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ネコでもできるVRMMO  作者: 霜戸真広
出会いと旅立ち
18/83

追いかけられてみた

感想頂きました。ありがとうございます。

もっと楽しく読んでいただけるよう頑張ります。

荒れている。その甲斐の言葉を利久が正しく理解したのは次の日の事。

 いつも通りログインしたポチは、いきなり追いかけられていた。


「待て。俺が最初に捕まえてやる」

「何よ。私達が最初に見つけたのよ」

「あの猫は我らの物よ」


 こんなことを言うプレイヤーどもがわんさか待ち構えていた。どうも噂に尾ひれがついた結果、ポチを手に入れてその血を浴びた者に次の試練が知らされるという事になったらしい。

 たぶん昨日の赤モヒカンが剣を振るった事や、鮮血の薔薇を身に浴びたローズの姿とかが入り混じったのだろうが、いくらなんでも酷過ぎる尾ひれだった。

 誰か情報操作してんじゃないだろうな。ポチが逃げながらそう思うのもしょうがなかった。

 広い道を人の足元を駆け抜けるようにして逃げ、先回りされて道を止められたらジャンプして屋根まで跳び、石垣の小さく崩れた隙間から家の中に入り込み、【招き猫】で同士討ちさせる。その小さな体があってようやくプレイヤーたちの手から逃げ延びていた。


『何で追ってくる奴が! 減らないんだよ!』


 しかし、完全に逃げ切ることはいくらなんでも不可能だった。

 叫んでいたポチは気付くと十数人の男女に囲まれていた。右手には網や袋を、左手には短刀を構えている。右手の道具で捕まえて、左手で突き刺すのだろう。


「ほら、ちょっと痛いだけだから。こっちにおいで、ポチ」

『無理!』

 

 いくらなんでもそんな嘘がプレイヤーのポチに通じる訳がなく、どうにか逃げられないかと左右を見渡しその隙のなさに愕然とする。


(もう、ここまでか……)


 そうポチが諦めかけた時、さらに多くの人の足音が響いた。


『駄目だ……』


 ここに来て完全に諦めたポチは目をつむり、俯せになってその時を待つ。

 しかし、ポチを最初から囲んでいた者たちは動き出さない。それどころか視線をポチから外して外側を向いていた。警戒するように袋を捨てて武器を持ちかえてもいる。

 どうしたんだと、ポチが囲い込む人の隙間から見ると、後から来た集団の中心に見慣れた人影を見つけた。


「お前たち、即時ポチを囲い込むのをやめなさい。我々は『ポチを健全に保護し見守る会』です。こんな可愛い猫ちゃんにひどいことはやめてください」


 もう勘弁してくれ。ポチはため息をついた。

 よく分からない会の名前を叫んだのは、やはりというかローズだった。

 抵抗しようとする囲んでいる者たちを前にゆっくりと、愛用のメイスと凄惨な笑顔を取り出した。

 もちろん、ポチは回れ右して逃げ出した。もうこの前みたいな争い事は嫌だった。


***


『この辺までこれば大丈夫かな』


 ポチが人込みを避け、小動物しか通れないような通路や、屋根、壁の穴など様々な所を経由して辿り着いたのは、とあるお屋敷の庭である。設定上はこの街を治める貴族の邸宅であり、正攻法でプレイヤーが入るのは困難を極める。

 今のところポチ以外でここに入れるのは御用商人の地位を手にしたプレイヤーや、どこぞの領主に雇われている文官プレイヤーぐらいだろう。彼らにしても入るにはそれなりの理由が必要だ。少なくとも猫一匹のために入ることは出来ないだろう。

 ポチがここを見つけたのは日向ぼっこ場所を探していた時だった。この屋敷に住む貴族令嬢やそのメイドなどのNPCに可愛がられていることや、他のプレイヤーが来ることがほとんどないこともあって、最近よく日向ぼっこに来る場所だった。


『はあ、これじゃ街に出られないぞ。さて、どうするか』

『ここでずっと遊ぶってのはどうなの?』

『うーん、確かにここはいい日向ぼっこの場所だけど、ここだけってのもなぁ。って! いつのまに出てきやがったんだ、ナナ』

『猫さんが逃げてるのをずっと見てたなの! 凄かったなの! アクション映画みたいだったなの』


 突如現れたように思われたフェアリー07ことナナだったが、実際はポチがログインした時にはすぐそばにいたのだ。ただ声を掛ける間もなくポチとプレイヤーの追いかけっこが始まったため、今の今までずっとその様子を鑑賞していたらしい。

 

『こう伸びてくる手をぐるんとかいくぐる猫さん、挟み撃ちの状況から片方のバランスを崩して颯爽と逃げ出す猫さん、ゴミバケツを足場に屋根に飛び乗って逃げる猫さん、どれもかっこよかったなの~』

『ああ、本当に最初から最後まで見てたんだな。だったら助けてくれたらよかったのに。いや、お前に頼ってもどうにもならないどころか、足手まといだな』

『む! ひどい言いぐさなの。妖精はどんな攻撃も効かない無敵のバリアに守られているなの。猫さんを守るぐらい簡単なの』


 胸を張るナナをちらっと見て、もう一度ちらっと見て、ポチはため息をついた。


『何で一度胸を見てから、ため息をついたなの? 私の胸おかしいなの?』


 女性は男性の視線に敏感ということだが、どうもその法則はゲーム内でも有効らしい。まあ、ナナ本人に分かっているかは別として。

 いきなり胸を揉み始めた(ちなみにナナはメリハリのきいた体を持つ東洋系の美人なので、胸はその細い体からは考えられないほどの巨乳である)ナナをギリギリ視界の端に入れながら、ポチはこれからどうするかを考えていた。

 ポチの頭の中にある選択肢は今のところ二つだった。


『一つは噂が消えるまでこの屋敷の庭から出ない方法、だけどこれは無しだな』


 言ってすぐにポチはそれを却下した。まあ、そんなことをしたらゲームをする意味がない。取れるはずがない選択肢だった。


『となると、やっぱりこの街を出ていくしかないか』


 だからポチが選んだのはもう一つの選択肢。それはこの街から出ていくというものだった。

 実際にはもう一つ運営に頼んでポチを追いかけるプレイヤーにペナルティをかけてもらうという選択肢もあるにはあった。ただし、この場合自分がプレイヤーであることを公言しないといけなくなっていたため、結局選ぶことは出来なかっただろうが。


『この街を出るなの?』

『ああ、ここに居続ける訳にもいかないし。いつかは街の中以外でも日向ぼっこの為の場所を探す予定だったからな。もう少し街を回ってからのつもりだったけど、しょうがないな』


 なるほどなの、とナナはバカっぽく手を打ち合わせる。そして、ポチにきつい一言を言い放った。


『どうやってプレイヤーから逃げて外に出るなの?』

『……あ』


 何も考えていなかったらしいポチは、それからしばらくの間マップとにらめっこすることになる。

 逃走用に新しい特殊スキルを作ればいいことに気がつくのは、それから一時間を過ぎたころだった。


読んでいただきありがとうございました。

感想、評価をもらえると喜びます。

明日は少し早く8時に投稿予約してます。

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