六話「拘束」
六話「拘束」
「学院長!」
輝彦達の声に昌吾は驚く。騎士はその隙を見逃さな
かった。剣を抜き、昌吾に襲い掛かる。昌吾はとっさ
に身構え、攻撃を受け止める。
「この学院の生徒のようだな」
「彼らは無関係だっ、片瀬!」
昌吾が切り返す。そして、輝彦達の前に立った。片瀬
と呼ばれた騎士は剣を握り締め、昌吾に斬りかかる。
「守りながら戦うのは厳しいだろう、高坂っ」
「守るものがないよりはましだ、裏切り者のお前よりは!」
片瀬の剣と昌吾の槍がぶつかる。今まで見たことのな
い昌吾の姿と、聞いた事のない口調に輝彦達は戸惑う。
だが、噂どおり昌吾は強かった。片瀬の方がかなり押
されている。輝彦達を守る分、昌吾は不利になるかと
思っていた片瀬であったが、昌吾の強さは変わらない。
それどころか、攻撃のスピードが上がっている。昌吾
が守りに転じたのは一瞬。態勢を立て直すとすぐに攻
めに転じた。
「・・そろそろ時間か」
「逃げれると思うな、片瀬!」
「逃げる?逃げるはずがないだろう。もう少しで味方が
到着するのだからなっ」
片瀬の言葉に呼応するかのように、旧校舎の壁が崩れ去
り、そこから数人の騎士が乱入して来た。ファントムも
数体いる。すぐに昌吾達は包囲されてしまう。カズキ達
も臨戦態勢をとる。だが、昌吾がそれを制止する。
「・・隙を作る。その間に離脱を」
「しかし・・」
「教団の雑兵相手に遅れを取るつもりはない」
昌吾は槍を上空へと掲げた。そして、一気に振り下ろす。
床が割れていき、それが騎士達を巻き込んでいく。致命
傷は与えられないだろうが隙は作れる。輝彦達はその隙
に騎士達の真横を通り過ぎ、旧校舎からの離脱をはじめ
る。だが、片瀬は昌吾の攻撃を回避していた。
「片瀬!お前の相手はこの俺だ!」
「っ・・ちっ・・」
片瀬が昌吾の攻撃を剣で受け止める。輝彦達は無事旧校
舎を離脱する。だが、それと同時に騎士達が起き上がり
昌吾が包囲される。
「敗北を認めろ、高坂。今ならまだ間に合う」
「敗北?傷一つつけれない者が言う台詞ではないだろう」
「命だけは助けてやるぞ」
昌吾は答える代わりに一人の騎士に槍を突き刺した。そ
して片瀬の方を睨み、言う。
「これが答えだ、片瀬!」
そのころ、輝彦達はまだ学院の近くにいるはずの武彦を
探していた。あの人であれば助けれる。そんな気がした
からだ。カズキはその途中、アカツキを見つける。輝彦
達はアカツキに事情を説明し、武彦がどこにいるかを尋
ねた。それに答えたのはアカツキではなく、日下部で
あった。
「アカツキ、ここの指揮は任せた。俺はこいつらを連れて
あの人の所へ行く」
「ああ、任せておけ」
学院は教団の攻撃を受けているようだ。ファントムの部
隊が学院を包囲し、少しずつ前進してきているらしい。
武彦は学院の外の森の中で指揮をとっているらしい。
日下部修一は輝彦達について来いといって歩き始める。
そして、数分後輝彦達は武彦の所にたどり着いた。日下
部は急いで事情を武彦に説明する。
「日下部、お前は持ち場に戻れ。仙波、ルイ、ここの事は
任せた」
武彦の傍にいたルイと仙波の二人が頷く。武彦は呪文を
唱え始めた。武彦の足元に魔法陣が浮かび上がる。
「ここを動くなよ、お前達は」
最後に四人に忠告し、武彦は消えた。いや、消えたので
はなく移動した。瞬間的に別の場所に移動する魔法。転
移魔法である。高度な技術を必要とするため、並みの人
間では扱えない。
「そろそろ限界だろう、高坂」
「・・そんなことはない」
高坂の指示で昌吾の周囲にいたファントムが一斉に飛び
かかろうとした。だが、ファントムは瞬時に砕け散り残
骸が転がった。突然の事に高坂は動揺を隠せなかった。
「・・偉くなったものだな、片瀬」
煙の中から立ち上がった人物に騎士達がざわめく。後退り
をする者までいた。
「丁度良い・・お前も高坂と共に拘束してやる。そうすれば
教団に逆らう連中は消える」
「おもしろい冗談だな、片瀬」
ファントムの残骸が突如片瀬を襲う。片瀬は残骸を回避でき
ず、傷を負う。騎士達が片瀬をかばうために前に出るが残骸
が彼らを襲う。剣で残骸を振り下ろしたのは良いが、武彦の
攻撃を受け、倒れる。
「・・つまらないな。肩慣らしにもならん」
武彦は一瞬で片瀬の前に立つ。ファントムも全て残骸となって
いるし、部下も全員やられた。もはや、片瀬が勝つ術はない。
だが、今更命乞いをした所で無意味なのは片瀬自身がよく
知っていた。武彦は敵に情けをかけるような者ではない。殺す
なら一瞬でだ。
「終わりだ」
武彦の刀が片瀬の胸を貫いた。だがそれが致命傷になること
はなかった。武彦が狙いを外したわけではない。武彦が刀を
貫く少し前に、片瀬の体が動いた。片瀬自身の意思ではない。
片瀬の体を誰かが担いでいた。いつからそこにいたのかは分
からない。ただ、武彦の邪魔をしたのがその者であることは
間違いない。
「わざわざ死にに来たのか?」
「部下を助けに来ただけだ。お前達と戦うつもりはない」
「そっちにはなくてもこちらにはある」
「・・待て・・武彦」
武彦を制止したのは昌吾であった。昌吾は目の前の男に見覚
えがあった。ギルバート。それが男の名だ。教団の幹部の一
人でかなりの権限を持つ。教団に反抗する勢力を次々と潰し
ているとの噂もある。
「学院の包囲はすでに完了している。有利なのはこちらだぞ」
「お前を殺せば戦況は変わる・・だろう?」
ギルバートが動く前に武彦の刀がギルバートの首につきつけ
られていた。ギルバートは舌打ちする。
「私を殺しても作戦は続く。この学院を完全に掌握するまでは」
「・・なるほど。だが、お前を生かしておく理由も無い」
「言ったはずだ、有利なのはこちらだと。学院の生徒を殺す事
とて出来るのだ」
ギルバートが焦りながら言う。武彦は冗談で刀をつきけている
のではない。本気で殺すつもりだ。だが、ギルバートは最後の
切り札を使った。学院の生徒を人質にとったのだ。
「君達の片方が我々に投降するのなら、生徒の命は保障する」
「・・武彦・・学院の事は任せた」
昌吾は投降すると言った。学院の生徒を守るためだと。ギル
バートは約束は必ず守ると言った。
「なら、全ての戦力を撤退させろ。今すぐにだ」
「分かっている」
学院を包囲していたファントムの部隊はすぐに撤退を開始した。
しかし、昌吾はギルバートに拘束され、どこかへと連れて行か
れた。学院は守りきったが、武彦は複雑な心境であった。だが
ギルバートが去る前に武彦はギルバートに告げた。
「いずれ借りは返す」
「・・楽しみにしておこう」
そして教団の騎士達もひきあげていった。だが、このギルバート
の取った行動が武彦の逆鱗に触れてしまい、事態を最悪の方向
へと進ませた事をまだ教団の幹部達は知らなかった・・