ローズがイライラしてみた
短めです。
次からポチが登場する話に戻るはず。
ああ、イライラする。
私、七海野薔薇はむしゃくしゃする思いを胸に抱えたまま、学校の廊下を歩いていた。
(ああ、今日も私の前でぐうすか居眠りして!)
八つ当たりと分かりながら、心の中ではクラスメイトの少年を罵っていた。どうも彼、六野宮利久は私を怒らせる。
本当の怒りの原因はあちらの世界でのことだけど。
ローズとして強くなったつもりでいたのに、簡単にやられてしまった。
今でも思い出せる。
***
ゲーム世界の夜に自分の所属する教会に向かう途中、嫌な予感――ゲームの中とは言え、一流プレイヤーの多くが感じる第六感という物――を感じて、お気に入りの武器を取り出して路地に入り込んだのだ。
そこで見えたのは死亡エフェクトの輝き。そしてその後ろに見える真っ黒な人影。
PKだと身構えた瞬間には戦闘モードに意識が切り替わる。そして、近づいた事で闇に浮かび上がる姿が鮮明になる。それは良く知る人物に似ていた。
「何で!」
その姿に驚いてしまった一瞬で、その人影は纏った和服をたなびかせながら私の背後に移動していた。手に持っていた艶消しされ、闇に同化した刃が羽織っているローブごと私を貫いた。
教会へ向かう途中だったため、戦闘用の防具は付けていない。猫人である私は防御もそれほど高くない。やられたと思った。
しかし、予想以上にダメージは少ない。HPは半分以上残っている。
前方に勢いよく飛びながら振り向いて、目くらましとその姿を再度しっかりと確認するために、光を生み出す魔法を無詠唱で放つ。しかし、相手の方が速い。一気に私との間の距離を詰めてきた。魔法は敵の後方で弾ける。
危険のシグナルを感じるままに、跳んだ勢いそのまま体を後ろに倒す。首筋すれすれを敵の刃が通過するのが分かった。
地面に手をついてさっと立ち上がると、今度は距離を取るのではなく自分から詰める。さっきとは逆に敵の方がすっと背後に下がって間合いを取ろうとする。そうはさせないと、私は焦ってしまった。
大きく踏み込んだ瞬間、目の前で光が弾けた。さっき私がやろうとしたことをやり返されたのだ。生理的な反応として、目を閉じてしまう。次の瞬間、腹部に重い一撃。HPが0になるのが感覚的に分かった。
***
プライドに傷をつけられたと言ってもいい。
思い出すだけで腹わらが煮えくり返る。ああも容易く攻撃を受けた自分自身に対しての憤りも大きい。お気に入りの武器が死亡ペナルティでドロップしたのも痛かった。
ただ気になったのは噂でリーダーの刹那さんが暗殺者なんじゃないかと言われていることだ。確かに服装は和服の様であったし、体格や少しだけ見た顔も刹那さんのようだった気がする。ただ、攻撃するあの動きは刹那さんではなかった。
そう思って情報屋に金を払って調べてもらっているのだが、結果が出るのはいつになるだろう。
「ああ、ポチに会ってモフモフしたい」
こういう時こそポチを抱きしめて癒されたかった。
周りから鉄面皮と呼ばれる私の顔だけど、大好きな猫、それもポチのことを考えるだけで盛大に緩む。
(レベル上げ過ぎて街猫ちゃんたち、逃げちゃうから。ポチだけが私の癒し)
本能とかそういうものなのか、プレイ当初は触らせてくれた子たちも今では逃げられる。『休日の楽園』はNPCがリアルですごいのだが、この時ばかりはそれが困った。
だから唯一抱かせてくれるポチに会いたいのだが、どうも最近街を離れてしまったらしいのだ。
いざこざがあったからしょうがないことなのかもしれない。
やっぱりみんなに頼んで西の森についてきてもらうか、ソロで行くしかないのか。また闇丸君に情報頼むしかないかな。
そんな風に思っていた時、屋上から声が聞こえた。聞き覚えのある声に私は気になってドア付近まで寄ってみる。
どうやら『休日の楽園』のプレイヤーたちが秘密の話をしているらしい。いけないと思いつつ聞き耳を立ててしまう。
「そうだ。最近はあの猫。ポチも森を遊び場にしているようですね」
それを耳にした瞬間、私は何も考えず屋上への扉を思い切り開いて叫んでいた。
「ポチがどうしたの!」
「ふひゃい!」
それに返ってきたのは変な声と、驚きの眼。まるで足元を覗き込んでくるかのような低いところからの視線に、私はとっさに足を出してしまった。思いっきり振りかぶって顔面にガツンと。
それがあの『居眠り拡散機』と気付いた時は、少しだけすっとした。
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