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『現代悪魔の異世界転移(仮)』  作者: 物書き組(六錠黙・じゃむと・トリ)
8/9

《入学式Ⅲ》 筆:トリ

六錠です。

8/9投稿予定だったのですが、予約を完全に忘れてましたorz

 ずっと立っている、ということを除いては普通の入学式だった。

 驚いたことと言えばマーリムとかいうバナナ味の果実を配っていた露天商が全員この学校の教員だったということぐらいだ。「……今年の新入生も、面白そうだな」その声の主もその教員の1人だった。

 レイが総代として言葉を述べ―――ふと、アルヴァ公を見てみると壇上のレイを見て表情が緩み切っていた―――最後に学園長がこの後にあるクラス分け試験の説明をしだした。

「本来ならばクラス分け試験は筆記と実技、2つの試験があるのじゃが……こちらの都合により、筆記試験は実施できぬこととなった。よってこれより実技試験を始めることとする」

 なん、だと。

 筆記試験で点を稼ぐ気満々だった俺にとっては死刑宣告に近いではないか。

「ああ、筆記試験はまた後日実施するからの。そう……心配するでない」

 学園長のその言葉に胸をなでおろしたのは俺だけだろうか。あたりから聞こえたどよめきの中には喜ぶ声は聞こえなかった。

 ああ、それと。と、学園長は機嫌よさそうに口を開く。

「臨時講師の紹介がまだじゃが、……それはあとの楽しみじゃ。一刻も早く知りたいと言う者はのう……実技試験で最後まで残ることじゃな。許可もとっておるし、君達にとってまたと無い機会だろうからのぉ。では、健闘を祈る」



 健闘を祈る。

 その言葉に嫌な予感がしながら俺は指定された場所へ向かった。

「あれ?ルーク?」

「あ?」

 1人佇んでいた赤い人影はだれかと思えばレイだった。ここに来る前に実技だから、と制服から着替えたのだ。

「おー、ルークじゃん!」

「……あれ、あなた方は」

 少し遅れて来たのはヴァルと入学式で少し話した少女―――ロッサ・エルティファーナ―――だった。式が終わったあとに俺とヴァルとは自己紹介を済ませてある。

 実技試験は平民と貴族混合の4人チームで行われるらしい。実際に会うまで誰と組まされるか分からなかったがメンバーを見てほっとする。これならばどうにかなりそうだ。

 実技試験の内容は障害走らしい。

 ただ、跳び箱や平均台といった類の障害ではなく。

―――「模擬戦闘だからと言って油断するでないぞ」

 学園長の言葉通りだとすれば相手はきっと、あのゴーレム事件の時のような怪物。

 その予想を裏付けるように俺たち新入生はこの場に限って全員武器の所持を認められている。

「……何が出るんだか」

「そうですね、ルークさん。……私も戦闘は苦手でして。水を降らせるくらいしか」

「なら、俺が前に出てぶっ飛ばしてやるよ!ルークも一緒にどうだ?」

「……まあ」

「ちょっと、そいつが魔法効かなかったらどうするのよ!」

「そん時は……頼んだぜ!エルフさんよ」

「私1人じゃ無理に決まってるでしょ!」

 そんな彼らの様子を見ながら意気投合してよかった。と胸の中で独り言ちる。……違うかもしれないが。

 そんなことはどうでもいい。

 さっきの会話で分かったこと。それはこの中で魔法をまともに扱えると公言しているのがレイ1人だということだ。

 なんとかなりそう、というのは撤回することにしよう。

「なぁ、レイ。魔法が効かないだとかそんなヤバそうなのが出てくるのか?仮にもクラス分け試験だろ?」

「もしも、って話よ。今までそんな話は聞いたことはないけれど、ほとんど最後までたどり着けるチームはいないっていうほどだから。最初に戦闘したことがない人が集まってしまった場合。次に経験があっても体力や気力が持たなかった場合。その次にチームメンバーの相性が悪すぎた場合。いい例は傲慢で命令ばかりしていて自分では何もしない貴族が混ざっちゃった場合ね。その次に力はあるけど自分の実力や試験の全行程を考えずに突っ込んだチーム。だいたいこの順番で落ちていくって言われているわ」

「ふーん、なら俺たちは大丈夫そうだな!」

「……そうでしょうか。自身の力を見誤るといけないと先ほどレイさんがおっしゃっていましたけど」

 ロッサの鋭い指摘にヴァルはうっ、と言葉に詰まる。

「何にせよ、最善を尽くせばいいだけよ」

「一番奥まで行ってやろうぜ!な、ルーク!」

「……まあ、最善は尽くしてやる」

 めんどくさい。ものっすごくめんどくさい。




 めんどくさい。めんどくさい。めんどくさい。めんどくさい。めんどくさい。

「もおおおぉぉぉぉ!なんでこんなのがいるのよ!?バッカじゃないの!?」

「……酷すぎます」

「かてぇっ!」

「……っち」

 俺たちの目の前にいる怪物。


 ゴーレム。


 しかも、ただのゴーレムじゃない。あのゴーレム事件の時に遭遇したアヴェルヒ教授特製、対打撃強化ミスリルゴーレムである。普通あれだけの騒ぎを起こしたのなら出さないだろう。あとで文句の1つくらい言ってもいいはずだ。

 あの時は何体もいて八方塞がりの状態でボコられたが今回は1体。動きは鈍いし攻撃を避けるのも簡単だ。

 ただ、硬い。ものっすごく硬い。

 4人がかりで殴ったり踏んだり蹴ったり撃ったり……と、すでに30分ほどしているのだがその表面にはヒビどころか傷1つついていない。

「おい、レイ!何か手はないのか?」

「そんなこと聞かないでよ!」

 最初はただの藁人形や何だか分からないブヨブヨした球体だけであっさりと突破できたのだが先に進めば進むほど厄介になってきている。いよいよ終盤、というやつだろうか。

 途中、ふつうの何の細工もしていないゴーレムもいたがアレはとても脆かった。土でできていたのかロッサが機転を利かせ水魔法を放ちすぐに撃沈。泥の山となった。

「あ……」

 チラリ、とレイを見た俺にレイは首をひねる。

「何よ?」

「レイ、ロッサ、魔法だ。打撃に強いなら魔法で攻撃すればいいんじゃないか?」

「……でも、私、……攻撃魔法は得意ではなくて」

 短杖を片手にロッサは自信なさげにうつむく。

「やらないよりマシよ!ルーク、ヴァル、魔法を展開する時間を稼いでくれる?詠唱が完成したら合図するから左右に避けて!」

「わかった」

 レイとロッサが垣根の近くまで後退する。

 試験のために一時的につくられた高さ3メートルほどのバラの生垣でできたこの迷路は、戦闘と行うための少し広くなったエリアと、エリアとエリアを繋ぐ通路でできている。エリアにいる怪物だとかを倒せば奥に行ける道が開ける。単純な仕掛けだ。奥に行けばいくほど蕾のバラは少なくなり、咲いている花は多くなる。このエリアはほぼすべての蕾が開いてきれいな花を咲かせている。ということは、かなり奥まで来たということだろう。

 このミスリルゴーレムと戦ってて思うことは本当に死ぬことはないんだろうか。ということだけだ。

 試験に入る前の説明では本当に危険な場合はエリア外に強制転移させられそこで試験終了だという。もちろん自ら途中棄権することも可能でその場合には棄権するということを叫べばいいらしい。

「ルーク、ヴァル!避けて!」

 そんなことを考えながら攻撃しているうちに詠唱が完成したらしい。

 俺とヴァルが左右に避けた刹那、灼熱の劫火球がミスリルゴーレムに打ち込まれる。

 髪の先が熱でチリチリと音を立てているほどだ。

「……降ってください」

 ほぼ同時に詠唱を完結させたロッサが短杖を掲げるとゴーレムの上に水が降り注ぐ。

 バキリ、という確かな音が場に響いた。

「よし、全員で一斉攻撃!」

 俺の声で一斉にとびかかって殴りつける。

 数分後。

 粉々に崩れさったミスリルゴーレムを前に俺たちはすっきりとした笑みを浮かべていた。




 「なあ、長くないか?」

 ヴァルの発した疑問はもっともだ。

 ミスリルゴーレムを撃破し次のエリアへと続く通路へ足を踏み入れた俺たちはすでに今までのエリアとエリアを繋ぐ道ならば3本分はありそうな距離を歩いていた。バラの花も満開となり、足元も土から白い石へと変わっている。

「……これ、この先がもしかして」

「ああ、最奥、ってやつだろうな」

「あのミスリルゴーレム以上の強敵が待ち構えてる、ってことよね?」

「だろうな!どんな奴だか楽しみだぜ!」

「そういえば学園長が臨時講師が誰だか一刻も早く知りたい人は最後まで残れ、っておっしゃっていたけど……最後、っていうのは最後のエリアまでってことなのかしら?それとも最後のエリアも突破しろってことかしら?」

「あー……」

 全員がそろって声を出す。

 そういえばそうだった。そんなことを言っていた気がする。

 ミスリルゴーレムを撃破した余韻に浸りきってそんなこと忘れていた。

「でも、最後のエリアも突破するということはあのミスリルゴーレム以上の強敵を撃破しなければいけないということですよ?」

「でもミスリルゴーレムだって弱点はあったぜ?きっと学園もそこまで鬼畜仕様の試験課題は出してこないはずだ。大丈夫だって!」

 陽気に笑うヴァルにレイは不安そうな表情のまま言う。

「……ここまで来ておいてあれだけど、最後のエリアを突破できたチームはこれまでいないそうよ?……とは言っても5年前までの試験はさっきのミスリルゴーレムのエリアまででこの先のエリアができたのは4年前からだっていうし。……なにより、この先のエリアに足を踏み入れたチームっていうのは片手で数えるほどで、どのチームも何があったかを語りたがらない……というか、語ることができないらしいわ」

 無意識のうちに全員が一塊になる。

「な、なんだよ、その話!?」

「……なんでしょう、私、だんだん寒気が。寒くありませんか?」

「寒いというよりこれはむしろ、威圧感、というべきかしら」

 歩いているうちにいつの間に建物の中へ入ったのか白い壁に足音が反響する。

 バラはどこに、と辺りを見渡すとあった。壁に蔦を這わせ氷のバラが密生していた。本物のバラをそのまま氷にしたような精巧さで思わずブルリと震える。

 なんにせよこの先は相当ヤバい。

 俺が1人ならここで途中棄権したくらいだが。

「絶対勝ちますよ」

「どんな奴が待っているのか楽しみだぜ」

「やってやるわ」

 闘気に満ちたチームメンバーにやれやれと肩をすくめる。周りにあわせるなど自分らしくもないが所詮これは実戦ではなく、ただの模擬戦闘だ。命まで奪われることはないのだし、きっとこの先ではこれまでにない強敵と闘える。

 楽しみだ。

「あ、あれ、見てください!」

 ロッサが指さした突き当りには扉があった。

 壁と同じ白の扉は淡く発光している。氷のバラが絡みついているということはだれも通っていない、ということだろう。

「よし、開けるぞ」

 全員で手を添えて扉を押す。呆気なく砕けた氷のバラが舞い散るがそれを振り払う。

 この先には何がいるのだろう。

 最強とうたわれるドラゴンだろうか?




 足を踏み入れた部屋は広かった。これまでと同じ白い壁には見事な彫刻。そして氷のバラ。

 シン、とした空間にいたのは怪物ではなかった。



 部屋の中央に立っているのは1人の人だ。

 顔は兜に隠れて見えない。

 インディゴをベースに銀のラインが入った甲冑はどこか神々しささえ感じてしまう。

「まさか、ここまで来るとは思いもしなかった」

 赤いマントを揺らして騎士は振り向く。

「さて、キミたちは私との立ち合いを希望するのかな?」

 落ち着いた声で問う騎士に俺たちは数秒間絶句した。

「ぜ、ぜひ、……私たちと闘ってください!」

 真っ先に声をあげたのは意外にもロッサだった。

「いいだろう。他の者はどうするかな?」

「闘います」

「闘ってやるぜ!」

「……らしいからな」

 次々と武器をかまえるチームメンバーに俺もリボルバーをかまえる。

「その前に騎士様、名をお教えください。私はアルヴァ家子女、レイ・R・アルヴァと申します」

「ロッサ・エルティファーナです」

「獣人族銀狼種のひとり、ヴァルクガーナ・ギブスリークだ」

「……ルークだ」

 名乗るように促されそれぞれ自分の名を名乗る。俺だけ苗字がないことを不審に思われないといいのだが。

「ふむ。アルヴァ家の子女は礼儀がなっているな。いいだろう」

 騎士は白い剣の柄に右手を添えると一気に引き抜く。

 光を反射する剣はその刀身自身が発光しているかのごとく輝いている。

「私はオリス。グラシェニレア聖教中央地区管轄聖教騎士第1位オリス=ケリントラ・クルヴァーン」

 オリスはすっ、と剣をひくと剣先を寸分の狂いもなく俺たちのほうへ向ける。

「いくぞっ!」

 俺の合図で俺たちは走り出す。

 ほぼ同時に床を蹴った聖教騎士の鈍く光る刃が俺たちに迫ってきていた。

次回はこれまで通り8/13です。

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