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こわモテ  作者: ふたり
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 来月にはマラソン大会を控えた我が高校は今、秋の恒例行事、文化祭を絶賛開催中である。

 9月に生徒会選挙、10月に文化祭、11月にマラソン大会。

 1ヶ月に一度は何か行事をやらないと気がすまないらしい。

 ちなみに12月は合唱コンクールである。

 いい加減にしてほしい。


 とはいえ、特にこれといって特技もなく、目立った活躍もしそうにない私には、あまり関係のない行事である、はずだった。


「やっぱり、神崎さんって目が怖いんだよ。目さえどうにかすれば、絶対に美人だって思ってたよ」


「ほんとほんと、まさかミスコン優勝しちゃうなんてね。あのA組の一ノ瀬君を差し置いての1位って、すごくない?」


「神崎の目はヤバいもんな! なんで、今まで気づかなかったんだろうな。めんたまデカくするコンタクトつけるだけで別人!」


 男と競って勝手もうれしくないが、ミスコンなのに、なぜ男であるあの変態が参加できたのが謎である。

 そして、こいつらも何か発言が容赦がない。


 我がクラスの本格的お化け屋敷は午前の部と午後の部で役割分担がされ、私は午前の部に出て、午後は自由に文化祭を楽しむ予定だった。

 だが、午前の部が終わった14時ごろ、クラスの女子に拉致され、そこへちょうど一ノ瀬正臣こと変態が教室へと私を迎えにきたので、そのままクラスの女子に拉致されるがまま、逃げたわけだが。


 気づけば、顔には化粧がほどこされ、目に得たいの知れない物体を入れられ、いつのまにか、私は体育館の壇上へ上っていた。

 衣装は、お化け屋敷できていた白い着物だ。

 頭にはあの三角形のアレが巻き付いている。


「優勝は、1年E組の神崎綾子さんです!」


 拍手喝采の中、私は隣にいるど変態を睨み付けていた。

 彼はなぜか、黒の生地にピンクと白の桜吹雪が彩られた「女性用」の着物を着ていた。妖艶で実に似合っているのだが、今日という日に何故着物を学校へ持ってきていたのか。


「本当は綾子にこれを着てもらうはずだったんだけど、いつの間にかいなくなっちゃうから、僕が着ちゃったよ」


「似合ってるからいいんじゃないのか?」


「そう? そんなに似合う?」


「私が着るより君のほうがよっぽど、」


 似合うという言葉を続けようとしたその時、頬にかかった私の黒髪を何者かがかきあげる。今まで髪の毛で遮られていた体育館のライトの光が一気に視界に入ってきて、目の前が真っ白になる。

 反射的に目を細め、首をすくめた。


「ねえ、それより僕の帯を引っ張って、脱がせてよ。悪代官みたいにさ」


 ぞぞぞぞぞと全身に鳥肌がたった。

 耳元でそう囁かれた私は、間合いをとり相手をにらみつける。

 着物の袂で口を隠しているが、隠しきれていない口の端が上を向いているのが見えた。

 気色が悪いほど満面の笑みを浮かべているこのド変態に、無意識のうちに私の目に力がこもる。

 睨んではいけない、睨んではいけないとわかっているのに、おさえきれない。


「変なコンタクトしてるけど、綾子の目はやっぱり、きれいだね。でも、いつもの目のほうが何倍も僕は好きだなあ」


「来るな変態!」


「ほら、動かないで、僕がとってあげるから」


「自分でやる! 結構だ!」


 拍手の音で残念ながら私たちのやり取りは誰一人として、耳にできるものはいないらしい。

 誰一人こいつの奇行を止めに入らないのだ。

 私はこいつから逃げる形で、体育館をあとにした。

 後ろのほうで司会の生徒が、まだ終わってませんよ、戻ってください! と叫んでいたが、知ったことではない。




 ー000ー



「俺はとうとう神崎さんが水島さんへ嫌がらせをしている確たる証拠をつかんだ」


「はい」


 あの喧騒のなかを脱出したあとは、図書室にでも行って一人穏やかに過ごしたかったのだが、そうはいかなかった。

 教室へ着替えに戻ろうとした時、榊副会長に捕まってしまい、またもや生徒会室でこうして向かい合って座っている。


 いいかげん、この白装束から着替えたい。

 だが、自信に満ち溢れた榊副会長の誘いを断ることはできなかった。

 なにしろ、私と同じあのド変態に振り回されている者同士、彼が不憫に思われて、どうしても嫌ですとは言えなかった。


 ひとときでもいい、彼にいい夢を見させてあげたかった。


「神崎さんは今日10時から14時の間に自身のクラスの出し物に参加していた。間違いないな?」


「はい」


「そのあとはどうしていた?」


「それは」


 ミスコンに参加していた。が、優勝してしまった以上、なんか自慢にしかきこえない。私は、自発的に自慢話をするのが嫌いだ。

 誰かに自分の自慢をしてもらうことで、優越感を感じる人間なので、ここはなにも言わず、黙っている。


「水島さんのクラスの出し物は、メイド喫茶だったらしい。そして、彼女の衣装が盗まれた」


 またか。

 メイド喫茶をやるなんて、もう時代から廃れてある意味、痛い出し物でしかないような気がするのだが。

 いや、それより、またもや着衣もので攻めてくるとは、もっと趣向を凝らした策を彼女は捏造できないのだろうか。


「生地から選んだオールハンドメイドらしい。そんな手の込んだものを、どうやら、神崎さんが盗んだというんだ」


「そうですか」


「もちろん、水島さんは盗んでいった神崎さんを見ていたという」


 私は考える。どうやれば、14時に教室から出て、クラスの女子に拉致をされて、あのド変態から逃げている時間のなかで、水島愛莉にクラスへ行き、衣装を盗めるのかと。


 必死に考えた。

 朝の時間。まだ文化祭が始まる前の時間なら。

 いや、もう朝からすでにバスを降りた時点で、いつもはそんな早い時間には登校しない同級生たちがわんさかいた。

 まっすぐ一緒に、目をあわさずに、教室へと向かった。


 難しい。難しすぎる。私が超人でもない限り、不可能だ。

 どうして、いつもそうなんだ。

 水島愛莉は私をスーパーマンかなにかだと思っているのだろうか。

 彼女に言ってあげたい。私は普通の人間だと。


「水島さんのメイド服をどこにやったんだ? 神崎さん。君には14時以降のアリバイがない」


 ある。

 あるが、ない部分を今必死にさがしている。

 時間だけが無常に過ぎていく。あきらめかけようとした瞬間、追い討ちが私を襲った


 構内に流れるチャイム音。それに続く生徒の声。


ー 1年E組の神崎綾子さん。1年E組の神崎綾子さん。至急、体育館まで来てください。1年E組の神崎綾子さん。ミスコン優勝の件で、表彰が残っています。至急体育館まで来てくださいー


 チャイム音が放送の締めをキめる。それは、さながらボクシングの試合終了を告げるゴングのようだった。

 今まで伏せていた視線を少しだけ上に向け、榊副会長の様子をうかがった。


 彼は信じられないようなものを見るような目で、私を見つめていた。


「君は、神崎さん?」


「榊副会長のいう神崎さんが、1年E組の神崎さんなら、私で間違いはないですよ」

 

「目がいつもと違うが?」


「はい?」


 榊副会長の言葉に思わず目に力が入った。

 ビクリと榊副会長の肩が揺れる。


「いや、すまないっ。別人に見えた。驚いたよ」


「コンタクト入れられたんです。あとで外します」


「外すのか? 似合ってるのに」


「目がゴロゴロするので」


 一瞬、あの変態の言葉が頭のなかにちらついた。


 ー いつもの目のほうが僕は何倍も好きだな ー


 なんで、今あいつの言葉が頭に浮かぶんだろう。いやだいやだ。虫酸が走る。


「てことは、神崎さんは14時30分からのミスコンに参加してたってわけだ」


「はい」


「水島さんがメイド服を盗まれたって証言したのは15時か」


 どちらからともなく、ため息が同時に漏れた。

 うなだれた榊副会長を私はじっと何も考えずに見つめる。なんて声をかけよう。かける声が見つからないまま、時刻は16時を回ろうとしていた。

 下校時刻は17時。あと1時間。

 このまま生徒会室にいるのもいいかもしれないな。あの変態と会わずにすむのなら。


 そう思っていた矢先、生徒会室のドアがガタガタと揺れ動いた。

 音の大きさに、何事かとそちらの方へ視線を向ける。

 扉には、モップが斜めに立て掛けてあり、外から開けられないようにしている。


「来るかもしれないと思って、閉めておいた。嫌なら開けるけど、どうする?」


 言いづらそうに放った榊副会長の言葉に、私はすかさず返事をする。


「いえ、さすが榊副会長です。私もそのほうが落ち着いて話ができるので。できれば、17時までそのまま閉めきった状態にしていただければと思います」


 だが、ずっとガタガタいう扉の向こうにあいつがいると思うと、なんか怖い。むしろ、普通に中に入ってきたほうが怖くないかもしれない。

 相手が見えないだけで、こんなに恐怖感とは強くなるものなのだろうか。


「やっぱ、あとが怖いので開けた方がいいかもしれません。榊副会長」


 少し語尾が震えてしまった私に、榊副会長はいぶかしげな視線で私を見やる。

 目が合うが、コンタクトのおかげだろうか。榊副会長は視線をはずすことなく、私を見据えた。


「神崎さんって、一ノ瀬のことを怖がってる? この間も少し震えていた気がしたが。もしかして、弱味でも握られてるのか?」


「弱味は握られていませんが、少し苦手ですね」


「一緒にいるところをよく見かけるから、仲が良いと思ってたが」


「やめてください、仲が良いとか。気持ちが悪い」


 そうこう話しているうちに、いつの間にかドアの揺れが収まっていた。

 逆に怖い。

 いったい、あいつは今何をしているのだろう。

 どこだ、どこから来る?


「今のうちの逃げるか? きっと、移動したんだろう。窓のほうあたりに回り込むんじゃないか?」


「その可能性が一番高いですね。早く逃げましょう」


 私はドアにかけてあるモップをはずし、ドアを開いた。


「では、失礼します。私は教室へ戻ります」


「ああ、呼び止めて悪かった。また、神崎さんを疑ってしまって、本当に申し訳ないと思っている。けど、次はちゃんとした証拠がつかめるようにするから」


 懲りない人だな。水島愛莉を愛しているが故か。

 お互いそれぞれ背を向けるようにして、廊下を歩こうとした時。


「さーかーきー。お前、綾子となかで何してたの? しかも、二人っきりで、外から入れない状況でさー」


 背後から聞こえた声に、息が止まる。

 振り返らずにここは歩こう。

 絶対に振り返ってはダメだ。


「綾子。あとで、迎えにいくから、ちゃんと教室で待っててね」


 終わった。

 と、私は悟った。



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