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ネコでもできるVRMMO  作者: 霜戸真広
出会いと旅立ち
48/83

決着してみた

今度こそ決着です。

書きたいことを出し切りました。

連載を開始して一か月ちょっとでここまで来ました。第一部の最後まで楽しんでいただけると嬉しいです。

 

 呪いが禁呪扱いされているのはその準備の手間、残虐性以上に、デメリットがあるからだ。呪い返しにあったり、呪いを失敗した時、術者自身に呪いが数倍増しになって返ってくるのだ。様々なバットステータスが与えられるだけでなく、低確率でモンスターに変えられてしまう事すらあるのだ。

 呪いと混乱というバッドステータスがついたそれは、術者のレベルによってその脅威度を上昇させる。ユーリス程のレベルならレイド級と呼ばれるボスモンスターになる。つまりは、数十人で戦ってやっと勝てるといった所の強さだ。

 そんな危険なモンスターに立ち向かうのは小さな、そのボスモンスターからすれば簡単に踏み潰されてしまうほどの大きさしかない一匹の猫だった。


「ポチ! ポチだけじゃ無理よ。私も」


 恐怖から逃げ出す者が続出する中で、ローズが観客席から飛び出そうとする。


「危ない!」


 刹那が声を上げローズの頭を下げさせる。直後頭上を闇色の何かが通り過ぎた。

 そして大きな音と揺れが起こる。

 振り向くと背後がごっそりとえぐれている。本来ならリングと観客席とを遮っているはずの結界も今の攻撃で壊れてしまったらしかった。


『邪魔立てするなよ。俺がこいつを倒すと決めているんだ』


 それは先ほどのローズの言葉への答えだったか。

 ポチは未だ一人で戦う事を諦めていなかった。なぜならここで他の者が手を出せば、決闘システムは解かれ、倒したとしてもモモとナナのアイテムは手に入れられないからだ。


(この機会を逃すわけにはいかないんだ!)

「コロ……ス……マケ……ナイ」


 黒い不定型なモンスターと化したユーリスはもうどこが口かもわからないままそれだけを呟くと、体中からうねうねとした闇で出来たとしか思えない触手が幾本も現れた。

 それが一斉にポチを潰そうと伸びる。


「ニャア!」


 気合を入れたポチは触手を避ける。時折爪で切断するものの、ほとんどダメージを負わせることは出来ていない。


「コロ……ス」


 触手では潰せないと悟ったのか、今度はその体から産み落とすようにして何体ものモンスターが現れた。触れた物を腐食させる『コロードスライム』、頑丈な黒骨に鎧をまとい武器を振り回す『ダークスケルトン・ナイト』、ナイトよりも身軽でトリッキーな動きをする『ダークスケルトン・アサシン』。他にも数種類のモンスターが一気に生み出され、ポチを襲う。

 ポチは避けようとするが、あまりにも数が多い。攻めあぐねているポチに、一つ声が掛けられた。


「バトルの邪魔はさせないよ!」


 ぶん、という風を切る音がした後、リオンの振り回した鉄棒がダークスケルトン達をバラバラに吹き飛ばした。


「……『凍れ』……」

「しっしっし。手助けするよ」


 リューリューがぽつりと呟くと、体を凍らせられたスライムの動きが止まる。そこを笑いながら振るわれたリアンの爪が中心部のコアを切り裂いていく。


「私も露払いぐらいなら出来よう」


 刹那が大きく刀を振るうと、剣圧でモンスターが切り裂かれる。


「ポチ、モンスター達は私たちに任せて」


 ローズは叫びながら、他のメンバーの回復に徹していた。

 『死出誘う乙女』の働きで、ポチの前にモンスターと化したユーリスの下への道が出来る。


(ありがとう)


 ポチは心の中で感謝の気持ちを伝えると、目の前に出来た空白地帯を一気に駆け抜ける。

 それを見たユーリスはポチ目がけて結界を壊した闇色のレーザーを放った。それも一条の太い物が、幾本もの小さいレーザーに枝分かれをして襲い掛かる。


「ニャガ!」


 流石に避けきれなかったポチは真正面からレーザーを受け、思い切り飛ばされてしまう。

 HPが零に下がったかと思うと、すぐにマックスに戻った。


(あと6回か)


 ポチは冷静に後自分が死ねる回数を数えていた。

 ポチが闘うために新たに生み出した特殊スキル【一生九魂】。猫は九回生まれ変わることが出来るという迷信を元に作り出したこのスキルの能力は明快だ。HPが零になった時、九回までHPを全快にして蘇るというものだ。さらに、蘇るたびにステータスが上昇する。

 手に入れたSPをほぼ使い切る形で生み出したこの反則級のスキルだが、その分ハンデがあった。HP数値の初期化と固定化。種族猫ではほとんどHPは上昇しないとはいえ、ポチは今後のHPを切り捨てたのだ。

 つまり、ポチにとってほとんどの攻撃が一撃必殺の威力を持っていることになる。

 だが、逆を言えばそこらの雑魚モンスターの一撃も、目の前のボスモンスターの一撃もポチにとっては同じ一撃でしかないのだ。

 ユーリスに背後から剣を突き立てられた時も、真正面から斬り伏せられた時も、このスキルで生き残ったのだ。


(レーザーは避けられない。それなら次のレーザーを受けた瞬間が勝負)


 ポチは飛ばされた距離を詰めるように走る。襲い掛かってくる触手を避け、その時を待った。


「コロ……ス」


 その時が来た。

 ユーリスだったモンスターが先ほど同様にレーザーを放つ。幾本にも枝分かれしていく中で、なるべく弾幕の薄そうな位置に爪をリングに突き立てて飛ばされるのを耐える。

 レーザーが終わるまでに二度、HPが零になった。


(あと4回!)


 心の中で数えながら、幻惑するために大量のポチの幻を【猫騙し】で作り出す。

 数の多さに一匹当たりの触手密度は減る。そこをポチは駆け抜けていく。

 避け損ねた触手が体をかすった。それだけでHPが零になる。


(あと3回)


 闇色の身体から手裏剣のような物がいくつも飛び出してきた。上昇したステータスを頼りに無茶をしてでも突破する。


(あと2回)


 足元から闇が槍のようになって飛びだしてきた。ポチは足を止めることなく、槍の合間を抜けていく。しかし、闇槍からさらに枝が生えるようにして、もう一本の槍が飛び出してくる。避け損ねて串刺しにされながら、無理矢理体を槍から抜いてモンスターの足元にまで迫る。


(これで一発でも喰らったら終わり。でも、殺れる!)


「コロ……ス」


 そう思った時にその呟きが漏れた。

 レーザーが打ち出される。


(遅かったか!)


 そう思っても、ポチの足はもう止められない。この至近距離でレーザーを全て避けることは不可能だ。

 もう少しで攻撃が届くという所で、無慈悲にもレーザーが放たれる。

 HPが零になる。


(ごめん、モモ。ごめん、ナナ。俺の爪は届かなかった)

『大丈夫だよ』


 どこからか優しい声がした。


「ポチが……」


 そのことに最初に気がついたのは戦況を把握し、全員のHP管理をしていたローズだった。

 次に刹那や闇丸、他のメンバーが気付いた。

 奇しくも最後に気がついたのはポチだった。


『モモ、まだお前は俺を守ってくれるのか』


 ポチはその大きな瞳から涙を流した。

 レーザーはまるで何かに弾かれるようにして、ポチを避けていく。


「オマエ……コロ……シタハズッ!」


 ユーリスだったモンスターが叫んだ。


『これで終わりだ!』


 レーザーを弾いたポチは【猫被り】でその姿を変えていた。巨大な体に雷光を纏い、まるで新雪のような真っ白とした毛、その中で左前足の一点だけが黒い。紛れもなく『迷いと誘いの森』のボスモンスター、白虎。まさしくモモの姿にポチは変わっていた。


『ありがとう、モモ』


 首のところで『モモの心結晶』が輝いていた。

 このアイテムが姿だけでなく、能力までモモのそれをポチに与えていた。


『お前が馬鹿にしたモモの力で、悔やむ間もなく死ね!』


 電光を纏って振りかぶられた爪撃は、頭からユーリスだったモンスターを切り裂いた。まるでポチ自身が雷になったかのように、地面に着地する間に何度も何度も雷光が走る。

 現在のトッププレイヤーを一撃で戦闘不能にする威力の攻撃が都合九十と九。いくら強靭なモンスターでも耐えきることは不可能だ。


「ガアアアアアアアアアアア」


 モンスターは耳を抑えたくなるような悲鳴を上げたかと思うと、その姿を光に換えて消え、意識を無くしたユーリスが残された。

 最後の一撃で全てを使い果たしたポチは、元の姿に戻りぱたりと倒れる。

 空にポチWINという文字が流れ、ユーリスからポチにアイテムが移動するという気の抜けたアナウンスが流れた。


(仇を取ったぞ、モモ、ナナ)


 意識を失っていくポチは、何か柔らかい物に抱きしめられたのを感じて意識を失った。

読んでいただきありがとうございました。

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