決着してみた
刹那とユーリスの戦いが決着です。
もっと刹那は戦わせてあげたいけど、長くするのもよくないのでここで終わりです。どこかで絶対に刹那の戦いをまた書きますので、こんな敵がいいとかありましたら感想やメッセージをください。お願いします。
今度は刹那の方から間合いを詰めた。彼女の戦い方はまるで出先を見せない静の剣で構えて相手を誘い出すかと思えば、急激に荒々しい動の剣へと変化し相手に攻撃させるまもなく斬り捨てる。静から動、動から静への移り変わりと、止まることなく繰り出されるその剣技は舞っているようだと称賛される。
それに対してユーリスはここにきて騎士のスタイルに変わった。先ほどまでの素早い動きが一転、大盾によって相手の攻撃を弾きバランスを崩したところに攻撃を入れるという騎士らしい動きだ。その堅固な守りと、カウンターの一撃の大きさが特徴だ。
刹那が真っ向から刀を振り下ろすのに合わせて、ユーリスは大盾を押しやる。タイミングが一致すれば相手の武器を弾いたり壊したりできる、一般スキル【盾術】の技シールドバッシュだ。
繰り出された技を予期していたかのように、弾かれた勢いのまま刹那は絶妙な足運びでユーリスの左側、つまり今大盾を押しやったことで守りが薄くなっている側に入り込んだ。その位置ではユーリスの剣は自分の身体が邪魔をして届かず、盾も引き戻すのに時間がかかる。
絶妙のタイミングと場所で刹那の刀が、先ほど同じ軌跡をたどってユーリスの首元目がけて下から跳ね上がった。首を逸らすが、今度は切っ先がかすめる。
「よっしゃ! 刹那さん、そんな奴切り刻んでやれ」
リオンの声に応える様に、振り上がった刀は一気に落下を始め、再度ユーリスの首筋を狙う。
その攻撃を大盾振り回すことで強引に避けると、体の向きを入れ替えるようにしてユーリスは右手の剣を突き出す。
刹那はギリギリでそれを避けたはずだった。
ぐっ、苦しみの声を上げて、刹那は距離をとった。よく見ると脇腹を負傷している。このゲームでは過度な痛みはないにしても、それでも怪我は軽い痛みと違和感を覚えさせる。
刹那のわき腹を襲ったのはユーリスによる光魔法である。タメが短かったからか貫通するほどの威力はないが、それでも刹那の動きを止めるのに十分な威力はあった。
「思ったよりもダメージが通らなかった?」
「騎士の姿になっておきながら、それでも卑怯な手を使うのか!」
ユーリスの動きの変化を察した刹那が、瞬間的に体を逸らして大半の魔法を外したことで、ダメージをどうにか軽減させていた。
ユーリスは騎士職ながら、本来は補助魔法である光魔法を攻撃用にチューンアップし、中遠距離からは高威力のレーザーを、近距離では身体能力や武器への属性付与と一つの魔法で多彩な技を組み上げる戦いをする。『聖騎士』という二つ名は、その光魔法と剣技の融合によって名付けられたのだ。
ここに来て一気に二人は勝負に出る。
今までは多用していなかった光魔法による中遠距離攻撃に加え、大盾を利用して間合いを詰めさせないように立ち回るユーリス。
逆に『剣姫』は光魔法を嫌ってか、その速度を上げてユーリスとの間合いを詰める。一瞬の間に放つ斬撃の数も増し、その剣舞も次第に苛烈になっていく。光魔法を使わせる余裕を奪う過激さだ。
それはまさしく剣を扱うトッププレイヤーの熾烈な決闘だった。
ギャラリーとなったポチたちは声を出すことすらできず、一瞬の動きも見逃すまいとその動きに心を奪われていた。
しかし、そこでユーリスの動きにブレが見えた。あまりの手数の多さのためか、大盾の中に身を隠して防戦一方になる。そこを逃す刹那ではない。大きく踏み込むと、相手の防御の上から攻撃を与える侍の剣技、【剛波撃】を縦一文字に繰り出す。それはユーリスを真っ二つに切り裂いたかのように思われた。
「残念!」
そのむかつく言葉と共に、斬捨てられたはずのユーリスの姿はすっと消える。【虚光魔法】で幻影を作り出し、間合いを誤認させたのだ。そしてバランスを崩した刹那を手に持った剣で袈裟懸けに斬る。
「くっ」
何とか左腰の鞘を抜き放ちユーリスの剣を受け止めた刹那だったが、受け流されるはずだった刃は鞘をするりと抜けて、刹那をそのまま斬りつけた。
装甲の薄い刹那には使われないだろうと思われていた、ユニーク武器『透過刀鎧通し』による攻撃だった。【虚光魔法】で刀を剣に見せかけていたのだ。ダメージは少ないが、それでも積み重なれば無視できないダメージになる。
「はは、やっと僕の愛刀のお披露目だ。透過刀鎧通しで押して参るってね」
「騎士のくせして良く言う。そのようなだまし討ちが何度も効くと思うなよ」
そう強がりを言いながら刹那は焦っていた。おそらくはあの大盾に身を隠した瞬間に、元々の剣を透過刀鎧通しに入れ替えたのだろうが、幻影を被せられているためそれを見分ける方法がない。もし普通の剣ならば受け流しで対処しなければいけないが、透過刀なら全て避けなければいけない。
(後者の方法ならどちらの攻撃にも対応できるが、それでは間合いを外すことになって光魔法の良い的だ。どうする?)
ここから戦闘は一気にユーリスに傾く。【虚構魔法】による攪乱、剣のスイッチ、中遠距離での光魔法。騎士の鑑のような姿でありながら、その戦い方はまるで騎士らしくなかった。騎士の姿になってからが、暗殺者としてのユーリスの本領発揮と言えるのかもしれない。
遂にその戦いにも決着はつく。
「特殊スキル【圏】」
仕掛けたのはもうHPの残り少ない刹那。前方から発射される光魔法のレーザーをすり抜けるようにして前へ突っ込む。それと同時に彼女を中心とした半球状の結界が生み出された。特殊スキル【圏】は、その半球内全てを知覚することを可能とする領域型スキルである。
そのため、先ほど放たれたレーザーがまるで何かに反射したかのように戻ってきたときも、まるで背中に目があるかのように避けてみせた。
ユーリスの方は守りきるつもりなのかそれとも先ほど同様に幻影なのか、また大盾の後ろに隠れてしまう。
「今の私の前で幻影は意味がないぞ! 抜刀スキル【一刀両断】」
そう言い放つと、幻影を無視して【圏】によって把握した後ろの本体目がけて大上段から斬りつける。
「いや、これで終わりだよ、刹那」
ユーリスが高らかにそう言うと、刹那の身体が幻影に触れた瞬間、スラムを圧倒的な光が照らした。
「あっ!」
見ていた誰かの悲鳴。光が落ち着き、ようやく目が慣れてきたとき、その場に立っていたのはユーリス一人。刹那は着物を焦げさせ、体中にダメージを負って片膝をついていた。そんな満身創痍の状態でも、刀だけはその手に握られている。
「おお、あれで生き残ったのか。僕特性のフラッシュボム。幻影に触れた瞬間に爆発して、指向性のレーザーを近距離からぶつけるんだけどね。跡形もなく消し飛ぶはずだったんだけど、まさかレーザーまで受け流せるとは想定外だった」
でも、これでお終まいだ。
何とか意識を保っている刹那目がけて、ユーリスの剣が振り下ろされた。
ユーリスWIN、という文字が空中を流れた。
『勝者はユーリス様です。取り決めに従い、刹那様の設定されたアイテムをユーリス様に移します』
音声が流れると、刀を地面につき肩で息をしている刹那から、何か光のような物が抜け出してユーリスへと飛んで行った。
刹那は負けたのだ。
読んでいただきありがとうございました。
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