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ネコでもできるVRMMO  作者: 霜戸真広
出会いと旅立ち
35/83

別れを強要されてみた

*2月20日にサブタイトルと内容を若干変更しました。

GM権限云々が妖精特有のスキルに変わっています。

 そろそろプレイヤーの未踏破領域が近づいてきたところで、モモは急に動きを止めた。


「ああ、追いつくのに時間がかかってしまったな」


 投げ出されそうになるポチを無理に庇うようにしてモモは倒れる。その時ポチが見たのは、モモを貫く刃と、緑の髪をたなびかせるエルフの姿。


「これで死んだな。呪いによってHPはどんどん削られているだろう。もって一分」


 刹那の俺達を見つめる目からはその大きな嗜虐心が透けていた。


「だけど、まずはポチに死んでもらおうか。自分のせいで白虎が死んだと嘆き悲しんで死んで行け。白虎もお前を護りきれなかったと後悔してから死んでいく。まあ、ここはゲームだから、あの世で逢うことはないけどな」


 自分で言ったことに自分で笑って、刹那は刀を下に向けて構えるとポチ目がけて振り下ろした。

 ああ、死ぬ。そう思った時、その姿は目に映った。

 もうやめてくれ。俺のことは放っておいてくれ。そんなポチの懇願が聞き届けられることはない。


「猫さんをいじめちゃ駄目なの~」


 その底抜けに明るい言葉と共に、ナナはポチと刀の間に飛び出してきた。光り輝いて見えるのは、おそらく妖精特有のスキルで発動させた防御魔法なのだろう。幾重にも魔法陣が重なり合ったそれは、本来なら如何なる物理・魔法を問わず跳ね返す力があった。非力な妖精に与えられた数少ない戦闘向けのスキルである。


「……なの?」


 しかし、結果は無残にも刀がナナの体を貫いた。小さな疑問の声を残して、その姿は光の粒となって消える。ポチを貫くはずだった刀はナナに当たったことでその体から数ミリ逸れていた。

 その刀はスキルで作られた壁を通り抜けたのだ。


「何だ、今のは。くそっ、今の光でモンスターが引き寄せられてるな。流石にこのゾーンのモンスターに無策で当たるのは危険だな。おい、猫。お前の始末はこの森のモンスター共に任せることにする。もうじき消える隣のデカいだけの白猫にお別れを言っておくといい」


 それだけ言うと、刹那は闇に消える様に姿を消した。

 森の中に残されたのはポチとモモ。ポチの体は麻痺したままで、動くこともしゃべることも出来ない。この位置からでは満足にモモを見ることも出来ない。


『ごめんね』


 弱弱しいモモの声がした。

『護れなくて、ごめんね』

(違う。モモは悪くない。俺が、俺が浅はかだったから)


 言葉を返したい。謝りたいと思うのに全く声は出なかった。涙だけが、涙だけがこぼれる。


『楽しかったな。ポチと一緒に入れた時間。僕の知らない外での話を一杯聞かせてくれて、モモっていう名前まで僕にくれて』

(やめろ、やめてくれ。もう死んでしまうかのような、そんなことを言わないでくれ)


 しかし、ポチの思いが届くことはない。現実同様にゲームもその無慈悲さは変わらない。


『できればもっと一緒に居たかったな』

(俺、俺だって、もっとモモと一緒にいたかった。たかがゲームだと思っていたのが、ナナやモモと出会って変わったんだ。日向ぼっこしか楽しいと思えることのなかった俺が、お前たちと一緒の時は本当に楽しいと思えていたんだ)

『僕はただのAIでしかないけど、ポチは僕のことを友達と思ってくれてた?』

『当たり前だろ!』


 意地で。もうそれしか言いようのない意地でもって、ポチは口を動かした。体の他の部分はまだ動かないけれど、それでも懸命に桃に自分の言葉を伝えようと。

 モンスターとプレイヤーという垣根など関係ない。人じゃないAIだからとか関係ない。


『俺とお前は親友だろ』

『そっか。良……かっ……た』

『おい、モモ……。おい。聞いてんのかよ、モモ。話をしよう。何でもいい。そうだ、今日お前に話したいことが……』


 返事は返ってこない。体に感じていたモモの存在も無くなっていた。


『嘘だ。そんな、モモが、ナナだけじゃなくて、モモまで……。信じない、信じない。モモ、答えてくれ。モモっ!』


 何度も、何度も、ポチはモモの名前を呼んだ。答えが返ってくることを期待して。

 そこに返ってきたメッセージがポチの希望を完全に打ち崩した。


『ボスモンスター白虎の討伐を確認。

 プレイヤーが条件「白虎との友情」を満たしているため、以下の報酬を獲得できます。

 ボスモンスター白虎の討伐を確認。

 プレイヤーが条件「白虎との友情」を満たしているため、以下の報酬を獲得できます』


 それは紛れもなく、モモが死んだことを示していた。


「あ、ああ、あああああああああああああああああああああああああああああああ」

 ポチは猫の鳴きまねをすることも忘れ、強制ログアウトされるその時まで涙を流し叫び続けるのであった。


 ***


「はっ」


 利久は自室で目を覚ました。


「そうか、意識を失って強制ログアウトされたのか……」


 『休日の楽園』にはゲーム内で心身に異常をきたした場合安全を考慮してログアウトされるようになっている。ただし、アバターは当然そのままなので、モンスターに食われたり他のプレイヤーに追いはぎされたりする。

 だから再ログインできる時間まで心を落ち着け、すぐに入り直した方がいい。

 それは利久も分かっていた。ただ強制ログアウトからの再ログインでは、そのままになったアバターに戻ることになる。つまり、モモとナナが死んだあの場所に戻ることになるのだ。


「モモ……、ナナ……」


 利久がこの日もう一度ヘルメットをかぶることはなかった。


読んでいただきありがとうございました。

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