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ネコでもできるVRMMO  作者: 霜戸真広
ギルドとモンスター
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クエストを受けてみた

クエストの話はすぐに終わる予定だったのに、なんか長くなりましたね。

『ん~、げふん。それでは話を聞いていただけますか』


 威厳たっぷりに話を始めようとするガイだが、先ほどまで空を飛ぶナナの振り回す猫じゃらしに何度も猫パンチしていた姿があって台無しである。ちなみに、話を聞く気のないナナは、猫じゃらしでカイルと遊んでいる。首にかかった真珠がキラキラとまばゆく光っていた。


『ああ、大丈夫だ』


 遊んでいるナナ達は放っておいてポチはガクに対して頷いた。


『事件が起きたのは少し前の事でした。ちょうどその日は大量に魚が釣れたんです。それでいつもよりおこぼれが多かったんで、あっしの班も助っ人として港に出向きまして、いくつか魚を持って帰る途中でした。あいつらが姿を現したんです』

『あいつら……』

『へえ、そいつらってのは人と同じ背丈程はある魚でした』


 ガクは手を広げてその大きさを示そうとするが、そのわたわたと動く姿にポチは緊張感が緩みそうになる。

 やばいやばいと、ポチは頭を振るう。


『大丈夫ですか?』

『ああ、気にすんな。つまり襲ってきたのは魚人ってことだな。魚に人みたいな足が生えた』

『魚人……そう、確かにそんな感じの奴でした。魚人は魚を運ぶあっしらを見ると、急にその美味そうな匂いのする手で捕まえようとして来たんです。すぐさま咥えていた魚を離して、あっしらは逃げたんですが、少し奇妙な事を魚人たちが始めたんです』

『奇妙な事?』


 魚人に対する美味しそうという評価は気にせず、ガクの最後の言葉にだけポチは目を細めた。

 ガクは頷いて、続きを話しだす。


『へえ。あいつらは逃げたあっしらを放って、落ちた魚を漁りだしたんです。そしてわざわざ腹を割いていきやがった。辺り一面魚の残骸で一杯にしていきやがったんです』

『うわ、面倒だな……。それが毎回やられているとなると、食糧問題が起きてるのか』


 それは厄介だな。ポチは前足でピンと伸びた髭をさすった。


『いいえ、それは違うんです』


 ガクは首を振った。


『魚の腹を割くようなことは最初の一回だけで、それからはあっしらを追いかけて捕まえるんです。毎日ご苦労な事ですが、こちらもずっとあいつらにいいようにされるわけにはいけねえ。ボスが出張ってはいますが、追い返すので精一杯。それに魚人たちも一人じゃないんで、どうしても後手に回ってる。そこで、ポチの兄さんの助けを借りたいんだ。あの魚人共を倒してもらえませんか』


 この通りです、とガクは頭を下げた。

 面倒な依頼だ。

 話を聞いて最初にポチが思ったのがそれだった。


(魚人一匹倒すだけじゃ話は終わりそうにねえな。魚人がどうして猫たちを襲ってるのかを把握しないとどうしようもねえか。魚人から直接聞ければ楽なんだが……)


 そこまで考えてポチはぴんときた。

 俺なら人の言葉が分かるじゃねえか。ケットシーの姿になって襲ってくる魚人から話を聞けばいいんだ。


『おう、そのクエスト受けてやろうじゃないか!』

『本当ですか!』

『おうよ!』


 ポチは軽い気持ちで返事を返した。あとは報酬の話だけだ。


『あっしらが用意できるような物なら、何でも用意いたします』

『それなら……』


 と考えて、ポチははたと気がついた。

 欲しい物がない。

 よく考ええてみれば、猫たちに用意できるものなどたかが知れている。魚を手に入れているという事だから、もしかしたら使える素材とかもいらないからと持っていたりするかもしれないが、ポチ自身にとって使い道がない。さらにポチはスキル【一生九魂】の都合上、ポーション系の消耗品も使うことがほとんどないから、換金するという訳にもいかない。


『つーか、この街に来る途中で倒したモンスターのドロップ品も肥やしになっているんだよなあ』


 ポチの場合、武器や防具が爪や毛皮といった自前の物であるため装備の更新や、手入れにすらお金がいらない。時折ナナを経由して露店の食べ物を食べるぐらいにしかお金も使わない。

 ポチは他のプレイヤーとは隔絶したプレイを続けていたのだった。

 結局考えた末に出したのは、


『この街を自由に歩かせてくれ』


 そんな言葉だった。


『そんなことでよろしいんですか? この街で手に入る物でしたら、どんなものでも用意してみせますが?』


 自分たちの事が舐められたと思ったのか、ガクは剣呑に目を光らせる。


『いや、あんたらを馬鹿にした訳じゃない。今日みたいに監視としてカイルを付けなくても言いってだけだ。ただまあこれだけだと、そっちのメンツも立たないか。じゃあ、貸一つってことでどうだ。何か困った時にあんたらの力を頼れるのはありがたい』

『……分かりました。ポチの兄さんがそれでいいというのなら、報酬はそうしましょう。この街を自由に歩けるように徹底させておきます。貸の件はポチの兄さんの今回の働きによるとは思いますが、そこは期待してもよろしいんですね?』


 未だににらみを利かせるガクに、ポチは力強く頷いてみせた。簡単な仕事だと見せつけるかのように、すっと伸びた美しい尻尾を軽く振ってすら見せた。


『カイル!』

『へ、へいっ!』


 ガクはカイルを呼びつけた。ナナに喉をゴロゴロされていたカイルは、緩んだ顔を一瞬で引き締めた。


『明日からポチの兄さんに用心棒として動いてもらう。お前は案内役兼連絡役としてポチの兄さんに付け。逃げ足も速いんで、カイルは足手まといになることはないでしょう。使ってやってください』

『それなら遠慮なく』

『えっ! 俺っちは嫌っすよ。あいつらずっと追いかけまわしてくるんすよ! ただ、このキラキラしたのを付けてから逃げ足早くなったっすから、掴まったことはないっすけどね!』


 弱気なのか自慢なのか分からないカイルの言葉は無視して、ポチのクエスト受注は終わった。とりあえず動き出すのは明日からだ。

 ポチは日が落ちるまで屋根の上での日向ぼっこを楽しんで、ゲームからログアウトした。

読んでいただきありがとうございました。

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