妖精の頼みを受けてみた
短めです。
バトルに入るまでの小休止部分として、これと併せて今日はもう一話短い話を12時に投稿します。
そちらも読んでください。
少しお待ちくださいというと、少ししてミミはその部屋に姿を現した。
妖精だけが使える移動系スキルらしい。
驚きの声を上げるローズたちをちらりと見ると、ミミはポチの方を向いた。
「ポチ様、この方たちには退出していただくように言ってもらえないでしょうか」
「おい、どういう意味だ。俺達には聞かせられないって言うのか」
リオンが喧嘩腰に話しかけるが、刹那さんがそれを止める。
「やめないか。ミミ君とか言ったね。君のする話は私たちは聞かない方がいいんだね」
「肯定します。運営上のことですので、話すのは当事者たるポチ様だけにお願いしたいです」
どういう事だろうか。ポチはよく分かっていないが、刹那さんは了解したと告げてみなを引きつれて出て行った。
「話が終わったら教えてくれ。ユーリスのことについてまだ話さなくてはならないことがいくつかある」
それだけ言い残して。
部屋にはポチとミミだけが残った。もうニールの姿を借りる必要もないから、元の体に戻す。
『それで話って何だ。そういえば、ナナはいないのか。モモと違ってあいつはリセットされないんだろ』
いつもなら、なの~とか言いながら泣きついてくるナナがいない。ミミにおいて行かれたのだろうか。
『……そのナナについて話があります』
そう言ってミミが話したことは、再度ポチを怒りに向かわせた。
『……ナナが目を覚まさない、だって……』
それは耳を疑う言葉だった。
『どういうことだ! 妖精たちはモモみたいなモンスターとは違って、プレイヤーみたいに死んでも元に戻るんだろ。だったら、目を覚まさないってどういうことだよ! それに、妖精には最高の防御スキルがあるんじゃないのか。どうしてナナは殺されたんだ……』
叫ぶポチを落ち着かせるように、ミミはゆっくりと説明する。それはじれったいと感じるほどだった。
『私たちには核となる部分があります。人で言うのなら魂とでも言えばいいのでしょうか。我々の学習した成果をため込んだ、私たちの中心となるプログラムです。それがアイデンティティと言ってもいいでしょう。それがあることで、私たちは復元された時に自己の同一性を保つのです。ですが今のナナにはそれがないのです。それと、もう修正されましたが、バグが発見されました。防御無視のとあるユニーク武器の攻撃は、私たちの防御すら突破するようになっていたようです』
ミミは淡々と、溢れだす物を我慢するように話した。
それを聞いて、ポチは頭が真っ白になるのを感じた。
モモだけでなくナナまで失ったのか。
自分のしでかしたことの愚かさに反吐が出る。
自分で自分の事を殴り殺してしまいたいほどの、悔しさだった。目の前で光に消えて行ったナナの姿がフラッシュバックする。
『おそらくナナの魂はドロップアイテムとして、敵の手にあると考えられます。だから、だからどうか!』
今まで、ギュッと我慢していた感情を吐きだすようにしてミミは叫んだ。普段のクールな様子はどこにもない。幼い見た目相応の必死さがあった。
『私の妹を助けてくれませんか。お願いできるプレイヤーは、ポチ様しかいないのです。どうか、どうか、この通りです』
ミミは妖精という小さな種族の、その中でもさらに小さな体を震わせて頭を下げている。きっと彼女も悔しいと思っているのだ。ミミには何の原因もないのに。
『ああ、敵討ちの理由が増えたな』
『それでは』
期待の目を向けるミミにポチはしっかりと頷いた。
『俺が、絶対にナナの魂を取り戻す。俺はナナに、そしてモモに救われたんだ。それなら、その恩を返さないといけない』
泣きついてくるミミを抱きしめながら、ポチはさらにユーリスを倒す覚悟を決め直すのだった。
『ミミ、お願いがあるんだ』
ユーリスに向かい合う前に、ポチは一つしておきたいことがあった。
***
『ここです』
ミミがポチを連れてきたのは妖精の集う湖の端にある、花畑の一角。そこには透明なカプセルが浮かんでいる。その中にはナナが眠っていた。
ポチが頼んだのは、ナナを一目見たいという物だった。
『ナナ……。俺を守ってくれてありがとうな』
カプセルに入れられたナナは、東洋系のつんとした顔立ちもあって神秘的だった。普段の言動からは感じられないその雰囲気に、本当に意識がないのだと確認させられた。
『お前はやっぱり馬鹿みたいに騒いでいる方が似合ってるよ。だから、絶対お前の魂は取り戻す。そしたら、また馬鹿な顔して笑ってくれよ』
ポチはそれだけ言うと、カプセルに右前足で触れた。
それはまるで何かを誓っているかのようだった。
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