言う事があるはずなの!』

『言う事?』


 ポチはこてんと首を傾げた。ローズ辺りがいれば、スクショの嵐が飛ぶ程の可愛さである。しかし、ナナは気にした様子などなく頷く。

 言う事か……。

 この街に来るまでのあれこれはもう怒ったし、カイルに案内されているのに勝手にどこかに行こうとするのも散々注意したし、勝手にそこら辺の物を食べない様にも言い聞かせてある。他に言う事ってなんだ?

 ポチは逆側に首をこてんと傾げる。そして思いついた、と尻尾をピンと立てた。


『今日はよく俺の背中にしがみついてられたな。今までは落とされてたのに。進歩してるってことだな』


 うんうん、とポチは頷いて、ナナの頭を撫でた。


『えへへ~、もっと撫でて欲しいなの~って違うなの! 危なく誤魔化されるところだったなの』


 危ない、危ないとナナはポチの手を払いのけようとして、肉球に頬擦りした。少しして顔を上げる。


『猫さんは私に感謝するべきなの! 今回のクエストが解決できたのは私のおかげなの』


 えへん、と胸を張るナナ。しっかりと重量感あるナナの胸が強調される。中身は健全な男子高校生であるポチの視線も釘付けになる。


(どうしてこの薄布で肌が見えないんだ!)


 羽衣のような服に対するヘイトがポチの中にたまっていく。ナナがむっとして睨む。


『聞いてるなの?』

『おお、聞いてるよ。まあ、今回は確かにナナに助けられたよ。ありがとうな』

『ふふん、なの。私にかかればこんなものちょちょいのちょいなの。……感謝の気持ちは形にしてもいいなの。例えば、屋台の食べ物とかなの』

『そうだな。ナナの好きな奴をなんでも奢ってやるよ。どうせお金を使う事もほとんどないしな』

『猫さん、ありがとうなの~。すぐ行くなの~』


 ナナはポチの背中に跳びついた。そして、背中をパンパンと叩いてポチを急かす。


『はいはい。じゃあ、手を放すなよ』

『な、なのぉぉぉおおおぉぉおおおおぉぉぉぉぉぉ~』


 ポチは一気に走り出した。


読んでいただきありがとうございました。

感想、評価をもらえると私が飛んで喜びます。

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