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ネコでもできるVRMMO  作者: 霜戸真広
出会いと旅立ち
44/83

大会に出てみた

ポチの旅立ち編も佳境に入ってきました。

ユーリスとのバトルは次回からになります。


 うおおおおおおおおおおおおおおお。

 一歩闘技場に入ると、観客たちの歓声が耳に飛び込んできた。コロッセオを参考に建築家プレイヤーが製作したというこの闘技場は、中央に置かれたリングを中心に円形に広がり多くの観客を動員することが出来るようになっている。運営側が使用することもあるという特別な会場だ。

 そしてその闘技場の一角には豪奢な椅子が用意されている。そこに座ることが出来るのは勝者のみ。

 ユーリス……。

 今そこに腰を下ろしているのは、前に街で見た時と変わらない気障な鎧姿の騎士だった。

 出来ることならすぐにでも跳びかかってやりたい。

 そう思いながら、ポチはリングに上がる。


「みんなー、これから『第十二回始まりの街バトルカップ』、Aグループ第三試合を始めるよ! 解説兼審判はアイドルプレイヤーのリコが引き続きお届けするよ♪」


 リング上ではエルフ族を選んだプレイヤーが、きわどい服装をしながらマイクを持っている。何でも売出し中のアイドルだとか。


「はっ、こんなチビが俺の敵だと。舐めるんじゃねえぞ」


 まだリコがマイクパフォーマンス中だというのに、ポチの相手となる男は声を上げた。額から突き出した鬼の角が際立つ男は二メートルほどの長身に、引き締まった体、纏う防具も一級品な上、手に持つ鎖付き鉄球もかなりの重量を誇っている。

 それに比べてポチは今ケットシーの姿に外套を羽織っている。いきなり四足で歩いて登場するわけにはいかなかったからこその姿だが、身長は小人族よりさらに小さい。


「典型的な脳筋だな」

「何だと!」


 鬼人はポチの安い挑発に簡単に乗ってきた。


「えっと、よく分かんないけど、もう紹介始めちゃうよ。赤コーナー、種族は鬼。その剛力で振り回される鉄球の威力は竜の鱗もへこませる。『鬼鉄』ダダン」

「お前に賭けてんだ!」

「そんなチビに負けんじゃねえぞ、ダダン!」


 そこかしこで歓声が上がる。二つ名もあるし、それなりに有名なプレイヤーらしい。


「続いて青コーナー。えーと……情報なしってどういうことですか~。あ~ん、アドリブ苦手なのに。えっと、全てが謎に包まれたプレイヤー、その名はポチ?」


 何故か疑問形だった。


「締まらないぞ! ヘタクソ!」

「あ~ん。私へのやじはご遠慮願います~」


 リオンが文句を言って、大きくブーイングの声を上げる。他の観客たちもその名前にポカンとしている。ポチという名を聞いても、誰も一時期話題になった黒猫の姿を思い出せないようだった。

 豪奢な椅子に座り優雅に見つめているユーリスだけが、一人楽しそうに笑っていた。


「もう、さっさと始めましょう。それでは両者準備はいいですね! では、決闘(フェーデ)を開始してください」


 締まりも悪く戦いは進められる。ダダンとポチの間で決闘が承認される。ルールは全損ルールだ。その瞬間、ポチは装備していた外套を脱ぎ、姿を元に戻した。

 リングの上に黒猫のアバターで姿を現したのだ。

 会場中が一度静かになり、それから慌ただしくなった。


「おい、あれなんだ。猫だぞ、猫」

「猫ってことは使い魔か? 飼い主どこだよ」

「でも名前が出てるわよ、プレイヤーなんじゃないの」


 ざわざわと会場中が騒がしくなる。ポチの登場に皆が驚いているようだった。


「ハ、ハープニング♪ 何と情報なしの謎プレイヤーポチ選手は、人じゃなくて猫なのでした。リコも驚き! さあ、どんな戦いを見せてくれるのかな。それでは、決闘スタートです!」


 開き直ったリコの明るい声に促されるように、隙だらけでポカンとしていたダダンも我に返ったようだった。


「へっへっへ、よく分からないが、ついてるぜ。最初の敵が弱そうな猫ちゃんでなっ!」


 ダダンは嗜虐的な笑みを浮かべながら、鉄球をぶんぶん振り回し始めた。次第にスピードを上げた鉄球は、ポチ目がけて解き放たれる。

 そのタイムングを狙ってポチはくいっと前足を動かした。


「ぬっ!」


 【招き猫】によって引き寄せられたダダンは、自分がぶん投げようとした鉄球に引っ張られる形で前のめりに倒れる。ただ流石に倒れ込むことはなく、右足をとっさに前に出してバランスをとった。


『それで十分だ』


 一気に跳び出すと、敵の懐にまでしっかりと入り込む。人は自分の足元を攻撃する方法を想定しない。なぜならそこに敵が入り込むことはほとんどないからだ。そこはプレイヤーの大きな死角になっている。

 だからこそ、ポチはそこまで深く潜り込む。


「っのやろ。これで潰れろ」


 ダダンは投げるのを諦めた鉄球を、鎖の持つ位置を変えることで地面に擦れるように回転させ、その勢いのままでぶつけようとする。

 人が両手で抱えて持つのが精いっぱいな大きさの鉄球だ。ポチからすれば背丈よりでかい鉄の塊が迫ってくるのと同じ。その圧迫感は計り知れない。

 リングを削り、土ぼこりが上がる。

 喰らえば一発で死ぬという所で、さらにポチは足を前に送る。逃げるのではなくダダンの股下を抜けるように突っ切って、鉄球の攻撃範囲から外れる。


『【能ある猫は爪を伸ばす】!』


 スキルで爪を伸ばし背後からダダンの首筋を狙って爪を振るう。

 爪はとっさに動かしたであろう鎖による防御ごと、その首を切り裂いた。さらに空中にいる間に都合十回の爪撃を繰り出す。

 切り裂かれた鎖が地面に落ちて、カランと冷たい音を立てた。


「何が……起きた……」


 あまりにもあっけなくやられたことに不思議を隠せないという顔をして、ダダンは光を出して消えて行った。特殊設定でここで負けた者は控室に戻る様になっているのだ。

 着地を決めたポチは、そのまま何も言わずリングを降りる。

 かなり遅れて、


「ば、番狂わせです。ポチ選手が『鬼鉄』ダダンに圧勝。決着まで何と七秒。大会新記録ですよ♪」


 キャピキャピうるさい声でリコが叫んだ。興奮しているのか、ぴょんぴょん跳びはねている。

 入場口に戻ると、リオンとローズが俺を出迎えてくれていた。


「お疲れ様」

「ポチ、強かったね」


 ローズは心配した様子で両手を胸の前で組み祈っている。彼女は今日のことを最後まで反対していたのだ。

 悪いとは思っているが、でもポチはこの四本の足で進むと決めたのだ。


「楽勝だった。これもローズやリオンに鍛えられたおかげだな」


 ポチはケットシーの姿を取ると、ローブをしっかりと被った。猫の姿はあまり人に見られたい物じゃないから、隠したいのだ。


「ほら! ここはおめでとうのキスだろ。ほら、早く」

「な、そんな。で、できるわけないでしょ。はしたない」

「猫にキスすることのなーにがはしたないのかな。想像力たくましいローズちゃん」


 二人は楽しそうに話しているが、そのくせ周囲の警戒は怠っていない。

 なぜならユーリスがどこで仕掛けてくるか分からないからだ。


『やるだけのことはやったはずだ……』


 ポチはユーリスと闘うために、大会を勝ち進むのだった。


読んでいただきありがとうございました。

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