妖精に授業されてみた
説明が長くなってしまいました。
【神は世界を作った】
【まず星という器を用意した】
【そこに水を注ぎ海が生まれた】
【土を盛り大地が生まれた】
【一息吹いて風が生まれた】
【神は生命を……
ナナが舞いながら朗々と響く声で歌ったそれは、俗に言う創世神話の一節である。つまりはこのゲームの根本の設定だ。
そこに歌われたように、今はお休みになっているという神を目覚めさせるのがプレイヤーの最終目的である。
他にも設定を語ってくれていたが、結局ポチは半分くらい寝ていた。
「この世界について分かったなの」
「分かったなの。分かったなの」
「……本当なの?」
疑り深い目でナナはポチを見ている。顔を逸らそうにも、パタパタと羽を動かして右へ左へついてくるからどうしようもない。
諦めてポチは普通に頷いた。
「ならいいなの。次はSPを説明するなの」
先ほどの封筒と同様に今度はどこからか黒板を取り出した。
どこから出しているのかと疑問に思ってポチが聞いてみると、これまた不思議そうな顔をされた。
「アイテムボックスを知らないなの……?」
馬鹿にされているような気がしたからか、ポチはここは知っていましたと見える様に笑ってみた。口角を上げて、少し目を閉じるようにする。
「何で急に威嚇するなの? ナナが何かしたなの」
凄い勢いでポチは怯えられた。
猫の顔で口角上げたら、牙を剥いて威嚇しているようにしか見えない。笑顔も練習課題だなと、ポチは嘆息した。
「ごめん、説明してください」
「任せてなの。まずSPはスキルを手に入れるときに必要なの。スキルっていうのは、冒険や戦闘を楽にしてくれる技能とかのことなの」
確かに。スキル欄にある【猫語】にポチはとても助けられていた。
「SPはレベルが上がるごとに一つもらえるなの。他にもイベントやクエストなんかでももらえるなの」
つまり先ほどのポチのポイントはレベルアップ分が83に、さっきのイベント報酬が1000ということになる。本来は数百人単位で分ける物を一人で手に入れたのだから当然の量だった。1000が多いか少ないかは分からないが。
「ちなみに、チュートリアルを受けてもSPはもらえたなの」
ああ、だから甲斐があれだけチュートリアルを受けろ、受けろ言ってたのか。納得したと、ポチは前足で地面をポンと叩いた。
「せっかくなの。他のスキルを見てみるなの」
スキル一覧と書かれたアイコンを選択すると、ずらっとスキル名が書かれたリストが現れた。スキル名を押すと詳細が分かるようになっているらしい他、その隣には数字が並んでいる。
「例えば一番上のスキル、【剣術\1】ってなっているのは、SPを一つ必要って意味なの。覚えられるスキルは種族やレベル、他のスキルによって変わるなの。強いスキルほどSPはたくさん必要なの。獲得できるスキルは種族やレベル何かで変わるなの!」
ポチには何だかよく分からなかったが、ナナは楽しそうにスキル一つ一つを説明している。
ふんふん、と適当に聞き流しながら、ポチはせっかくだからと使えそうなスキルを探してみる。
……探してみるが。
「どのスキルもグレーで、触っても使えませんになるんだが」
「えーと、それはなの。元々人用に作られた物ばかりなの。猫さんは人じゃないからつかえない……なの」
質問したポチよりもナナの方がしょんぼりとしていた。しょんぼりしたいのはポチの方だというのに。
人族用のは駄目でも獣人族の物ならどうだろう。聞いてみたが、悲しそうにナナは首を横に振った。
「猫さんは種族がネコになってるなの。このリストにあるスキルはほとんど使えないなの」
「そうか。元々期待してたわけじゃないけど、それでも落ち込むな」
もし今ポチが人間の顔だったら、盛大にやりきれないという表情をしている事だろう。つまりはせっかくのSPが無駄になるのだから。さらさらと肉球でリストを下から上へと流す。
剣術や槍術といった武術系から、料理や鍛冶、錬金術といった生産系、魔法適正、火魔法や妖精魔法といった魔法職系等々。他にも釣りや養蚕みたいな趣味系まで。このスキルを極めることで、新しいスキルが開放されるらしい。ポチのスキルリストは全部選択不可のグレーに染まっている。
いつの間にか落ちていた太陽の赤い光が、泉の水面を毒々しく光らせていた。
もう日向ぼっこには遅い時間だ。今日はこのままログアウトか。ポチはしみじみと太陽を見つめた。
「しっかりなの。話は終わってないなの」
黄昏れるポチはナナの声に我に返った。
「一般スキルは駄目でも、特殊スキルがあるなの」
纏めて簡潔に説明するってことが出来ないのか、この妖精は。そんあちょっとした怒りを込めて、ポチはプニプ二の肉球で軽く頭をつついてやる。
「ああ、肉球の触り心地も最高なの~」
代わりの妖精はいないのか。もっときびきびした奴を持ってこい。
大人げないから声には出さず、ポチは心の中で叫んだ。
ナナの後からどんどん付け足していく回りくどい解説を、簡単にまとめると、特殊スキルというのは、プレイヤーが自分好みに製作可能なスキルである。一般スキルと違ってかなり自由にスキル内容を決めることが出来るため、自分の目指すところのプレイをしたいやりこみゲーマーに人気だ。
ただその製作には普通のスキルが1SPからのに比べて最低ランクでも10SPからで、運営に判断されたスキルランクによっては製作に必要なSPも変わってくる。しかも自分の思ったようなスキルになるかも判断するAIの読解次第とかで、カジュアルプレイのプレイヤーからは文句もあるのだとか。
失敗談としては回復魔法のヒールの範囲を広げるスキルを製作しようとしたプレイヤーが、「みんな」という曖昧な言葉を使ったために、発動すると敵まで回復させるようになったとか。アンデット系を殲滅するのには役に立っているらしいが。
しかも一度製作したらやり直しがきかないという闇仕様である。
「そりゃ、使わないわ。一般スキルの方がリスクがない」
「うう~、そうかもなの。でも、こっちの方が楽しいなの。せっかくなら楽しい方がいいなの」
悔しそうにパタパタ飛びまわっている。光っているから目がチカチカする。
特殊スキル作るなの。私も仕事したいなの。
とナナがうるさく耳元で叫んでくるので、ポチはしょうがなく製作してみることにした。
「ありがとうなの、猫さん。これで業務成績アップなの。ご飯が三食食べられるなの」
……妖精の世界も何だか世知辛いようだ。
名前を付けた責任もあるし、これからは贔屓にしてやろうと決める。
まずは特殊スキルを作成するために、それ用の画面を開く。あまり世界観を壊さないようにするためか、わざわざ紙とペンが出てきた。これで自分の欲しいスキルの名前と内容を書いて、燃やすと天に届くのだとか。
「ナナ」
「はいなの」
「代筆よろしく」
流石に猫の手じゃペンは持てなかった。
その後、お試しで二つだけスキルを作ってみた。
何故二つだけかと言うと、
「もう重たい物は持てないなの~」
自分の体と変わらないほどのペンを抱えて文字を書いたせいで、ナナがへばって動けなくなってしまったからだ。
はしたなく足を広げ、両手で体を支える様に状態を後ろに倒している。
「ありがとうな。次回もよろしく」
「あっ、次回もなの~」
もう嫌だ、と顔に書いてあるが、これもお前の業務成績のため。ポチは心を鬼にしてナナをこき使わせてもらおうと決めた。
もう少しナナをからかってから、ポチは今日はもうログアウトすることにした。
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