目的地を決めてみた
お久しぶりです。
第二部がここから始まります。
とりあえず九話ほどはストックがあります。切れるまでは毎日投稿していきます。
旅立つことを決めたポチは悠々と街道を進んでいた。
進んで、そして思った。
『俺はどこへ向かえばいいんだ? というか、ゲームってことは倒さなくちゃいけない敵とかいるのか?』
旅立った直後森を出たすぐのところで、ポチはさっそくどこへ行って何をすればいいのか迷っていた。
ちなみに、このゲーム『楽園の休日』におけるプレイヤーに定まった目標という物はない。一応は眠りについた神を起こし、楽園を取り戻すという設定がある。ただし、これはそういう設定があり、多くのプレイヤーがそうしているというだけにすぎない。他のゲームでもそうだが、最前線で斬り合うプレイヤーがいれば、生産職としてサポートするプレイヤーもいるように、基本的には自分がしたいことをすればいい。「何にでもなれる」がウリの『楽園の休日』は自由度が高く、学校を作ってNPC相手に勉強を教えている教師プレイヤーがいれば、とあるお屋敷でメイドとして奉仕しているプレイヤーなど、変わり種も多い。
要は、自分のしたいことをすればいいのだ。
そして、ポチにとってやりたいことは一つしかない。
『敵とかゲームクリアとかそういうのは俺には関係ないか』
迷っていてもしょうがない。知らない物は知らないし、適当にプレイすればいいだろう。
ポチは迷いを一瞬で切り捨て、自分の欲望のままに進むことを決める。
『結局俺のしたことって言ったら、日向ぼっこぐらいしかないよなぁ』
ポチはゲームとは思えないリアルな太陽に目を細める。
『日向ぼっこに最適な場所を探すかぁ……』
呟いてからポチは、はたと思いつく。
『それにしても、最低限の行き先ぐらいは決めたほうがいいか』
ポチはかっこよく旅立ったはいいものの、行き先を全く決めていなかったのだ。今更ながら地図を取り出して目を通す。
この地図はローズからもらったものだ。元々は一緒に冒険しようと誘ってくれたのだが、ポチが断ったため渡されたものだ。理由はあまりにもポチを溺愛するローズが戦力にならなくなるから。修業期間にポチも、他の仲間も懲りたのだ。
ちなみに断った時、ローズは無表情のまま滂沱の涙を流していた。
あれは怖かったと、地図を見ながら思い出していたポチに、明るい声が掛けられる。
『行くならここがいいと思うなの! お魚がおいしいって聞いたことがあるなの』
『おお! 魚がおいしいってのはポイント高いな……って、何でお前ついてきてるんだよ!』
『猫さんの行くところ、私あり! なの!』
パタパタと羽を動かしながら、ナナが地図を覗き込んできたのだった。
さっき目を覚ましたとは思えない元気な姿だった。元気がありあまり過ぎていて、地図を覗き込もうとポチの首の後ろを何度も往復している。
ポチが前足で払おうとしても上手く避けられるため、ポチは気にしないことにした。
『ところで、妖精は街から出られないんじゃなかったか?』
『大丈夫なの。01からお許しがもらえたなの。そうだったなの! 01から猫さんに伝言なの。ごほん』
一度咳払いをすると、ナナはぴしっと立って真面目な顔をする。
『ナナが来て驚かれていると思いますが、どうか彼女を隣に置いてやってください。一度核が剥離した妖精がイレギュラーを起こす可能性を考慮すると、ナナをすぐに仕事に戻すことは出来ません。そのため、ポチ様の監視役とすることにしました。アホな子ですが、囮や盾の役目ぐらいはしますので、お好きにお使いください、ってことらしいなの』
『お前、厄介払いされたんじゃないのか?』
『そんなことないなの。私は出来る妖精なの!』
むふーと鼻息荒く胸を張って見せるアジア系美女妖精。挑発的な胸元が目をそそるが、やはりどこかアホっぽい。見た目は悪くないのに残念な奴である。
ポチはとりあえずナナを無視して、地図を見直す。
先ほどナナが指さしたのは、始まりの街からそう遠くない場所だ。地図に書かれている名前は、
『湖の街シェルナーラか……』
地図を見ると、大きな湖に寄り添うように街があるのが分かる。ここからだと、いくつかのモンスター出没エリアを通り抜けなければいけないようだが、それを疎んでいたらゲームにならない。それに、街と街の間にも小さな村や、宿場があるらしい。その辺りを見てみるのも十分楽しそうだった。
『意外と良さそうだな。湖の畔で日向ぼっこってのも気持ちよさそうだ。ナナの意見に従うのも癪だけど、とりあえずはシェルナーラを目的地にするか』
『流石、猫さんなの。私の意見を聞くことは正しいなの! 街についたらお魚や貝を食べるなの。頬が溶けるほど美味しいはずなのぉ……』
『頬は溶けないからな。って聞いてねえな』
もう心は湖の街で食べる物に行ってしまっているのか、ナナはポチの話を聞かずに涎を垂らしている。
『お前! 俺の背中に涎を垂らすな!』
『早くお魚が食べたいなの……』
『話を聞け!』
怒鳴りつけるポチだったが、その鳴き声はとても楽しそうに聞こえた。
『猫さんの背中はやっぱりふかふかで気持ちいいなの。少し寝るなの~』
『おい、さっきまで寝てただろ、お前! ナナ! ナナ!』
ポチの叫び声を無視して、ナナは深い眠りの中に落ちた。
『俺が背負っていかないといけないのか……』
ポチは笑いながら、ため息をついた。
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