一話「荷物」
一話「荷物」
「本来のルートからはかなり離れているな・・」
深い森の中を数人の男達が周囲を警戒しながら歩いていた。
中央の男は小箱を握り締めていた。その小箱を守りきるの
が彼らの仕事らしい。先頭を歩いていた男が足を止めた。
「囲まれたか・・」
その言葉に全員が足を止める。一番後ろにいる男が現在位
置を特定する。
「ここからなら学院が一番近い」
「あそこに逃げ込むのか?」
「アカツキ、あそこなら教団も容易に手を出せん」
アカツキと呼ばれた男はおなも躊躇していた。だがその間
にも敵との距離は縮まる。アカツキを含め男達は学院・・東京
魔学院に逃げ込むことを決意した。現状ではそれが最善の
策とも言えた。
「俺はあいつらを足止めする」
「・・頼む」
アカツキはその場にたった一人残った。そして迫り来る敵
を迎撃する。アカツキにとってはかつて同胞であった者達を。
だが躊躇はしなかった。過去は過去。一番大事なのは現在だ。
今敵である者達に情けをかけるつもりはない。
「俺達を追ってきたことを後悔することだな・・へレン!」
そのころ東京魔学院では午前の授業が終わり、昼食の時間と
なっていた。生徒会公安部の部屋にはいつものメンバーが集
まっていた。
「最近学院内で特に変わったことなんてないよ」
「公安部廃止の案もあるんだろう?輝彦」
「噂ではな。・・生徒会の役員会議には俺は出ないからな・・」
東京魔学院公安部。生徒会の特別メンバーとも言うべき彼
らの役割は学院内の秩序を保つ事。簡単に言えば喧嘩を止
めたりすることだ。後は不審物の処理など。しかし、最近
は学院内でそういった騒動が起きること自体が珍しくなって
おり、生徒会の正規メンバーは大半は公安部の廃止を求めて
いるらしい。完全廃止は無くても規模縮小程度は公安部部長
滝川輝彦も覚悟はしていた。だがその隣に座る公安部副部長
の肩書きを持つ坂本信雄は反対していた。
「この前の騒ぎだって俺達がいなけりゃ、あの精霊は死んでたぜ?」
「だがあの騒ぎを公表するわけにもいかないし・・」
「・・というより、何で俺が副部長なんだよ」
実は最近まで副部長は別の人物であった。成瀬達彦という生
徒が副部長を務めていた。だが、達彦は突然自主退学したの
だ。公安部の誰にも、もっと言えば友人の誰にも理由を告げ
ずに。そこで公安部メンバーで誰がいいかを多数決で決めた
所信雄になってしまった。
「そういえば、彼女は元気なのか?カズキ」
「元気ですよ、相変わらず」
カズキという一年生の生徒はリンという精霊と契約している。
少し前の騒動までは精霊を嫌っていたカズキだが、いろいろ
とありその後はリンと仲直りしている。その騒動の事を公表
できれば公安部廃止など言わなくなるだろうが、公表できな
いわけがあった。それはその騒動にとある組織が関わってい
るからだ。欧州魔法教団。教団と呼ばれる組織である。かつ
ては国際魔法機関の一部であったが国際魔法機関のやり方を
批判し独立した組織だ。東京魔学院は教団系の学校である。
だが、公安部が関わった騒動の際に教団はファントムと呼ば
れる兵器を投入し学院を襲撃した。学院長はこの一件に対し
全員に外には洩らさないようにと言った。そんなことをすれ
ば大混乱が起きるからだ。
『大変です、カズキ様』
「リン?」
カズキはいつも穏やかな性格自分の契約精霊がかなり焦って
いることに驚きながら、何があったかを尋ねた。
『教団の人達が・・学院の近くに』
「教団の人間が?」
『はい。この学院に何か運び込まれたはずだって・・』
リンは姿を消して学院内をうろうろしていたのだろう。そこ
で偶然教員と教団の人間の会話を聞いたようだ。教団の人間
はかなり荒々しく教員に尋ねていたらしい。ここに何かが運
び込まれたはずだと。
「この前みたいにならないといいが・・」
そのころ、学院から出て行こうとしていた教団の幹部達は立
ち止まり振り返った。
「なんとしても・・あれは奪わねばならない。まだ、ヘレンの
部隊とは連絡がつかんのか?」
「どうも精霊殺しと交戦したようで・・最悪の場合もうすでに
死んでいるという可能性も・・」
教団の幹部は舌打ちした。
「視察目的と告げれば連中も学院内の調査を断れないだろう・・」
学院を巡る新たな戦いがまた始まろうとしていた・・