妖精と出会ってみた
やっと妖精を登場させられました。
注意
「猫好きに撫でられてみた」と「目にいたい男を引っかいてみた」との間の一話が投稿できていませんでした。
投稿し直しましたので、お手数ですが戻って読んでいただけるとありがたいです。
ポチはローズたちから別れた後、ときどき見かける猫たちと情報交換をしながら、公園の奥に入り込む。名前も分からない木々が綺麗に生える道に沿って歩いていく。
『確か源さんが言うにはこっちの方だと……』
源さんというのはこの森の主みたいな猫だ。日本っぽい名前に反して、その青さがまぶしいロシアンブルーである。
言われた通りに行くとそこには小さな泉があった。この時間はいい具合に光が入りこんで、キラキラと水面を輝かせている。確かに眠るにはちょうど良さそうな場所だ。時折冒険者スタイルのプレイヤーが通りかかるが、気になるほどではない。
『今日は色々あったけど、とりあえずおやすみ』
ふあ~あとあくびを一つして、ポチは眠りについた。この後に何かが起こるなどみじんも考えることなく、その一瞬の静けさに身を任せるのだった。
『おめでとうございます。今回のゲリライベントの優勝者はあなたです。この後、優勝賞品の授与のために、ピクシー07が参りますので、ログアウトせずにお待ちください。繰り返します。今回のゲリライベントの優勝者はあなたです。この後、優勝賞品の授与のために、ピクシー07が参りますので、ログアウトせずにお待ちください』
「何だこれ?」
耳元に聞こえたファンファーレと拍手喝采の音で跳び起きたポチは、訳の分からない案内についニャー以外の言葉を使ってしまうのだった。
これはいったいどういうことだろう。拍手の音と共に起こされたポチは、短い足で頭を抱えていた。
目の前を何かが飛んでいる。
見た目は背中に薄く透明な羽が生えた美しい女性。その大きさは猫になったポチよりも少しばかり小さいほどだ。顔付きは東洋風で、纏っているのも天女の羽衣のように向こうが薄く透けるようでいて仔細はぼやけている、という変わった生地のひらひらとした細長い服とも言えない布だ。
どうすれば羽衣だけで体を隠せるのだろうか。
そんな疑問は浮かぶものの、これは所謂ところの妖精という奴である。
「ニャ!」
「どうしてプレイヤーがいないのなの! 座標は正しいはずなの!」
ポチの「妖精!」という驚きの声は、姦しい声にかき消された。
どうもこれがさっきポチの耳元で響いた案内が言っていたピクシー07らしい。コンパスみたいなものを取りだして何かを確認しながら、泉の辺りを飛びまわっている。
透明な羽がキラキラと光を反射しそれはそれは幻想的な風景だった。
「あ~、これじゃ怒られるなの~」
ただし、くじけ気味な声がなければという限定はつくが。終いには泣き出しそうになり、ポチはとりあえず声をかけることにした。
『おーい』
妖精はちらっとこっちを向いた。
『妖精さーん』
やっと気づいたのか、にこやかな顔で妖精が近づいてきた。そしてポチにひしっと抱き着いてくる。
「う~、猫さん、慰めてくれるのなの。私嬉しいなの」
全然気づいてなかった。それどころかモフモフなの、とさらにポチに密着してくる有様。
何故だか今日のポチは女性との密着度が高かった。
周囲に人もいない事を確認すると、このままでは埒があかないのでポチは普通にしゃべることにした。
「えっと、お前がピクシー07でいいのか」
「はいなの。みんなをお助けするのが使命の妖精なの……ん?」
モフモフしていた体を離して、周りをきょろきょろと見渡す。美人系な顔付きだけに、そのバカっぽい姿が似合っていない。というか、口調からどこかずれている。
「俺だ。今までお前が抱き着いていた黒猫だ」
このままだと話が進まなさそうだったから、ポチはさっさとネタばらしをした。
「…………もしかして猫さんがプレイヤーなの?」
俺が声をかけてからそこに至るまでに嫌に長い間があったんだけど、こいつ大丈夫か。運営側が用意してるんだろうけど、頼りないことこの上ない。
そんな不安を覚えつつ、ポチは可愛らしくその小さなおとがいを下げることで肯定を示した。
「猫さんなの。確かに隠しコマンドがあるのは知っているのなの。でも実物見たのは初めてなの!」
驚きで本当に飛びあがった妖精にポチは質問した。
「それでピクシー07は俺に何の用があるんだ」
寝転がったままというのも気が引けたのか、ここでようやくポチは立ち上がった。
「ああ、そうなの。私にはお仕事があったなの」
ようやく仕事をしてくれるらしい。胸を張って、ピクシー07はゴホンと一つ咳払いをする。そしていきなり神々しいばかりの笑みを浮かべた。
さっきまでの姿を見ていると、嘘くさいことこの上なかった。
「汝、よくこの試練を乗り越えました。今回ただ一人……一匹? 逃げ延びた汝に我らが妖精の王から報酬を授けましょう」
口調が変わってさらに胡散臭さが増していた。しかも、途中で一人か一匹か分からなくて素に戻ってしまい、一人と一匹(もしくは二匹か?)しかいない場は完全に白けきっている。
不思議そうにして黙りNPCの猫のようにしているポチと、にこやかな笑みをぴくぴくさせているピクシー07。
「はいや了解という言葉でいいのですよ」
まだ一応この言葉遣いを使うつもりらしい。ただそろそろ待ちきれなくなったのか、表情と後光は崩れて行っている。
ポチは正直に言うことにした。
「ごめん、何の事?」
「なの!?」
このポチの反応にピクシー07は完全に素に戻っていた。
読んでいただきありがとうございました。
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