バトルカップについて聞いてみた
アクセス数が増えるの見ると、たぎりますね。
この熱量で第二章も書いていきたいです。
若干一匹が危機にあいながら、目的地であるリオンの工房を目指しつつ、色々な店に入って行く。
この中央通りに軒を連ねているのは、それなりにこのゲームで商人として成功した者たちばかり。それなりのお値段の物が置かれているわけだが、二人は気にせずにどんどん買っていく。
鎧からドレスまでオーダーメイドの一級品を作ってくれる店では、何故かポチの体の採寸がなされ、とりあえずその場で一着と猫用のスーツを着せられた。魔法の発動を助ける高価な素材である魔宝珠を扱う店では、メイスに内蔵する魔宝珠を買いあさった。他にもウインドウショッピングを行う二人。VR世界と言えど、女という生き物の買い物好きは治らないらしい。
しかし、少し奇妙なことを話していた。どうやら最近『死出誘う乙女』のリーダーである刹那が顔を出していないらしい。あの噂もあって二人とも心配しているようだ。
そういえば俺を助けてくれた時も一人だけいなかったんだよなと考えつつ、はふっと、ため息をつくと、ポチはあらぬ方向を見た。
「ニャ?」
その見た場所に何か見慣れぬ張り紙がされている。
そこに書かれているのは……『第十二回始まりの街バトルカップ』という文字と、あおりの言葉。ただ張り紙の感じはアウトローっぽさを漂わせている。
「ん、ポチ、これが気になるの?」
不思議に思ったのに気がついたのか、ローズがそう尋ねてくる。
「ニャア」
教えてと頬をすり寄せながら頷いてみせる。
「ああ、また今年もやるのかユーリスバトルカップ」
足を止めたローズにつられその場に立ち止まったリオンは、その張り紙を見てそんなことを言った。
ユーリスバトルカップってどういうことだ?
「ユーリスバトルカップってどういうこと?」
ポチの感じた疑問と同じことをローズが口にした。どうも彼女もよく知らないらしい。
私、気になります。そんな顔でリオンを見つめると、彼女も分かってくれたらしい。無造作に張り紙を剥がすと、歩きながら解説をしてくれた。
「ローズはこういうのに疎いから知らないかもしれないけど、こうやって街中に張り紙されるくらいには有名な大会だぞ。元々は喧嘩っ早い男どもが自分の力を見せつけようってことで始められたんだ」
「つまり運営のイベントではないということね」
「ああ、大元は賭け事好きが集まる巨大ギャンブルギルド『777(ラッキーセブン)』だったかな」
『休日の楽園』では運営だけでなくギルドでもイベントの開催が可能である。このまえの『サバイバル鬼ごっこ』みたいな街丸ごとは難しいが、それでも大規模なものから小規模なものまで許可されているのは、このゲームの売りは自分のしたいことが出来るという点にあるからだ。
なるほどな、と頷くと、二人はちらっとこっちを見て笑った。
何かおかしかっただろうか。
「ルールは単純に何でもあり。相手がHP全損したら終了。分かりやすいから、運営が開催するグランプリより面白いって奴は多いな」
両手を頭の後ろで組み背負った鉄棒を揺らしながら、リオンはこちらを向いてしゃべりながら後ろ向きで歩いている。身長差的にちょうどポチと同じ高さに顔が来ている。
「ああ、運営のあれは、少しルールが多すぎるわよね。ある程度はしょうがないでしょうけど」
困った経験があるのか、ローズは大きくため息をついた。
そして気付くと予定していた道を少し外れている。しかし、間違っていないよとリオンはそのまま歩いていく。
すると、街並に全く溶け込もうとしていない建物が一つ。金ぴかに飾り付けられたその建物に掲げられた看板には、『カジノ・壊れ天秤』と書かれている。ぼったくられそうな名前だ。
「ここが『777』の店の一つ。ここで申し込みもできるし、現在の参加者も確認できる。おい、バッホ。今度の大会今どうなってる?」
ものすごい手慣れた様子でリオンは、カジノの前に立っていた男に声をかけた。ファンタジー世界にそぐわない真っ黒のスーツに、サングラス、剃り上げられた禿頭が合わさって、ハリウッド映画に出てくるマフィアの用心棒そのままだ。
「リオン様が興味をお持ちになるなんて珍しいですね。現状参加者は十五名。一番人気は相変わらず金ぴか野郎ですね」
リオンはこのカジノによく来るのだろうか。バッホと呼ばれた男は、上客を扱う様にリオンに接した。
「今回はそれほど人数が多くないんだな」
「いいえ、うちは飛び入り大歓迎を謳っているので、当日にどっと増えるんですよ。そうなると当日には大穴を狙おうというお客様がいらっしゃって、こちらとしても大変喜ばしいことです」
そう言うとバッホはリオンに紹介してほしいと言ってきた。リオンは一瞬悪い顔になると、ポチ達を順に紹介した。
「おお、これはこれは。ワルキューレの一柱『杖を振るう者』のローズ様。それに最近街を騒がせる猫のポチ様。お会いできて光栄です」
言葉遣いは丁寧、物腰は爽やかなんだが、見た目がごつすぎてどうも気持ち悪いことになっている。特にまるで騎士が姫にするように、手を取って軽く口づけようとしたもんだから、その似合わなさここに極まれりという所だった。
ローズは苦笑して、どうにかしてくれと目でリオンに訴えていた。
「ほら、バッホ。お前も自己紹介しろよ」
上手く引き離してくれて、ポチとローズはひとまずほっとした。
「申し遅れました。私はバッホという者です。当ギルドのギルド長をやっております」
「「……え?」」
一瞬、その意味が分からず二人して硬直してから声が出た。ポチの場合、つい猫語が落ちて普通に驚いてしまっている。
「今、もう一人声がしなかったか? ローズの他に誰か」
ポチはギクリとしたものの、弁解するわけにもいかず無言を貫いた。良かったことにローズの方は驚きでバッホの方に意識が行っていて気がつかなかったようだ。
「てっきりただの門番かと思っていました。ギルド長ともあろう方が、何で?」
ローズの言葉にリオンとバッホはニマニマと笑っている。ドッキリ大成功という顔だ。
「いや、こいつ客の驚く顔が好きだってんで、これやってんだよ。馬鹿だろ」
「リオン様、間違ってもらっては困ります。私が見たいのは驚く顔だけでなく、ギャンブルを愉しみにする顔、勝って嬉しい顔、負けて沈んだ顔など、人の感情を表した顔です」
あまりいい趣味じゃないな、と口には出さないが、ポチとローズの意見は一致した。
「それで話は戻りますけど、何故ユーリスバトルカップと呼ばれているのですか」
ローズはこのままでは話が脱線すると思ったのか、元の道に戻した。
バッホはまだ話足りないのか、その大きな体を少し丸めながら答える。
「七連勝中なのですよ。私どもの大会は前回の優勝者、準優勝者の方をシードとして、各グループの決勝から戦っていただくのです。今のところユーリスはそこで全勝。もうそろそろ負けていただきたいところなのですが」
頭が痛いです、とつるりとした頭をバッホは撫でた。
にしても七連勝か。流石に二つ名を持っている奴は強いんだな。
今自分を抱きかかえている少女にも『杖を振るう者』とかいう二つ名があったと知り、感心しながらもポチは何となくアイアンメイデンに囚われたような感覚に陥っていた。
「にしても、どういう風の吹き回しですか。こんなことを聞きに来て」
「ああ、張り紙見てな。こいつら知らないみたいだったから、教えてやろうと思ってよ。今年はあのいけ好かない金ぴかナルシストを倒せる奴はいないのか。あの野郎、他の公式戦には顔出さない癖に、ここにだけは出るからな」
「ああ、それはすみません。この大会以外は女性の参加者が多くて、僕の騎士道に反するのです。ですが、君達みたいな美しい姫が望むのなら、いつでも騎士として戦う覚悟は出来ていますよ」
どこから現れたのか、いきなり背後からその男は声を掛けた。そして馴れ馴れしく二人の肩に手を乗せる。
「急に出てきて、断りも無く女の肩に触れてんじゃねえぞ!」
「おお、怖い。ここはPvPが可能なエリアなんですから、そんなものを振り回したら危ないですよ。戦乙女たち」
リオンの振り返りざまに薙ぎ払われた鉄棒は空を切り、続いて打ち出されたローズの拳も同じく空を切った。堅い防御を得意とする騎士を二つ名に持つとは思えぬ動きである。
少し距離をとったユーリスは敵意がないことを示すためにか、ピカピカ光る腰の剣を外してアイテムボックスに戻した。そして、しばらく視線を彷徨わせると言った。
「そういえば、刹那は一緒ではないのかい。この前は僕の事を誤解させてしまったみたいだから、お近づきになりたかったのだけど。どうだい、彼女を呼んで、いや、君たちのパーティーメンバー全員で僕と食事でもどうかな。お金の心配もいらないし、美味しくて雰囲気の良い店なんだけど、どうかな」
「誰があんたみたいな馴れ馴れしい男と食事になんか行くか。おら、お前がどっか行かないなら、私達がここから移動するぞ」
リオンがまたしても威嚇するように吠える。これではポチとリオンのどちらが獣か分かったものではない。ちなみにポチはユーリスが現れた瞬間からローズの抱きしめる力が増したことで、胸に埋もれながら少しずつダメージを食らっていた。(ちなみに、バッホは我関せずと観戦に回っている)
ユーリスはリオンとローズのあからさまな嫌悪の視線にも負けず、気取った顔付きを緩めない。
「ああ、つれない態度だ。それでは、ここは一旦退散させていただきましょう。それではお姫さま方」
ユーリスは手を取って口づけしようとするが、二人はさっと手を隠す。
その動作にはさすがのユーリスも苦笑を浮かべ、最後のあがきとでも思ったのかこの場にいたもう一匹に手を伸ばした。
「お姫さま方はどうも僕の口づけが恥ずかしいらしい。猫君の頭を撫でるだけで、今日は良しとするよ」
ポチは避けることも出来ず頭を撫でられ、鳥肌が立った。何故かは分からない。本能の部分で危険を感じたのか、すぐさま頭を振って手を払いのけると威嚇の声を上げる。
「猫君にも嫌われてしまったようだ。それでは、また、どこか」
笑みを絶やすことなく、金ぴか騎士は路地裏を離れて行った。
「誰が、お前なんかと」
リオンは思い切りその背中へと叫んだ。ポチとローズも未だ顔は険しい。
いつまでもここに居てもしょうがないからと、バッホに別れを告げ路地裏を後にした時、それはポチに訪れた。
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