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こわモテ  作者: ふたり
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 文化祭の日が刻一刻と迫ってきている。

 我がクラスは低予算ながらも「本格的おばけ屋敷」を鋭意構想作成中である。

 そのメインキャストに選ばれたのが、なんとこの私なのではあるが。

 その件について、まだ私は納得をしていない。


「神崎さんは一番最後のシメだから。重要なポストだよ!」


「神崎がいれば絶対に俺たちのクラスの出し物は大成功だな!」


 そんなことを言われてしまっては、今さら嫌とは言えない。

 私は無言を貫いた。

 だが、誰一人私と目を合わさない。

 衣装会わせや、装飾品を作っている最中でさえ、クラスの連中は私とは巧みに目を合わせないようにしている。


 とはいえ、クラスにおける私の立場は別に悪くはない。

 皆、目こそ合わせてはくれないが、それ以外で私がのけ者にされたりすることもないし、そこそこ良好な関係を築いている。


「神崎さんの髪って本当にきれいだよね。はじめてみた時、日本人形かと思ったぐらいだよ」


 クラスメイトの女子が私の髪をひと房つかみし、隣の女子に差し出した。


「ほんと、さらさらだよねえ。売ったら高く売れそう!」


「売らない」


 相手の目を見ずに、そっぽを向きながらぼやく私。

 ケラケラと笑う女子たち。平和すぎて、怖いくらいだ。



ー000ー



「綾子がおばけ役っ! ひっ、ひひひひひっ! はまりすぎっ! ぶっ! ふっふっふふふふっはっはっはっはっ! はらっ、腹痛いっ! ぐるじぃっ!」


 またもや、放課後の生徒会室。

 前回は、榊副会長と対峙していたが、今日はこのド変態が気持ちの悪い顔で笑っている。


「帰る」


「あ、待ってよ! ごめんごめん、もう笑わないから、ひっ! ひひっ!」


「帰る!」


 足の怪我も治り、私はなに不自由なくパイプ椅子から立った。

 目に涙を浮かべこの変態は、顔の前で両手を会わせ頭をテーブルにすり付け・・・、肩を揺らしながら笑っていた。


 あきれた私は生徒会室のドアに手をかけ、それ以上横に動かない手に一瞬何が起こったのかわからず、思考が停止した。


 開かない。


 そんな私に気づいたのか、一ノ瀬正臣はコツコツと足音を響かせ、私の横にまで来ると、扉にひじをつき、覆い被さるようにして私を覗き込んだ。


「鍵、外側からかけてもらっちゃった」


 殺意。

 瞬間的に沸き上がった感情を隠すことなく、私は彼を見上げた。

 たとえ、それが彼を喜ばせることになろうとも、その感情を押さえることは私にはできなかった。


 きれいな顔がすぐそこにある。

 その顔をぐちゃぐちゃに歪めてやりたいと思った。

 けれども、その彫刻のように整った顔は、徐々に深い笑みを濃くしていく。


「いいねえ。やっぱ、たまんないよ。君の目」


「このド変態が」


「なんとでも言ってくれていいよ。君が僕を見つめてくれるんなら」


 私は頬にかかる彼の手をかわし、彼の横をすり抜けパイプ椅子に座り直した。


「用件をきこう」


 顔は正面を向けつつも、横に視線を固定し、私は目の前に彼が座るのを待った。

 どうせまた、水島愛莉がらみだろう。

 なぜだろう。彼女が何かをする度に、この変態と私は関わっているような気がする。

 私からこの変態を切り離すために、彼女の嘘を見て見ぬふりをしているというのに、全く私の思い通りには進んでくれない。


 頭髪を引っ張られた感覚と、背後にヤツの気配を感じたが、されるがまま動かないでいた。

 いちいち気にしていたら、きりがない。


「きれいな髪だね。それに、いい匂い。どこのシャンプー使ってるの? 僕も同じのにしたいな」


「早く座れ。用件を言え」


「つれないなあ。綾子って甘い雰囲気とか嫌い?」


「そもそも、お前が嫌いだ。早く座れ」


「照れてる綾子もかわいくて好きだよ」


 もう、こいつに何を言っても勝てないっていうのはわかっているはずなのに、つい言い返してしまう。

 私も諦めの悪いやつである。


 しぶしぶといった様子で、私の前に座った一ノ瀬正臣は両ひじをテーブルにつき、両手でくんだ指の上に顎をのせた。

 少し上目使いでこちらを見ているのが目のはしにうつる。いちいち仕草がイケメンすぎて嫌になってくる。


「今日、水島愛莉の制服のスカートと体育着が盗まれたらしい」


 その情報はまだ私の耳には入っていない情報だ。

 大抵の場合は、クラスの生徒が噂をしているのをきくか、水島愛莉のクラスメイト(主に男子)が乗り込んできて、ことの次第を知るのだが。


 おそらく、水島愛莉のクラスは午後に体育の授業でもあったのだろう。

 そういえば、このド変態は水島愛莉と同じクラスだったっけ。

 情報も速いわけだ。


「体育着はもちろん、上と下両方だ」


 彼の言葉に私は口の端からため息が漏れるのを押さえきれずに、すーっと息をはいた。

 もはや、なにも考えたくはない。


「犯人は、もちろん綾子。君だよ」


 私はこらえ切れず目頭をおさえ、頭を左右にふった。

 水島愛莉という生徒を私は見たこともない。どんな顔をして、どんな話し方をして、どんな雰囲気をして、どんな頭をしているか、いや、どんな頭をしているかは若干想像がついている。


 私は何も言わなかった。

 すでに結論は出ている。

 この場合、私がやったやらないの話ではないのだ。


「水島愛莉はスカートと体育着を盗まれた時に、いったい何を着用していたのか? 気になるとは思わない?」


「ジャージでも来てたのでは?」


「ブルマもしくは短パンもはかずに? ショーツの上にそのままジャージをきるのかい? とんだ恥女だね、彼女は」


 一般的にジャージの下には学校指定の白い上着、ブルマもしくは、短パン着用は必須だ。

 なかにはジャージを膝丈にきって短パン化するやつもいるが、それは一応校則で禁止となっている。


 運動の際はジャージを脱ぐのだから、白の上着、ブルマもしくは短パンをはいていなければ、下着姿になってしまう。

 そして、今どの学年でもマラソン大会へ向けての練習が体育の授業のメインであり、男女共にランニングの際はジャージを脱がなければいけないのであるが。


「彼女は特別にジャージで体育の授業に参加したのかな? 下に体育着も着用せずに?」


 鼻で笑うこの変態に私は何も言い返せなかった。

 水島愛莉。嘘をつくなら、もうちょっと信憑性のある嘘をついてくれないだろうか。

 何のために、私は黙秘を貫いているというのだ。

 これでは、全然私が悪者にならない。このド変態に嫌われない。


「僕としては生徒会長として、こうやって先生に頼まれる形で綾子と話せているのは好都合で何よりだけど。君の評判が落ちるのは気にくわないんだよな」


「なんで、いち生徒の事情に教師じゃなくて生徒会がつっこんでくるんだ」


「そりゃ、教師より生徒同士のほうが話しやすいところとかってあるだろ? 僕ってそういう対外的な面ですっごい信頼されてるんだよね。君以外からは、特に」


 確信犯ほど手に負えないものはない。こいつは人からどう見られているか十分すぎるほどわかっているのだ。


「ねえ、綾子。そろそろ、もう自分はやってないって、言ったらどうなの? 正直、僕としてもこれ以上、あのバカのバカに付き合うのも飽きたんだけどさ」


「君が私に構わなくなれば、水島愛莉だって、こんなことしなくなることぐらいわかってるくせに」


「わかってるよ? でも、それは無理。無理ってわかってて言ってる?」


 これ以上話していても、きっと無駄だ。

 今回の件に関しては、きっと誰もが事の矛盾に気づいているだろう。

 消えてしまった制服のスカートと体育着はきっと水島愛莉がそのありかを知っているから、なんら問題にはならないはずだし。


「帰るから鍵あけろ」


「僕の事見てくれたらいいよ」


 チラと見て、すぐに視線をそらす。


「見た」


「それは、見たって言わない。ちゃんと僕を見て」


 しぶしぶ、横目でやつを見る。屈託なく笑うやつの顔に鉄拳をぶちこみたい衝動にかられる。


「あと、10分こうしていよう?」


 口の端がぴくついたのは、言うまでもない。

 


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