告白してみた
ついにポチの正体がローズたちにばれます。というか、ばらします。
ログインして一番に目に入ってきたのは誰かの頭だった。息が出来ているか心配になるほど、完全に俯せになっているため顔は確認できない。猫耳がぴょこぴょこしているのが目に映ったから、おそらく猫人のプレイヤーだろう。
どうやら寝ているようだから、起こさないようにそっと立ち上がる。その時の足の裏の感触で分かった。ポチが今いるのはベッドの上らしい。
(俺の予想では殺されて大神殿に死に戻りしているはずだったんだが。もしくは確率は低いけど、まだ森の中だと思ったんだけどな)
どうもポチの予想は外れたらしい。ここは目の前に眠る者が住む部屋だろうか。至る所に猫をかたどった製品が置かれている。
「やっと、目を覚ましたのかい」
十中八九そうだろうと思っていた猫耳の主の名が、ドアを開けて入ってきた人によって確定した。
『リオン』
入ってきた少女の名を呼んだ。片手に果物の入った皿を抱えながら、寝ている猫耳の主を指さしてから、口元にその指を持って行った。
起こさないように静かにしろという事らしい。ポチはぱっと口元を押さえて頷いた。
「ああ、やっぱりそうなのか。……ローズが悲しむかもな」
片手で頭を押さえるようにして、リオンは意味の分からないことを呟いた。
そして少し考えたかと思うと、ポチを見つめた。
「ちょっと来てくれないか。ポチ」
リオンの真剣な顔に、ポチはその提案を断ることが出来なかった。
ここじゃローズを起こしちまうから、とリオンの部屋に移った。
リオンの性格を表しているのか、ローズの部屋に比べ物が少ない。落ち着いた雰囲気の部屋だった。
「話というのはあれだ。ポチ、お前プレイヤーだろ」
なんとなく甲斐の時と同じ雰囲気だったからこの質問が来るのではないかと考えてはいた。だから、ポチはその質問に狼狽えることなくいられた。
認めなければ相手が確信を持つことはないだろう。前なら逃げ出していた。教えてしまう事で今の関係が崩れることを恐れた。
でもそのせいでモモたちは死んだ。敵討ちをしたいとそう思うけど、一人でできることではない。だから仲間を作らないといけない、ポチはそう思っていた。
問題はリオンが自分を襲った刹那と同じパーティーのメンバーだという事だ。
(もし刹那の仲間なら、俺を助ける義理がない。ここに連れてきて看病してくれるなんてことはしないだろう)
そんな甘い考えと、リアルで話したローズの姿を思い出し、ポチは自分のことを彼女たちに話そうと思った。
「ああ、黙っていれば大丈夫とか思うなよ。ローズはお前さんを見つけた三日前からほとんどずっとログインしっぱなしで、あんたのこと看病していたんだ。それはもう、ボロボロの傷だらけだったあんたを見た時のローズの様子ったら見てられなかったよ。これだけの恩を受けておいて正直にならないようなら、拷問の一つや二つは覚悟しろよ」
それに殺気ぎらぎら流した目の前の少女から逃げられる気がしない。流れるはずのない汗が流れているように感じる。
「いや、拷問は必要ない。きちんと話がしたいと思っていたのは、俺の方も同じだからな」
何度も姿を借りてすまないとニールに心の中で謝りながら、黒猫の姿からケットシーの姿に変化させ、人の言葉を話した。あくまでもロールプレイに徹していたかったからだ。
この世界では猫として生きる。そうしてきたから出会えた友がいるからだ。
「マジか……」
リオンは姿を変え、言葉を使ったポチを見て驚きの声を上げた。
確信を持っていたのではないのか?
「九分九厘そうだとは思っていたけど、本当にそうだとやっぱり驚くわ」
「そうか。にしても、そんなに分かりやすかったか、俺の猫プレイ。ばれないようにしていたつもりだったんだけど」
「ああ、それは自信持っていいと思うぞ。先入観が強いってのもあるけど、普通はばれない。あたしの場合は気絶状態になっているあんたの姿にぴんときたんだ。NPCとプレイヤーとじゃやっぱり違うからね。そこに違和感が一つ。決め手はさっきかな」
そう言って口元で人差し指を立てる。
「いくらなんでもこれで静かにしようとする猫はいないだろうと思ってね」
「それは……盲点だった」
確かに言われてみれば、という事だ。気を付けよう。
「それじゃあ俺のことについて聞いてもらいたいことがある。それに助けてもらいたいことも」
できればローズもこの場にいて欲しい。
その言葉にリオンは最初、ローズが悲しむと反対していたけれど、最後には折れてくれた。
結局ポチは刹那を除く『死出誘う乙女』のメンバーを前にして、まず今まで隠していた正体のことも含めて今日にいたるまでのことを話した。完全獣化アイコンを偶然発見したこと。ログイン直後にローズと出会った事。ゲリライベントでの優勝。ナナやモモとの出会い。そして、あの刹那によってはめられたこと。その全てを包み隠さず話した。
「そんなものが!」
「ニシシ、ふざけてるね」
「……まさしく……ファンタジー……」
各々が驚きの声を上げる中で、ローズだけが一人何もしゃべらなかった。
(やっぱりショックが大きいよな。これでクラスメイトってことまで言うと、本当にやばそうだからやめておくか)
「ああ、ローズのことは心配しなくてもいいぞ。どうせ、お前が男プレイヤーだって知って、今まで自分がしてきたことがはしたないとか思っているだけだから」
「リ、リオン! な、なんてことを言うの。ポチ、違うのよ。私は胸にぎゅっと抱きしめたのはまずかったなとか、もうばらされたってことはポチをさわさわ撫でたり、喉をゴロゴロさせたりできないのかな、それは嫌だなとか、そんなことはこれっぽっちも思っていない。思っていないよ」
そう一息に捲し立てたローズに、仲間たちから声がかけられる。
「ニシシ、自爆乙」
「……ツンデレ……可愛い……」
完全な追い打ちを受けて、ローズは顔を赤くする。
リオンはローズたちを無視して、ポチに向き直る。
「あたし達の事を信用して、重要な秘密を話してくれてありがとう。それでこっちもお前さんに話さなきゃいけないことがあるんだ。驚かないでくれよ。入って来てくれ、リーダー」
ポチが何か言い返す前に、リオンはそう言った。そしてゆっくりとドアが開けられて、誰かが入ってくる。
「よくも、よくも俺の前にのこのこ出てこられたな!」
入ってきたのはポチを囮にモモを罠にかけ、最後にはナナすらも殺した刹那だった。この前とは違い、口元を隠すバンダナはしていない。
ポチは激情のまま人の言葉で叫び、しかし、冷静に場を見てもいた。
(全員グルだとしたら、ここで戦うのは得策じゃない)
騙されたとか、自分が甘かったとか、今は反省している場合ではないと判断したポチは、すぐさま臨戦態勢をとり、ここは一旦逃げようと窓へと走る。驚いた事にそれに対して即座に動いたのはリューリューだった。
「『右足』……『止まれ』……」
たった二語の呪文。放ったのは黒いローブを被り、ぶつぶつとしゃべる魔法使いの少女だ。そしてポチの右足はその言葉通りに動きを止め、バランスを崩したポチは窓にたどり着く前に倒れてしまう。
「落ち着いて、ポチ。リーダーはポチを襲ってなんかいないの」
ローズは倒れたポチに回復魔法をかけながら、どうか信じて、と頭を下げた。
もう逃げられない、そう悟り、ポチはとりあえず話を聞くことにした。ローズの手からするりと抜け、全員の姿が視界に入るベッドの上に陣取る。
「……説明しろ。どういうことか」
ポチは刹那へ向ける怒りの視線は緩めない。
刹那はベッドの上に座るポチに目線を合わせるように、正座を組んで話し始めた。
「私の知っていることを全て教えよう。信じられないかもしれないが聞いてほしい。君を襲い、君の友人を倒したのは……『聖騎士』ユーリスだ」
いきなり出てきたユーリスの名に、ポチは訝しげに顔を歪めた。
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