四話「旧校舎」
四話「旧校舎」
この日、輝彦、カズキ、リン、信雄の四人は旧校舎に
来ていた。昌吾が待つ旧校舎の入り口に四人は到着し
た。
「では、行きましょうか」
昌吾を含めた五人は旧校舎の中に入っていく。この校
舎は数年前までは実技教室として使われていたらしい。
魔法の実技試験などの時に使われていた建物だ。噂で
は試験の際、暴走事故が起きて数人の生徒が亡くなって
しまい、それから使われなくなったらしい。
「しかし・・かなり不気味な雰囲気ですね」
暗い廊下に、ずっと使われていないからか埃がかなりあ
る。昌吾は懐中電灯を手にしていた。電気がつけれない
からだ。彼ら五人が目指すのは旧校舎の地下。騎士達が
いう何かが隠されているとすれば、そこが一番可能性が
あるという。ただでさえ、ここは無人の施設だがたまに
教員が入ることがあるらしい。だが入ったとしても地下
までは行かない。だから何かがあるとすれば誰も見に行
かない地下があやしいのだ。
「地下に続く階段は一つしかありません。そこに最近人が
通った跡があれば・・地下には何かがあると断定しても
良いでしょう」
教員であってもこの旧校舎には学院長である昌吾の許可
を得てから入らないといけない。そして、旧校舎の見回
り以外に教員が入ろうとした記録はここが使われなく
なってから一度もない。旧校舎の見回りは地上部分しか
しないことになっているので、地下に続く階段には足跡
など残っていないはずだ。先頭を進む昌吾が足を止めた。
「・・この階段ですね」
「人が通った跡なんて無さそうですが・・」
階段は廊下同様埃まみれだった。こんなに埃がついてい
るなら人が通ると、靴の跡程度残りそうだ。だがそんな
ものは見当たらない。しかし、カズキは階段の真ん中を
見ていた。そこに何かが落ちてある。
「・・これは・・」
「ペットボトル・・?」
カズキはそれを拾い上げる。製造年月からしてつい最近
のもののようだ。
「・・どうやらここを誰かが通ったのは間違いないみたい
ですね」
昌吾達は一歩ずつゆっくりと下へと降りていく。この旧
校舎が建てられたのは昌吾が学院長になる前のことらし
い。だから昌吾もこの校舎の全てを把握しているわけで
はない。特にこの校舎の地下にはいろいろと謎の部屋が
あり、まだここが使われていた時も地下に入りたがる者
は少なかった。何のために校舎に地下室など作ったのか
は謎だが、強大な魔力で校舎自体が覆われているために
解体工事も出来ないのが現状らしい。一説では何かを守
るために作られたのだとも聞くがそれも本当かどうかは
分からない。
『強い魔力を感じます・・』
リンの言葉に全員が足を止める。カズキ達は臨戦態勢を
とった。何か不穏な空気を感じたのだ。そしてそれはあ
たった。カズキ達の所にナイフが投げられる。尋常じゃ
ない魔力が彼らの目の前から溢れ出ている。懐中電灯で
照らしても人がいる気配はない。だが何かがそこにいる。
「なんだ、この不気味な感覚は・・」
「・・前に進むのです、君達は」
昌吾が呟いた。前に進めと。カズキ達は昌吾の方を向いて
何かを聞こうとする。だがそれを遮るかのようにまたナイ
フが飛んできた。
「私がここで彼を足止めします。君達はその隙に奥へ」
「戻るっていう選択肢は・・」
「もう上へ続く階段はありませんよ」
昌吾の言葉は嘘ではなかった。昌吾達が降りてきた階段が
消えている。まるで最初からそこには何もなかったかのよ
うに。昌吾は繰り返した。先に進めと。戻る事も出来ない
今はそうするしかないと。カズキ達は少し躊躇したが躊躇
いを振り払い、進む。ナイフが飛んでくるかと思っていた
がそれはなかった。ただ遠くで刃と刃がぶつかり合うよう
な音がしているだけだ。そして何分歩いたかも分からずに
ただ前に進んでいた彼らの前に一つの扉が現れた。
「まるでここに入れって言ってるみたいだな」
「学院長は何かを知っているような感じだったし・・」
「だけど・・進むしかない」
もう戻る事は出来ないのだ。カズキ達は躊躇いを振り払い
扉を開けることにした。その先に何が待っているかも知ら
ずに・・