クエストを解説されてみた
ゲームの説明やってますが、ミス等あっても優しい目で見てください。
湖の街シェルナーラを満喫し、漁業組合の建物の屋根で寝ていたポチとナナは、自分たちを囲む幾つもの影に身構えた。そして、ポチの一言を契機にして、全ての影が動く。
『お力を貸していただけませんでしょうか』
『え……?』
襲ってくると思っていたポチは拍子抜けした声を上げた。影たちは全員が勢いよくポチに対して頭を下げていたのだ。
『あー、説明してくれないか』
危険性はなさそうだと判断したポチは、平身低頭した状態の猫たちの中で中央にいた体格のしっかりとした猫を選んで声を掛けた。先ほど力を貸してほしいと鳴いた猫である。
『あっしはこの辺りをボスから預かっているガクと申します。カイルの野郎から兄さんが始まりの街からモンスターを倒してやって来た事は聞いております。その武勇を見込んでご依頼したことがあります。どうか、どうか我らをお助け下さい』
一度顔を上げたガクと名乗った猫だったが、すぐさま頭を下げる。周りの猫たちも再度頭を下げてくる。
ずらりと並んだ猫たち、しかも全員がポチよりも大型の種らしくたくましい猫たちが、屋根中で頭を下げている。
ちらりとポチがガクたちの後ろにいるカイルに視線を向けると、カイルは申し訳なさそうに頭を垂れている。その姿に面倒事を持って来たと怒る気力もなくなっていく。
『断れる雰囲気じゃねえなあ』
ポチは少しナナと相談させろ、とだけ伝えて猫たちを下がらせた。きちんとガクの元で統制されているらしく、ガクの一声で屋根の上にはカイルとガクを残して猫たちは去って行った。
『なんで俺っちも残されたんすか~』
『何かの役に立ってもらうかもしれないからに決まってるだろ。大人しく待ってろよ、カイル』
人の事(猫の事?)売っておいて、自分だけ無事に済むとか思ってんじゃねえぞ。
ポチは遠回しにそう脅して、カイルを睨みつけておく。
固まったカイルは放っておき、ポチはナナと秘密会議を始めるのだった。
『ナナ、今何が起きてるか分かるか?』
『ん~、ずばりクエストが発生していると思われるなの』
いつもボケボケなナナが、ホバリングしながら片手を顎において格好を付けながら自信満々に答えた。ナナは管理用に知能を豊富に詰め込まれたAIのはずなのだが、その割に普段は頼りない姿を見せている。だが、今はかっこよく決めていた。
(あのナナがまるで頼りがいのあるお姉さんの様だ!)
ポチは声も出せずに驚くほどだ。
もしかして、ナナも成長しているのか。
恐る恐るポチはナナに尋ねる。
『クエストって?』
ナナは腕組みをする。そして後光が差さんばかりの神々しい笑みを浮かべた。
まさか、この質問に答えられるのか!
ポチはナナを見直しかけていたその時、ナナはゆっくりと口を開いた。
『知らないなの!』
『だよな! それでこそナナだ!』
大きな声で言われた無知発言に、ポチは安堵の声を上げた。
というわけで、ナナに話を聞くことを諦めたポチは、別の妖精にコンタクトを取った。
『ということで、ミミ。クエストの解説をよろしく』
『……どういう事か良く分かりませんが、クエストを解説すればいいのですね』
『ああ、隣でパタパタうるさいのは肝心なところで役に立たなくてな』
『役立たずとかひどいなの! クエストはチュートリアルで教えてもらってるはずなのに、知らない猫さんがダメダメなの』
『なっ! お前にダメダメ呼ばわりされるのは我慢ならねえぞ。そんなこと言ったら、ナナはチュートリアルで説明する側じゃないのかよ』
『う……、それは……』
『ほれ、見たことか』
空中に広げられた映像を無視して喧嘩を始めるポチとナナに対して、ミミは一度深いため息をつくと話を元に戻した。
『お二人ともお静かに。とりあえず、簡単にですがクエストについてお教えしますから。聞き逃さないでください』
『『はい(なの)』』
ミミの鋭い目つきが、映像越しにポチとナナを大人しくさせたのだった。
『クエストというのはプレイヤーに与えられる様々な課題のような物です。メインストーリーとは別に、個別で受注する事が可能です。一般的には、冒険者組合において受ける物ですが、時には頼まれごとといった形でNPCから受注することもあります。今回のポチ様の件は後者に当たりますね。受けるかどうかはプレイヤー個人の判断という事になります』
ここまでで質問はありますか、とミミはまるで授業しているかのようにポチと、その横で何故か一緒に聞き入っているナナに問いかける。
ポチは少し考えて、片前足を上げた。
『その課題ってのをクリアするとどうなるんだ?』
『クリアした者には、報酬が与えられます。例えば、冒険者組合で受けたクエストなら、金銭と冒険者レベルの上昇などですね。組合を通さないクエストの場合は、依頼主との交渉によって報酬は変動します。イベント中に起こるクエストでしたら、特殊な報酬が与えられることもあります』
『なるほど。組合を通せば安定した報酬が手に入り、個人で請け負えば交渉力が試されると』
確認のようにつぶやいたポチに、正解ですとミミは軽く頭を下げる。ちなみに、ナナは話を聞くのを諦めたようで、適当に頷いているだけだ。
こいつら本当に同じ種族なんだろうか。
ポチはミミとナナのギャップに頭が痛くなってきていた。
『それじゃ、クエストってのはどうやって生まれるんだ? 運営が全部用意するって訳にはいかないだろ?』
ナナの事は思考から放り出すことにして、ポチはミミに質問を続けた。
『冒険者組合で受けられるような物は運営が設定したものがほとんどです。薬草採取やモンスター討伐などがメインになっています。ですが、それだけでは面白くありません。ですから、NPCによる個別のクエスト受注が存在するのです』
『ん~、でもNPCからクエストを受けるより、冒険者組合のほうが楽じゃないのか?』
俺は猫だから難しいけど。
ポチは自嘲的に笑って見せた。
それに対して、ミミはまさしくそうですと頷いてみせた。
『それが懸念された上での処置です。本ゲームは「何にでもなれる」がモットーです。冒険者以外のプレイヤーも多いのです。それなのに、冒険者組合でしかクエストを受けられないのでは面白くありません。それに、NPCそれぞれもAIが組み込まれていますから、彼等にクエストを考えさせた方が運営としても楽だったのです』
『なるほどな。言われてみればその通りだ。楽って言い方はあれだけど』
『ただ特別なクエストなどはこちらが用意しています。メインストーリーに関係するような物だったり、特別なイベントを生むような物だったりですね。他にもクエストを生み出させるために、意図的に負荷をかけていたりします』
『なるほどな。良く分かったよ、ミミ。ありがとうな。これからも迷惑をかけるかもしれないが、宜しく頼むよ』
頭を下げるポチに対して、映像の中でミミも頭を下げた。
『いえ、我々の方こそナナの事では迷惑をおかけしたので、私が分かる事でしたらいつでもお聞きください』
それでは、とミミが言うと、映像が消えた。
クエストの事が分かったことだし、ガイの話も聞いてみるか。クエストを受けるかどうかは、まずそれからだな。
そうポチは考えると、話を聞こうとガイたちの方を振り返った。
『それじゃ話を……って、何やってんだよ。ナナ』
『遊んでるなの!』
呆れる様な声を出したポチが見た先では、ナナがどこからか持って来た猫じゃらしでカイルとガイを全力であやしていた。
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