ありそうな話
タイトル通りありそうな話です。
「ごめ~ん、お待たせ!」
ようやく来た待ち合わせ相手を見て私は言葉を無くした。
あなた、私と同じ31歳よね?ノーメイク? え、なに、眉も整えてないの? リップもなし?
おまけに何その服。Tシャツにジャージズボン!
スポーツ一切してなかったよね? てか、してないよね。ゆるいTシャツジャージでも体型分かるよ? ズボラ服は別にいいけど、家の中だけにしてよ!
心の中でここまで一気に突っ込んで、我に返った。
え、私この人とこれからご飯食べに行くの?勘弁してよー
「朋美?」
高校時代の友人、理恵が不思議そうな顔をして私を見ている。
理恵から連絡が来たのは一昨日。同級生ではあったけど、親友までに至ることなく友人だった理恵。
お互い地元就職だから、たまに連絡を取り合ってきたような関係。
「相談があるから」と久しぶりに会う約束をして今に至ったわけだけれど。
ここまで来て今さら行かないもなし、よね。
「じゃ、行こ。乗って」
私は自分の車を指した。私たちが住んでいるのはちょっとした田舎。電車もバスもあるにはあるけど、あまり本数がないので移動は車がメイン、というような地域だ。
理恵は私の車に乗ってシートベルトを締めた。
向かうは…ファミレスよね! お洒落なレストランでランチでもと思ったけど無理! 理恵に確認したけどファミレスで良いって言うから、私はファミレスへと車を走らせた。
+
+
+
ファミレスに着いて席に案内されて料理を注文。
他愛ない話をしながら過ごして、ご飯食べて、食後のコーヒーを飲んでいたところで。
「あたし、付き合ってる彼氏がいるんだけど」
「え、いるの!?」
理恵の言葉に、思わず口から暴言が滑り出してしまったのは許してほしい。まさか、ノーメイクにジャージで外出する女に、彼氏がいるのなんて思わなかったからさ。
「あ、うん。朋美は?」
「あー、募集中だよ」
うーん。理恵に彼氏か。少し悔しいな!
「でね、相談に乗ってほしいの。なんか、最近彼冷たくて…」
そう言って理恵は彼氏の話を始めた。
「彼の名前、森雄介っていうんだけど。同じ職場で23歳で」
「え、8歳年下?」
「うん。彼の仕事の相談に乗っているうちに付き合おうかって話になって、付き合うようになって半年たつんだけど。最近冷たいなって思うようになって」
「え?」
「でね、電話かけようとしても『俺の時間を邪魔されるのは嫌だから』って電話はダメだって。メールも『忙しいから返信できない。返信は火曜と木曜の夜だけだ』って」
「ええ?」
「それに最近シないの。付き合い始めたころは1週間に1回シてたけど。最後にシたのは3か月前かな」
「えええっ?」
なにそれ。それって付き合ってるの?
「ね、本当にそれ付き合ってるの?」
「もちろん! あ、でも職場でいろいろ言われたくないって言うから、職場には秘密にしてるんだけど。彼も好きだよって言ってくれてるし、週1回デートはしてるよ」
理恵が胸張って言ってるけど。
それってデートなの?本当にデートなの?
怖いけど一応聞いてみるか。
「デートってどこ行ってるの?」
「ファミレス」
「いや、そうじゃなくて」
「一緒に行くのはファミレスだよ。あたしの車で」
いやいや、この近場には一応観光スポットなるものがあちこちあるでしょ?
それにあんたが車出してるんかい!
あんたと同じ職場なら、間違いなく彼氏も車持ってるでしょーが!
「なんかね、彼が出歩くのあんまり好きじゃないって。だからファミレスでデート」
「まさか、デートの支払いは」
「あたしがしてるよ? だってあたし年上じゃない」
なんでそんなこと聞くの?と首を傾げる理恵。
「じゃ、じゃあ彼の家に行くとか…」
「お母さんが彼女が年上だと気にするって言ってて、行ったことがない」
「理恵の家には?」
「彼、忙しいから来たことがない」
ちょっと待て。
いくら私が恋愛から離れてるとはいえ、これがおかしい状況ってのはわかるよ?私じゃなくてもきっとおかしいって思うよ?
なんで当事者がおかしいことにちっとも気づいてないのーっ?
「ねえ、どうしたらいいと思う?」
どうしよう。
なんて言えばいい?
『30も過ぎたんだから、身だしなみに気を使った方が良いよ』
『それって、付き合ってるって言わないよ』
『彼氏、本命別にいるんじゃない?』
他にもいろいろ言いたいことあるけど。
恋に盲目中の理恵に、私の話が通用するかな?
私の方がどうしたらいいのか誰かに相談したいわ!
+
+
+
一か月後、理恵から『相談したいことがある』とメールが来た。
どうやら、あの彼氏とまだ『付き合っている』らしい。
私には今、彼氏はいないけど。理恵に彼氏がいても何故か悔しいとは思わない。全く、思えないから。
でも、これだけは言わせてほしい。
早くその彼氏と別れてくれ!
お読みいただき、ありがとうございました。