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ネコでもできるVRMMO  作者: 霜戸真広
ギルドとモンスター
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街に向かってみた

今回で街の前までさらっと進みます。

新しい街では新しい猫たちとの出会いが待っています。


 『迷いと誘いの森』から目的地の街までに通り抜けなくてはならないエリアはおおむね二つ。『迷いと誘いの森』から続く森エリア、街道が伸びる草原エリアだ。その間にはそれぞれ出没するモンスターの系統が違うエリアもあるが、大体は二つに区分されている。

 街や村といった安全地帯以外でのログアウトは、無防備なアバターがその場に残るというデメリットがある。そのため、ポチが最初に目指すのは一番近くの村である。ちなみに、一度行ったことがある街には、街ごとに存在するいくつかのワープゲートを使用することで移動を短縮できる。

 戦闘力の低いプレイヤー等は、戦闘力の高いプレイヤーに護衛任務を依頼して次の街に移動して、ワープゲートを開放したりすることが多い。

 本来は街から街に移る場合、近いところから進めていくのが一般的である。その理由はモンスターの討伐推奨レベルの問題や、護衛の依頼金の問題だったりするわけだが。ポチはそんなことを気にした様子、というか知識がなかった。ポチが目指す湖の街シェルナーラは、本来なら始まりの街から他に二つの街を経由する距離にある。地図上での最短距離だと、確かに直接行った方が早いのだが、それには一つ問題があった。そして、その問題が今まさにポチを襲っていた。


『げっ! ナナ、逃げるぞっ! ぎゃあ、手にくっつきやがった! ああ、くそ。離れないぞ』

『気持ち悪いなの~。べとべとして飛べないなの』

『お前、そのまま俺に抱き着くな! くっつくだろうが。ぎゃあ! 尻尾に何かぬめっとしたのがっ!』


 面白いくらい慌てているポチの今の姿は、美しい毛並みも無残にべとべと。背中に抱き着いているナナも、見に纏っている羽衣が体に張り付き、胸やら尻やらが強調されてけしからんことになっていた。

 二匹を襲っているのは緑や青や、時折目にいたい蛍光ピンクまで混じったゲル状の何か。


『ああ、だからスライムは嫌いなんだ!』


 紛れもなくスライムだった。

 まんま『スライムの森』と名付けられたこのエリア一帯は、出現するモンスターがスライムのみという特殊仕様である。それだけなら正直弱いモンスターしかいない楽なエリアなのだが、問題はその数と特性にあった。


『くそ、逃げるのはなしだ。切り刻んでやる!』


 ポチはどれだけ進んでも数を減らすことのないスライム相手に逃げ続けるのを諦めて、爪を使って抗戦する方に切り替える。すぐさまスキル【能ある猫は爪を伸ばす】で前足の爪を一メートル近くまで伸ばすと、襲い掛かるスライムの波目がけて横薙ぎに振るう。見事にその一撃はスライムの波を薙ぎ払った。


『どうだ!』

『猫さん、凄いなの! この調子でやっつけるなの』


 喜ぶ二人を尻目に、スライムたちは切り裂かれたことを意に介すことも無く、すぐさま元の大きさに戻って襲い掛かった。先ほどより小さくなるどころか、さらに多くのスライムと合流して波の高さが増していた。それは人型プレイヤーの膝程。つまりはポチにとって見上げる高さの波だった。


『おいおい、勘弁してくれよ! ナナ、掴まってろよ!』

『な、なの~~~~~』


 それを見てポチは再度逃走を開始した。間違いなく全速力だ。背中にしがみついていたナナの身体が浮かび上がるほどだった。

 この森を他のプレイヤーが避ける訳。それは物理攻撃では殺しきれないほどのスライムたちが襲い掛かってくる面倒さや、窒息死というゲーム内で体験したくない死に方をさせられる事、さらには、酸性のスライムによって装備を劣化させられることもある。その上で、スライムはろくなドロップアイテムも無い。損しかないのである。

 スライムは面倒。面倒だからプレイヤーが来ない。プレイヤーが来ないからスライムが増える。さらに面倒になる。という負のスパイラルを迎えており、誰も寄り付かなくなったという訳だ。下手したら、抜け出すために森中のスライムを根絶やしにする必要があるほどだった。

 情報収集不足に嘆きながら、ポチはスライムの森を全力疾走していた。しかし、いくら走っても目の前に現れるスライムたち。

 そして、さらにポチが速度を上げようとした時だった。


『なの?』


 間の抜けた声がしたと思った瞬間、ポチは身体がふっと軽くなったのを感じた。


(これならいける!)


 さらにスピードを上げるポチ。

 その時、スライムによって手を滑らせたナナは、吸い込まれるようにスライムの塊に入り込んでいた。


 ***


『猫さん、ひどいなの! あそこはかっこよく私を助ける場面なの』

『逃げるの精一杯だったんだよ。ちゃんと掴んでなかったナナが悪いだろ』


 二匹はスライムの森を抜けていた。あの後、スライムの中に置いていかれたナナは、どうにか妖精特有の魔法で抜け出してポチに合流したのだった。かなりスライムにべとべとにされており、中々に眼福な姿になっていた。

 今は川で行水中だ。べとべとを洗い流すために、ポチの背中をナナが拭いている。


『気持ちいいなの~?』

『おお、気持ちいいぞ。べとべとしたのは取れそうか?』

『ん~、たぶん大丈夫なの』

『たぶんって……』


 少し心配そうなポチを気にせず、ナナは先ほどまでの怒りを忘れて、一生懸命体についたスライムの粘液を落としている。

 最後にポチは川に潜って身体を水にくぐらせると、ぶるぶると体を振って水分を飛ばしていく。まさしく猫のような動きだった。


『せっかく川に来たし、せせらぎの中で日向ぼっこっていうのもありだな……』


 行水も終わったころにポチがそうぼやくと、いつの間にか近くに魚影があった。


『お魚さんなの。捕まえるなの~』


 そう言って手を出そうとしたナナに気付くと、離れるどころかさらに距離を詰めてきた。そして、水面を突き抜けて一気に飛び出してきたのは、錐のように尖った角が特徴的な魚型モンスター『バレッドフィッシュ』。


『うおっ!』


 驚いたポチはナナを守る様に反射的にネコパンチで打ち返した。

 水面に叩きつけられた『バレッドフィッシュ』はすぐさま潜り直すと、再度飛びかかって来た。しかも、数を増やして。


『はっ! 魚が猫様に勝てると思うなよ!』


 ポチは啖呵を切ると、今度は爪で迎撃する。

 しかし、二匹は倒し損ねて川に戻り、再度数を増やして襲いかかって来た。


『流石にそれは多すぎる!』


 飛びかかる、打ち返すを繰り返すうちに、いつの間にかまるで雨のように降るほどに『バレッドフィッシュ』は数を増していた。

 ポチはスキル【一生九魂】によってHPが初期値で固定されている。その分八回までは死んでも蘇るのだが、弱点として手数が多い相手との戦闘が苦手だった。

 なので、ここでもポチの戦闘も逃げる一択だった。


『ナナ! 逃げるぞ!』


 ポチは即座にナナを咥えると、一目散に川を離れるのであった。


 ***


 それからも様々なエリアや、村を経由して目的地である湖の街シェルナーラに着いたのはゲーム内時間で十日後。リアルでは三日も経った頃だった。

 湖の街シェルナーラに入る関所の前にポチとナナは立っていた。


『やっと着いたな。湖の街シェルナーラに。一生着かないんじゃないかと思ったぞ……』

『大変だったなの~。スライムに襲われたかと思ったら、魚が降って来るしでドキドキしっぱなしだったなの』


 疲れた様子を見せる二匹。

 『バレッドフィッシュ』から逃げた二人は、その後道に迷ってもう一度スライムの森に入りそうになったり、辿り着いた村にいた猫たちから質問攻めにあったり、キラキラと羽衣を光らせるナナが鷲型モンスターに連れ去られたり、それを助けにポチが巨木を死ぬ気でクライミングしたり。妖精は高く売れるからとナナを狙って襲いかかって来たプレイヤーを返り討ちにしたり、ナナがちょっかいを出したことで起こしてしまった草原エリアに生息する狼型モンスターが凍える息を吐きながら迫ってきたり。


『八割以上はお前のせいじゃねえかよ! せめてモンスターにちょっかい出すのは止めろよな』

『妖精として悪戯は義務なの~。でも、流石に今回はやりすぎたなの。反省しているなの。自分にまで派生するようなことはもう疲れるからしたくないなの~』


 怒るポチも反省するナナもぐったりとしていた。お互いの言葉も聞こえているかどうかわからないほどだ。

 いつもはサラサラなポチの毛並みが、今はどこか艶を失っているようにも見える。ナナもポチに跨りながら、羽をへたらせている。


『まあ、とりあえず、目的地には付いたんだ。今日からはこの街でゆっくりと日向ぼっこの場所を探すぞ』

 

 ポチはそう宣言すると、ナナを背負ったまま街へと入って行くのだった。


読んでいただきありがとうございました。

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