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ネコでもできるVRMMO  作者: 霜戸真広
出会いと旅立ち
27/83

モモと闘ってみた

戦闘シーンは妄想するのは楽しいけど、書くのは大変だ。


 ポチの全速力の突撃に対して、モモは全く動かなかった。二匹の間には絶望的な性能差があるからだ。スキルの使用を不可にしたところで、モモは全くポチの攻撃を気にする必要はない。まさしく王者という風格でポチの攻撃を受ける気でいる。

 そんな事は何度も戦っているポチからすれば分かりきったことだった。悔しさに奥歯を噛みしめながら、今日こそは一撃を入れてやると気合を入れる。


『はあっ!』


 気合と共に爪が振るわれる。狙いは少しでも防御が薄い部分。足元に潜り込んでからの腹部への一閃だ。


『くっ……』


 痛みの声を上げたのは、ポチの方だった。

 爪が根元から折れて地面に落ちると、そのまま光になって消えて行った。今のポチの腕力や爪の切れ味では何の防御スキルを使ってもいないモモの腹部すら突破できないのだ。


『最初の一撃は受けてあげたんだから、こっちも攻撃するよ!』


 モモはその宣言通り攻撃を開始した。さっとその場を離れるや、潜り込んでいたポチ目がけて爪を振るう。歴然とした体格差があるため、傍目から見ていればまるでモモの右前足によってポチの身体が覆い隠されたようだった。

 当たれば一たまりもない。吹き飛ぶまでも無くHPが零になるのは確定だろう。

 だから、この一撃にポチが行える行動は一つしかない。


『そんなのが当たるかよ!』


 一瞬でトップスピードにまで加速して、モモの爪から危なげなく距離を取る。それどころか、次の瞬間には再度モモに襲い掛かった。今度はその鼻目がけて大きく跳んで爪を構える。

 右前足は振り払ったばかりだ。四足である獣にとって、この状態からもう一方の前足を振るう事は難しい。直撃コースかと思われた。

 だが、モモの攻撃手段は足だけではなかった。

 ひゅん。

 まるで鞭がしなるような音がした。その瞬間、今まさに爪を振り下ろそうとしていたポチが吹き飛んだ。


『空中に跳んだのは悪手だよ』


 攻撃したのは、何とモモの尻尾。後ろで揺れていたはずの尻尾が、モモの意思によって迎撃に動いたのだ。いくら尻尾とは言え、ボスモンスターの攻撃。勝負あったかと思われた。


『そんなことも分からないと思ったか?』


 声は意外と近くから聞こえた。

 モモはさっと吹き飛ばしたはずのポチを見る。その姿はすっと、まるで最初からいなかったかのように消えうせた。跳びかかって来たポチはスキル【猫騙し】で作られた幻影だったのだ。


『どのタイミングで入れ替わった!』

『そんなのモモの下に潜り込んだ瞬間に決まってんだろ』


 モモが最初に攻撃したのが、もう幻影だったのだ。ポチは腹部に爪を立てるや否や、【猫騙し】で幻影を生み出し、モモが飛び退くのに合わせて自分も飛び退いていたのだ。

 最初からポチの狙いは一つ。柔らかいであろう腹部への連続攻撃。

 後ろ足で立つようにして前足を交差させて、伸ばした爪を何度も振るう。その一撃は弱い。しかし、同じ場所を何度も攻撃すれば、ダメージを通せるはず。騙されたことで動きを止めた今が勝機と、ポチは前足を止めることなく振るい続ける。

 そして、違和感に気がついた瞬間、横飛びにモモの下から飛び出した。後ろ足だけでの跳躍という形だったため、上手く着地できず地面をゴロゴロと転がる。それは隙だらけだったが、モモが攻撃することはなかった。

 いや、攻撃することは出来なったというのが正しい。

 なぜなら、モモは腹を地面につけて座り込んだからだ。


『押しつぶす気かよ。ボスモンスターにしてはちゃちな攻撃だな』

『ちょっとはしゃぎすぎじゃない? 僕が本気を出したらポチなんて一瞬でぷちっと潰せるんだからね』

『良く言った! 出来る物ならやってみろ』


 二匹は向かい合ってお互いに威嚇し始めた。

 普段は仲が良い二匹だが、意外と負けず嫌いな所があるらしく、途中からは完全にいがみ合う形になるのだった。リアルではマイペースなポチだが、ゲーム世界では少し箍が外れる傾向があるようだった。

 ここからの闘いはまるで将棋の千日手のような状況が続いた。

 攻撃を仕掛けるのはポチ。突撃することでモモに迎撃を強いる。それによって、ポチは存分に自分の小回りのきく身体を活かしていた。攪乱するように様々に動き回り、時折スキルで幻影を生み出すと、様々な方向や方法で攻撃する。

 モモはどっしりと構えていた。自分の巨大さでは動き回ってもポチは捕まえられないと理解していた。速さだけならポチはモモと競えるほどなのだ。だから、モモは一撃を当てることに集中し、ポチの攻撃を最低限の動きで避けて反撃を繰り返していた。

 ポチは攻撃を仕掛けるために間合いを詰めたいが、間合いを詰め過ぎるとモモの反撃を避けきれない。

 モモはポチに追撃を行いたいが、間合いを自分から詰めると一気に懐に入られてしまい自分の攻撃がポチに当てられなくなる。

 どちらも勝負に出られないギリギリな状況が続く。そして、そうなれば勝つのはモモだ。HPも体力も、モモの方が上だからだ。

 そしてそれはお互いとも分かっていた。だから、モモは完全に受けに徹し、ポチはどこで最後の攻撃を仕掛けるかを思案していた。

 そして、その一瞬は来た。


『ふあ~あ。まだやってるなの?』


 緊張感ある雰囲気をぶち壊すようなナナのあくび。

 ポチはモモの意識が一瞬緩んだことを感じ取った。

 だから、跳ぶ。ポチはモモの鼻に爪を立てようと跳ぶ。


『……っ!』


 モモは視線を彷徨わせた。

 空中に跳んで攻撃してくる愚をポチが犯すことはないはずだ。これは十中八九囮。本命はどこだ。

 一瞬の驚きを呑みこみ、モモはすぐさま目の前のポチを思考から消した。いくらこの幻影にある程度の攻撃力が備わっているとはいえ、本体の一割ほどの能力しかない。気にするほどじゃない。

 モモは一発逆転を狙っているだろう本体のポチを探す。そして、気付いた。背後から近づく気配に。振り返って押しつぶす。

 モモが動き出そうとした瞬間、


『今日は俺の勝ちでいいな!』


 ポチの声は目の前で聞こえた。


『えっ?』


 目の前を覆い隠すような巨大な手。そして、顔目がけて爪が振り落とされるのが分かった。


『ぎゃあああああああああ!!!』


 悲鳴が上がった。


『訓練終了です』


 ミミの冷たい声が終わりを告げた。

 勝ったのはポチ。ただし、倒れ伏しているのもポチだった。

 モモは身体からバチバチと音をさせていた。防御のために雷を纏ったのだ。


『スキルの使用により、モモ様の反則負けですね』


 ということだった。

 最後の瞬間、モモの目の前に跳んだポチこそ本物だったのだ。最初に見せた攻防で罠にかけた形だった。

 そして突撃したポチは、もう一つのスキルも発動させた。

 スキル【猫被り】

 このスキルによって大型の猫系モンスターの姿になり、体を大きくし攻撃力を上げて襲い掛かったのだ。モモと言えども、この一撃を弱点の鼻に決められていたらダメージを喰らっていたことだろう。

 それ故に反射的にスキル【雷装】を発動してしまったのだ。


『負けてられないな』


 未だ痺れて倒れ伏しているポチと、それを看病しようとしているナナを見てモモは呟いた。


読んでいただきありがとうございました。

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