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ネコでもできるVRMMO  作者: 霜戸真広
出会いと旅立ち
24/83

学校にて弟と話してみた

学校での話です。


利久や甲斐が通う県立万代高校は山の頂にある。

 駅前から見える地獄坂と呼ばれる坂を延々登った先にある高校だ。毎年新年度の初めには新入生が時間配分を間違え、登校を途中棄権する様がみられ、それが春の風物詩になっている。バスを通そうにも、その道幅や斜度などの関係から難しいらしく、毎年議題に上っては却下されているらしい。

 そのせいもあってか万代高校は一学年百名、全校生徒合わせて三百名という小規模な学校である。その小ささと山の頂にあるため校庭が広くないこともあって、運動系部活動は盛んではない。

 しかし、授業後すぐに地獄坂を降りるのもつらい。

 故に多くの生徒達は室内系部活動に精を出すのが普通だった。

 そのため他の生徒が屋内にいる中で、利久だけは温かい日の光に包まれていた。

 ゲーム世界のそれではなく、現実世界の光である。そう利久は今、学校の屋上という最高の立地で日向ぼっこを敢行しているのだ。山の上だから夏の盛りでも、涼しい風が吹きぬけて気持ちがいい。


「それのどこが部活動なんですか」

「おい、日向ぼっこを馬鹿にするなよ。体にもいいんだぞ。おまえも日向ぼっこ部に入らないか」


 横になっている兄を甲斐は残念そうな目で見つめている。もうそろそろ夏休みという時期になって、甲斐もようやく高校生というものに慣れてきたようでだった。親に無理やり言って買ってもらった大き目の制服は完全に着られている感を出していたが。

 利久は甲斐をじっと見つめる。


「な、何ですか」


 知らないんだよな。そのだぼだぼな感じが世のお姉様の心を捕えていることに。


「つまり、お前を誘えばそいつらも一緒についてくる」

「急に笑い出してどうしたんですか、兄さん」


 部員確保に関する完璧な作戦を思いつき気持ちの悪い笑みを浮かべる利久に、甲斐は怪訝そうな目を返す。


「それに僕はゲームの方が忙しいんですよ。特に学生だと昼間はログインできないから大変なのに。兄さんもちゃんと最新情報チェックしてますか」


 またぶつぶつ呟きだした。情報屋が大変なのかもしれない。

 森に行くようになってから数日経っていたが、それからローズに会っていない。情報屋の目を眩ませることに成功したと考えてもいいのだろうか。

 甲斐に言われたように、少しはネットで『休日の楽園』について調べてみた方がいいのかもしれない。また今日にでもモモやミミに相談してみるか。ナナには……何を聞いても無駄だろうしな。

 ああ、それにしてもいい天気だ。あの世界の日光も本物と同じ様に感じられるけど、やっぱり本物とはどこか違う。それとも人と猫で感じ方が違うのだろうか。

 うるさい甲斐の声を無視して、利久はぼんやりと考える。

 ゲーム内部のことについて相談できる相手がいないとは言え、NPCであるモモたちとあそこまで仲良くなれると利久は思っていなかった。この前のストークウルフとの戦いの二の前にならないように、最近はモモに戦いを教わるようになっていた。引っかくとか噛みつくとか、やっぱり人間の利久には慣れない行動だからだ。

 最終的にはモモと互角に戦えるようになりたいもんだ。

 今のところは基本的に弱いステータスの向上や、新しいスキルの開発とかをして過ごしている。ここではミミのアドバイスが重要になっていた。

 ナナは……楽しそうに一人で遊んでいた。うん。とても楽しそうだった。


「そういえば、ゲームを始めてから兄さん変わりましたね。今までに比べて積極的になったと言いますか……誰かいい友達でもできましたか」

「ふひゃい?」


 今まさしく寝転がりながらゲーム世界の友人たちのことを考えていた利久は、その疑問に驚いて変な声を上げてしまった。


「どうしたんですか? そんな変な声出して。あっ、図星なんですね。いつも友達は量より質だとか言って、実は全然そういう人がいない兄さんにもやっと春が……」

「おい、おかしなことを言うな。確かに友達は少ないけど、いないわけじゃねえよ」


 意外と要領よい上に庇護欲そそる顔付きの為か、友好関係がかなり広い甲斐と比べたら確かに少ないかもしれないけど。それでも利久にだって一人や二人は友達ぐらいいる。ただ、片手の指で足りるのは確かだった。


「でも否定しないってことは、本当にそうなんですね。わあ、つまり僕が兄さんとその友達さんの間を取り持ったってことですよね。僕が『休日の楽園』を薦めたんですから」


 梅雨の間の日向ぼっこの場として始めたゲームだったが、利久がその居心地の良さに嵌まってきているのは確かだ。そしてあの世界でしか会うことが出来ない者と友達になることが出来た。


「確かに。全部甲斐のおかげなんだよな」


 しみじみとそう感じたから、そう返した。

 甲斐には素直すぎると驚かれたけれど、日向ぼっこ中の利久は思考力が鈍り素直なのだ。

 太陽という大きな存在の下で、自分が如何に矮小であるかと感じた時、人は正直に生きられるのである。

 そんなことをつらつら言ってみたら、


「悟ったようなことを言わないでください」


 怒られてしまった。もっと怒ってきそうだったから、話を変えてみることにした。


「そういえば、今情報屋の方は忙しいの? プレイヤーネームは闇丸だっけ?」


 俺はまだ見たことのない甲斐のアバターを想像しながら聞いてみた。弟の好きな物の傾向からして、多分高身長に渋い系のマスク、忍者のような服装で固めているのだろう。


「ええ、現状最前線の方はメインクエストがクリアされておらず、その辺りもきな臭いんですが、どちらかと言えば始まりの街の方が……」


 どうも気になっているこことがあるらしい。


「最近PKが、それも暗殺によるものが増えているんですよね」


 話を聞いてみると、始まりの街を拠点とする中堅から上位のプレイヤーを狙ったPKが最近頻発しているらしい。狙われる対象はほとんどが壁役としてパーティーを支える重量級のプレイヤーたちばかりで、物理防御の高い者を優先的に狙っている点が奇妙だと噂されているようだ。

 ただ、偶然暗殺される場面を見てしまった者などが、倒される寸前に相手の姿を見たと主張していた。しかし、どうも甲斐は彼らから得た情報の正当性を測り損ねているようだ。


「姿を見られているってことは、もう犯人の目星がついているんじゃないのか」

「ええ、その情報を集めると、このプレイヤーになりました」


 甲斐の携帯端末から浮かび上がったプレイヤーの姿はポチも良く知る者だった。

 緑色の長い髪を背中に流して和服を上品に着崩し、腰には日本刀を提げた侍姿のエルフ美女。それはまさしく刹那だった。


「どうして、刹那さんの姿が? 彼女が暗殺を繰り返しているってのか?」

「いいえ、目撃情報だけならほとんど黒ですが、暗殺の場面に巻き込まれてしまったローズさんはそれを否定していますし。ローズさんからの依頼でもあって、どうにか真実を突き止めたいんですが」

「すまないな。それには俺は力になれそうもない。特に最近は森の方に出かけていて、始まりの街には寄っていないからな」


 利久はさっきまでそんな事件が起きていたことすら知らなかったのだ。森に来てからローズと会わなかったのも、このPKが何か関係していたのかもしれない。


「いえ、十分ですよ。それにしても……遂に兄さんも戦いを始めたんですね。ああ、そうか。友達ってのはパーティ―の仲間の事なんですね! いやぁ、心配でしたけどきちんとやっているようで良かったです」


 うーん、パーティーは組んでないけど……面倒だからそういう事にしておこう。

 そうそう、と肯定しておく。


「そうだ。最近はあの猫。ポチが森を遊び場にしているようですね」

「ふひゃい?」


 思いがけない言葉に、利久はまたしても変な声を返してしまった。


「ポチがどうしたの!」

「ふひゃい!」


 急に屋上へのドアを開けて入ってきて少女は叫んだ。

 利久は本日三回目の変な声を上げてしまった。

 そして誰だと驚いてそちらを見上げた瞬間、目があったかと思うと、思いっきり蹴られた。

 その瞬間、角度的に見えなかったスカートの中身がちらっと見えたのは俺の心の中に閉まっておこう。意外と派手だったとだけコメントしておく。


読んでいただきありがとうございました。

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