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ネコでもできるVRMMO  作者: 霜戸真広
ギルドとモンスター
53/83

案内してもらってみた

街の描写が難しい。

ポチの口調は少し荒っぽく書いてます。

なんとなく旅ネコ=やんちゃなイメージなので。


『……予想とは大違いだ』

『活気があっていいところなの』


 湖の街シェルナーラに入ってすぐポチとナナが漏らした感想がこれだった。


『てっきりベネチアみたいな、優雅な街を想定していたんだが、どうみてもこれは漁師町だな……。さっきから通りかかるNPCがどいつもごついし、至る所から魚の匂いがしてくる』


 鼻をぴくぴくさせるポチが見ているのは、街のメインストリート。まっすぐ下って行けば巨大な湖に出来た港に辿り着く大きな道だ。そこを歩いていくのはタンクトップを内側から持ち上げるほどに盛り上がった胸筋、力強さを象徴するような上腕筋が目立つ男たち。手に巨大な銛や、網を持っている者達はきっとこれから漁に出るところなのだろう。

 商店もずらりと並んでいる。最初に目につくのはやはり魚屋。氷の上にずらりと並べられた魚たちはまだピチピチと跳ねている。中には人間大の巨大魚や、牙のように尖った口を開いたり閉じたりしている貝もいる。武具や消耗品を扱う店も軒を連ねていた。


『はー、店とかだけ見れば、始まりの街の商店街と変わらないけど、雰囲気は全然違うな。豪快というか大雑把というか……』


 そこかしこから聞こえてくる漁師姿のNPCの笑い声や、おまけしちゃうよーという調子のいい言葉。新米プレイヤーも多いため緊張感や初々しさのあった始まりの街とは流れている空気から違った。

 その変化に戸惑うようにポチは御上りさんの見本の如く、きょろきょろと視線を彷徨わせる。


『この街は初めてっすか!』


 そんな風に街に入ったばかりのところでぼーっとしているポチたちに、一匹の猫が声を掛けた。


『ああ、そうだけど。お前は?』

『なの?』


 急に声を掛けられたことで、ようやくポチは側に誰か来ている事に気がついた。


『俺っちはこの街に暮らすカイルっていう者っす! 兄さん方がもしよかったら、街の案内をするっす。魚が美味しいところから、人の少ない穴場のスポットまで、色々教えられるっすよ』


 そう元気よく答えたのは虎猫。しっかりとしたオレンジ色の毛が縞模様に濃淡を作っている。ぴんと伸びた尻尾と耳に、くりくりとした目の輝きが元気が良いという印象をさらに強めていた。特徴的なのは、首に掛けられた綺麗な玉。おそらくは真珠の類だろう。この街の特産品の一つなのかもしれない。


『どうすか、どうすか! 初めて来たところでお困りっすよね?』


 ポチはその勢いに少し押され気味だった。


『それはありがたいなの! 猫さん、この猫さんの話を受けた方がいいなの』

『いい加減分かりづらいから、俺を猫さんって呼ぶの止めないか?』

『猫さんは猫さんなの』

『ああ、そうかい』


 何も考えてないナナはとりあえず放っておいて、ポチはカイルの提案について考える。

 じろりと尻尾の先から、ぴんと伸びる髭の一本一本までしっかりとポチは目を走らせた。その視線の強さに、びくりとカイルは身体を震わせる。


『駄目っすかね……』


 へらっと笑うカイルに、ポチはゆっくりと口を開いた。


『見返りは何だ?』

『へっ……』

『俺達を案内してお前に何の得があるかって聞いてるんだ』


 この答え如何によって話を受けるかどうか決めようと、ポチはカイルの目を見ながら尋ねる。


『俺はこの街しか知らないっす。だから、兄さんみたいに外から来た同族から話を聞くのが唯一外を知ることができる方法なんす。お礼は案内した分、外のことを教えて欲しいっす。兄さんはどこの村から来たっすか?』


 嘘はついていなさそうかな。

 やはり元気よく答えるカイルに、ポチは心の中でそう呟いた。


『じゃあ、よろしく頼もうかな、カイル。俺達は始まりの街から来たんだ。そこからここまでの道中の話ぐらいしか聞かせられないけど大丈夫か?』

『頼んだなの~。ナナも話すなの。猫さんがモンスターをバッタバッタと倒していく話とか任せてなの~』

『始まりの街からっすか……。は、はいっす! 任せてほしいっす。兄さんとえーと、妖精の姉さん』

『姉さんなんて照れるなの~』


 一瞬答えに詰まっているようだったが、カイルはすぐさま気を取り直して元気に声を上げた。ナナはカイルに姉さんと呼ばれて、ポチの背中の上で体をくねくねさせている。


『ほいっ』

『痛いなの~』


 ポチは体を揺すってナナを背中から地面に落とした。お尻から落ちたナナは、頬を膨らませながらお尻を撫でている。


『ああ、それと。俺の事はポチって呼んでくれたらいい。こいつはナナだ』

『はいっす。ポチ兄さん、ナナ姉さん』


 ここで幸先よく、ポチは旅先案内人と出会うことができたのだった。


 ***


『こっちすよー。ここがこの街名物のシェルナーラ港っす。でっかい船が毎日何隻も入って来ては魚を運んでくるっす。修羅風丸っていう船のおっさんは小さな魚を分けてくれるいい人っす』


 まず案内されたのはメインストリートの端の港。入ってきている船はどれも湖で使うための小型船だが、猫から見たら大きいのだろう。ゲームの中とは思えないリアルな漁港だ。ほとんどはNPCだが、中にはプレイヤーの姿もある。

 そして、新鮮な魚たちが市場にずらりと並べられ、買った者達がどんどん運び出していく。おそらく、始まりの街など様々な場所の料理人プレイヤーの元に運ばれていくのだろう。

 楽しそうにナナがパタパタと飛び回っている。


『市場に猫たちが集まってんのはどうしてだ?』

『あそこでも魚がもらえるッす。今日はジルの班が陣取っているはずっすね』

『この街でもやっぱり誰かが仕切っているのか。挨拶しなくていいのか?』


 運び込まれていく魚に目をやりながら、ポチはカイルに尋ねた。よだれが口元から垂れそうになっている。

 カイルの方もじゅるりと前足で口元をぬぐった。


『いや、大丈夫っす。ポチの兄さんの事はさっきすれ違った猫伝手に伝えてもらっているっす。うちのボスは外から来た猫には甘いんで、この街に居つく気がなければ気にしなくてもいいっす。どうしてもって言うなら、ご案内するっすよ』


 明るく言うカイルに、そんなものかとポチは頷いた。挨拶は長居することになったらで十分だろうと考えたポチは、今日は街の案内だけ簡単にしてくれと伝える。


『はいっす! じゃあ、次は路地裏の方からご案内するっす』


 カイルの後ろをポチたちは着いていった。

 そこから先は道なき道を通ってシェルナーラを走り抜けた。

 銛なんかを作っている鍛冶街を通ってはその熱さに驚いたり、解体場では身の丈以上の長さの包丁を構えて魚に向かい合うプレイヤーの雄姿に見入ったり。いろいろ見て行く中で、ポチが一番気に入ったのは街の中央に立つ漁業組合の建物の屋根だった。この漁業組合は冒険者組合を内側に抱え込んでおり、街を訪れたプレイヤーの多くはここにクエストを受けにくる。そんな建物は街で一番でかかった。


『これは……圧巻だな……』

『ふわ~、すっごいなの! 向こう側が見えないなの』


 屋根から見える絶景に二匹は茫然とした声を上げた。


『ここが一番湖が綺麗に見える場所なんす。絶対に見てもらいたいと思ってたんす』


 カイルが自信満々に言うのも分かる話だった。

 屋根の上から見えた湖は太陽の光を受けてキラキラと輝いていた。所々では漁をしている船が進む姿が見える。湖の反対側はここからでも見ることができず、美しい水平線が見えるだけだった。

 時折湖側から吹き抜ける風も、どこかひんやりとして気持ちがいい。

 こんな美しい景色を見て、ポチはくるりと丸くなった。


『……ポチの兄さん?』

『ふあ~あ。良いところだ。日向ぼっこには最適だ。カイル、ありが……とうな。ただ、外の……話は、また今度……ZZZ』


 ポチはそのまま眠った。この街に来る途中では良い日向ぼっこ場所が見つけられていなかったこともあり、睡眠が足りなくなっていたらしい。カイルへのお礼も早々に寝てしまった。どうすればいいのか、カイルは視線をさまよわせて、ナナに助けを求める。


『なの? 猫さんはこうなったら梃子でも起きないなの。私も寝るなの~』

『え、ちょっと。ナナの姉さんもっすか!』


 カイルは案内していた二匹が一瞬で寝てしまうという事態に慌てるが、諦めたのか一度頭を下げてからその場を離れた。

 その頭を下げた時のカイルの顔は、どこか申し訳なさそうに歪んでいた。


 ***


 日も沈み始めたころ、ポチはやっと目を覚ました。

 寝ぼけ眼なポチは、自分を囲んでいるいくつもの影に気がつく。


『あー、お前ら誰だ?』


 ポチの一言に、影が動いた。


読んでいただきありがとうございました。

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