プロローグ① ネコを作ってみた
閲覧ありがとうございます。
現在ストックが15本ほどなので、それが尽きるまでは毎日更新していきたいと思います。
それ以降も第一部の終わりまでは、三日に一度ぐらいのペースでお届けしたいと思っています。
【神は世界を作った】
【まず星という器を用意した】
【そこに水を注ぎ海が生まれた】
【土を盛り大地が生まれた】
【一息吹いて風が生まれた】
【神は生命を作った】
【始まりは一粒の種だった】
【始まりは涙の一滴だった】
【始まりは一つの欠片だった】
【それは森となり、湖となり、生物となった】
【神に見守られた世界は楽園となった】
【餓えることはなく】
【モンスターと人とが共存する】
【楽園だった】
【世界が出来て幾千の時が過ぎた時、誰かは言った】
【世界を作りし神よ。しばしの休みをお取りください】
【神はその言葉に従い、眠りについた】
【神のいない楽園は即座に不幸で溢れた】
【人とモンスターは飢えを知った】
【人とモンスターは争いを知った】
【人とモンスターは悪を知った】
【両者の戦いの歴史は始まった】
【楽園を忘れたモンスターは破壊を求め世界に蔓延った】
【楽園を覚える人々は過去を取り戻そうと世界を旅した】
【神がお休みになった世界】
【世界は休日の楽園と呼ばれるようになった】
楽園ではなくなったこの世界で。
あなたは何をなしますか。
あなたは何になりますか。
ここにはあなたのやりたい全てが詰まっている。
VRMMO『Feriatus Paradisus』。
あなたはそこでなりたい自分になる。
【神は世界を作った】
【まず星という器を用意した】
………………。
壊れたテレビの様に、空中に広げられたホログラム映像から同じ言葉と、それに合わせたファンタジー世界を映しだした画像が繰り返し流されている。
広大な森は生命に溢れ、青々と輝く海は大きな波の音を立てる。ギラギラと太陽が砂漠を焦がし、美しき城には鎧をまとう騎士とそれに寄り添う姫が立つ。一見どこかにある景色に見えるその世界にはしかし、異形の姿が映り込んでいた。空を巨大なドラゴンが悠然と飛び、エルフの少女が魔法を唱えると炎が現れ、冒険者とゴブリンが剣を交える。
それは誰もが夢想した世界の体現だった。
映像が延々とリフレインされる部屋の中央で、コンピュータに顔を近づけ笑う男が一人。
「ぐふふ、誰が気付くかな。この隠しコマンド……ぐふふ」
VRMMO『Feriatus Paradisus』の開発者の一人たる彼は、面白いことを思いついたと他の誰にも伝えずにあるプログラムを製作していた。
獣人族のアバターを製作時、それぞれの部位において最も猫に近いパーツを何度も組み変えることでそれは選択可能となる。
「何にでもなれるのがこのゲームだよね。ああ、楽しみだな。楽しみだな」
男はそれに完全獣化アイコンと名付けた。二本足で立つ人間に、四本足での生活を与える画期的なプログラムだ。
徹夜明けのテンションで我を忘れて作り上げられたそれは、高度なAIを搭載したゲーム運営用特殊NPC、ピクシー01に預けられ人知れずアップロードされることになる。
その後すぐにぶっ倒れるように寝た男は、次起きた時には自分のしたことを覚えていなかった。
このアイコンは誰にも知られることなく、そのままデータの一つとして誰にも気づかれないまま死蔵されるはずだった。
このアイコンが発見され、選択されるのは配信から数年後。
人ではない猫のアバターに身を包んだのは、日向ぼっこが趣味の男子高校生であった。
巨大なモンスターが大暴れし、プレイヤーが超常なる力を持って戦う世界。
その世界でその少年は一匹の猫に過ぎない。
そして、今はまだただの猫ですらなかった。
もう一つのプロローグもありますので、そちらも併せてお読みください。