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五話「旧校舎の地下に眠る者」

五話「旧校舎の地下に眠る者」

「なんだよ・・これは・・」

 旧校舎の地下への入り口と思われる扉を開けるとそこ

 には鎖に繋がれた一人の男がいた。男の顔には何の表

 情もなかった。だが驚くべきはその男の足元に散らば

 る無数の血痕であった。まるでここで惨劇があったか

 のようだ。

「妙だな・・これだけ血痕があるのに血の匂いが全くし

 ないなんて・・」

 輝彦の言葉に信雄達も同意する。確かに全く血の匂い

 がしない。信雄は鎖に繋がれている男に近づいた。

「死んでる・・のか」

「いや・・多分気を失っているだけだろう」

「どうしてこんな所に人が・・」

 鎖はとても頑丈そうだった。とても一人や二人で外せ

 そうなものではない。この男が何者であれ、これだけ

 頑丈そうな鎖に繋がれているということは相当危ない

 人物なのだろうか。例えそうだとしてもどうしてこん

 な所に幽閉されているのだろうか。

『違います・・この人・・人間じゃないです』

「リン?」

 リンは怯えていた。鎖に繋がれ、気を失っている男に。

 身動き一つ取れないはずの相手に怯えていた。

≪ほう・・俺が誰だか分かるのか?若き精霊よ≫

「!?」

 この場にいる誰の者でもない声が聞える。カズキ達は

 辺りを見渡したが、自分達以外は誰もいない。可能性

 があるとすれば目の前の男だが、それはありえない。

「誰だ?」

≪俺は今は意識だけの存在でな、目の前に俺の体がある

 だろう?≫

 声が答える。カズキ達は驚いた。声は言うなれば幽霊

 のようなものであった。実体を失った意識体。死んだ

 わけでもないが、外部からの力で意識だけが放り出さ

 れた状態。

≪お前達が何のためにここを訪れたかは知らんが、早々 

 に立ち去る事を勧めよう。でなければ死ぬぞ≫

「どういうことだ?」

『・・カズキ様・・この声の主は精霊なんです』

 カズキがリンの方を向く。リンもよく知っている精霊

 だった。かつては精霊界を統一する四人の精霊の一人

 として数えられていた精霊、デュバル。精霊戦争を引

 き起こした張本人でもある。声が笑う。

≪やはり・・そうか。お前はあの忌まわしいるスザクの

 娘か≫

『貴方は父と共に死んだはず・・どうしてこんな所に・・』

≪スザクも生きているぞ。ここにはいないがな≫

 リンの動きが止まる。スザクは生きている。その言葉

 に反応したのだろう。だが、リンの知っているデュバ

 ルはこんなことは言わない。デュバルは自らが生きる

 ためには誰であろうと犠牲にするような者だ。まして

 人を助けたりなどしない。

「あんたは・・精霊を率いて人間を襲ったんだろう?」

≪・・精霊戦争・・。私はあの戦争には関与していない≫

『え?』

 リンが戸惑う。輝彦も耳を疑った。精霊戦争の原因

 となったのは精霊界の中心でもあった四人の精霊の

 内二人。その精霊の名前までは知らなかったがそれ

 は間違いないはずだ。

≪精霊戦争の間も私はここにいた≫

『そんな・・じゃあ・・父は・・』

≪・・若き精霊・・そして人間達よ。私の言葉は信じれぬ

 とは思うが・・一つだけ言っておく。教団の目的はこの

 世界の崩壊だ≫

 デュバルの言葉に誰もが動揺した。何が真実なのかは

 もうすでに分からなくなっていた。デュバルの声はそ

 れ以上聞えることはなく、誰もが呆然としていた。だ

 がそこへ頭上から爆発音が轟く。何があったのだろう

 か。動揺する四人に再びデュバルが語りかける。

≪来た道を戻れ。・・上にいた者が包囲されている≫

「学院長が?」

≪急げ。今、動けるのはお前たちしかいない≫

「教団の連中か!」

 カズキ達はすぐに昌吾を助けるために走っていく。

 そのころ、昌吾は複数のファントムに囲まれていた。

 どうやら旧校舎に入っていく前から尾行されていた

 ようだ。

「タイミングを見計らっていたというわけですか・・」

 昌吾はどこからか槍を取り出し、それを握り締めた。

「残念ですが・・簡単に捕まるつもりはないのでね」

 一斉に飛び掛るファントム達。だが、ファントムは

 一瞬で全て破壊される。昌吾は槍を構え周囲を見た。

 これで終わりではないはずだ。それにファントムだ

 けではないだろう。どこか近くに教団の騎士もいる

 はずだ。

「近くにいるのは分かっています。出て来てはどうです?

 それとも・・卑怯な手でしか勝てませんか。負け犬の

 あなたは」

 昌吾が苦笑する。その言葉にいらいらしたのか、物陰

 から一人の騎士が姿を見せた。騎士の後方にはファン

 トムが数体待機している。

「抵抗を止めろ。そうすれば命だけは助けてやる」

「まるで自分が強いかのような台詞ですね。私達三人の

 中では最も弱かった、君が」

 昌吾の言葉に騎士は苛立ちを隠せず、ファントムに攻撃

 命令を出した。だが、すぐにファントムは残骸となって

 しまう。騎士は動揺していた。昌吾はその動揺から生ま

 れる隙をついて、攻撃する。

「少しは強くなったようですね・・君も」

「その喋り方・・止めればどうだ?疲れるだろう」

 昌吾の槍が騎士を襲う。騎士はその攻撃を回避するだけ

 で精一杯で、剣を抜けずにいた。

「裏切り者にはここで死んでもらう」

 今までの言葉遣いとは全く正反対の言葉を昌吾は使って

 いた。いや、きっとこれが昌吾の素なのであろう。

「教団に味方した己を呪え・・片瀬博之っ」

 昌吾は過去を断ち切るべく、槍を振っていた・・


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