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ネコでもできるVRMMO  作者: 霜戸真広
出会いと旅立ち
22/83

白虎に出会ってみた

重要キャラが登場です。



 どれほどの時が経ったのか。スキルもほとんど使うことが出来ないという中、その敏捷性と小ささだけでポチは生き残っていた。

 相手の攻撃を右に左に避け、そうかと思えば進んで懐に跳びこむ。

 直撃すればそれだけでHPを大きく削られる爪や牙をかいくぐり、こちらの武器を通す。

 ほぼ無意識で体が動くほどになって、しかし遂に精神力も体力も底についた。どれだけHPが残っていようとも、もう動けない。そう体が訴えている。

 目の前の一匹の攻撃を避けて、足がもつれた。そこを敵が見逃すはずもなく、すぐさま牙が襲い掛かる。

 駄目だったか。諦めて目を閉じる瞬間、真っ白で巨大な何かが通り過ぎた様な気がした。


『遅くなったね』


 優しいその声を最後にポチの意識は遠のいた。


 ***


 ……さん。

 ……こ……ん。

 うるさいな。せっかく人が、いや猫が日向ぼっこしているんだ。起こさないでくれ。

 ……さん。……さん。


『ああ、うるさいな。おちおち寝てもいられない……だろ……え?』


 てっきり大神殿、つまりは建物の中で目覚めるだろうと思っていたポチの予想を裏切る風景が目の前に広がっていた。一面には爽やかな緑が溢れ、中央には澄み渡った水で満々と潤った湖が広がっている。その水面はキラキラと輝き、さらに湖上を幾人もの妖精が羽をきらめかせて飛んでいる。幻想的な世界がここにはあった。


「ニャ?」


 ポチは今何か寝心地のいいソファのようなものに寝そべっているらしい。すごく肌に合う毛並で、せっかくだからもう一度寝なおそうかとポチが思うほどだった。


『猫さん、良かったなの。死んじゃうかと思ったなの。一人でストークウルフの群れに突っ込むとか、猫さんはアホなの~。馬鹿なの~』

『さっきまでボロボロだった奴に、アホだの馬鹿だの言うなよな』


 泣きながら抱き着いてくるナナを受け止めてやる。誰かが回復してくれたのかHPも戻っているし、寝たおかげで精神力も戻っていた。

 ポフポフと肉球で頭を撫でてやる。今回は俺が悪いからな、涙と鼻水で俺の毛皮を濡らすのも我慢してやろう。そんなことを思いながらポチも隣にナナがいることにほっとしていた。

 少し経って落ち着いたのかナナは体を離した。顔はお世辞にも元通りにはなっていなかったけど、泣いたせいでいつもは鋭い目つきが和らいでいるようだ。


『それで、妖精は街から出られないんじゃなかったのか』


 まだ森の中だと思われるここに、何故ナナがいるのかポチは聞いた。


『それは――』

『それはここが妖精種の集う「惑わしと癒しの湖」だからさ』


 ナナの言葉を遮ってポチの質問に答えた声は、聞き覚えのある笑い声を伴って木の枝から聞こえた。


『あ、お前。よくも俺をはめやがったな。あそこが狼どもの縄張りと知ってたんだろ』

『おいおい、誰がはめたって。人聞きの悪い。僕は一度もあいつらの縄張りじゃないなんて言っていないだろう?』


 そうやって人を食ったようなことを言い返してきたのは、ケットシーのニールであった。短い足を上手く組んで、背中を幹にもたれかけさせている。

 なんとなく『不思議の国のアリス』のチェシャ猫を髣髴とさせる。


『それに助けを呼んでやったのも僕なんだぜ。感謝してもらいたいぐらいだ』


 ニヤニヤ笑いをやめないのもそっくりだ。


『そうだ。そういえば誰が助けてくれたんだ? お前か、ナナ』


 ニールの言葉で気がついた。今は助けてくれた奴にお礼を言うのが先だ。

 もしかしてと目を向けると、ナナは違うと首を横に振った。そしてポチの足元を指さす。


『私じゃないなの。白虎さんなの』

『白虎?』


 その寝心地の良さに後ろ髪引かれながら、ポチは跳び下りる。そうするとこの白い毛の塊がかなり大きいことが分かった。あの狼のボスよりさらに数倍大きい。


『初めまして、ポチ。ナナが世話になっているね。僕は白虎。この「迷いと誘いの森」の守護獣の役目を仰せつかっている』


 その毛玉は立ち上がった。大きすぎて猫の小さな体では全体を把握できないが、その体に満ち満ちている力の強大さは見て取れた。気になったのは白虎という名前の印象から外れた左前脚だろうか。そこだけ毛の色が黒かった。


(俺と逆だな)


 ポチは自分の白い右前足と見比べる。

 相手も同じ様に考えていたようで目があった。すると虎という凶暴な種族らしからぬ温和な優しい顔でポチに笑いかけてきた。


『こ、こんにちは』


 友好的に笑いかけていると分かっていても、馬鹿でかい虎が牙を見せる姿は怖い。

 とりあえずお互いに情報交換をすることにした。口を挟んでくることが予想されたニールは、面倒だから除外しておいた。

 秘密を話す相手は少ない方がいい。


『俺がプレイヤーだという事は……知っているんだよな』


 その質問に白虎は頷いた。


『ああ、ナナが色々と話を聞かせてくれたよ。毎日ここに来ては猫さん、猫さんとうるさいぐらいだったから』

『そ、それは言わない約束なの』


 やっぱりそうだったのか。慌てふためいているナナを、ポチはじとーと見つめる。


『責めないでやってくれ。あんまり楽しく話すのでね。僕の方が気になって、ナナを問い詰めたんだ』


 非礼は詫びよう、とまた頭を下げた。守護獣と言う割には腰が低いのが不思議だった。


『いや、白虎。謝る必要はない。こいつの口が軽いことは想定してたからな。ただ誰も信用しはしないだろうと高をくくっていた俺が悪かったんだ』


 それにナナはいつもべったりだったから、友達の少ない残念な奴だとポチは思っていたのだ。


『ははは、嫌々。これでもナナは友達は多い方だよ。避けても全くめげずに近寄ってくるからね。しかも善人悪人問わずだから、見てるこっちがハラハラする』

『確かにな』


 どんなにあしらおうとしてもついてくるし、そうかと思えば簡単に人質になったりするし。近くにいる奴は目が離せないだろう。


『中身が子供なんだな』

『失礼なの。このメリハリのきいたボディを見るなの。大人の女なの』


 そう言って胸を反らすと、確かにその通りの体つきなんだが、まずそんなことをするのが子供っぽかった。

 共通の友人の話題が面白いことばかりだったこともあって、その後はポチと白虎は意気投合。情報交換という言葉はどこへやら、ただ思いつくままにバカ話をしあった。

 白虎が良く話したのはこの森での暮らしや人助けの事。ポチが話したのは始まりの街で過ごした日々と、日向ぼっこについて。


『僕は誰かを助けるというのが好きなんだよ。この森は街から近くて初心者も多いんだけど、ある一定以上中に進むとモンスターレベルが一気に上がる仕様になっているんだ』


 その設定はこの湖への侵入を阻止するための仕様である。ここは運営からGMゲームマスターの役割を与えられたピクシー達の集合場所であり、ゲームの管理を行う場所なのだ。GMの役割を与えられているとは言え、防御のみにしかその絶対的な権限も与えられていないピクシー。しかし、諸々の都合上泉の場所は始まりの街の近くに置くしかない。


『それで上級から下級までのモンスターが入り乱れるカオスな空間になったと』

『うん。ただたまに初心者で奥まで迷い込んでくる子がいるから、気付ける範囲でその子を助けているんだ』


 そう言ってはにかむ様はまるで人の様であった。

 そういえば、自分も助けられた一員だ。普通は入り口近くに連れて行くだけで、泉には連れてこないそうだけど。何故かと聞いたら、ナナの友達だからと返された。

 小説の山月記の虎も元は人だけど、白虎もそうだったりするのだろうか。その人間臭さが気になってポチはじっくりと白虎を観察する。


『白虎は超強いなの。ここの番人を任されるのは最強レベルなの』


 まるで自分ことのように話すナナ。それに困ったように笑う白虎。その大きさとのギャップにポチはいつの間にか笑い出していた。つられたように白虎も笑い、ナナも楽しそうに笑っていた。

 まるで普通に友達としゃべっているような感覚。この世界がVRで、今話している相手が人ではなくプログラムであるなんて、まるで冗談みたいなことだった。

 だからポチはつい聞いてしまった。


『お前たちは本当にAIなのか?』


 その質問に二人は笑いを止めた。そしてお互いに顔を見合わせる。

 急に真剣な顔つきになった。もしかして聞いてはいけない事を聞いてしまったのだろうか。ポチにも緊張が走る。

 こちらを見つめる四つの瞳に気おされ、ごくりと息を呑む。


『この一人と一匹は人工知能について知りませんので、私が簡単に説明させていただきます。よろしいでしょうか』


 ここに来て更なる新キャラ登場だった。


読んでいただきありがとうございました。

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