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1 不思議な隣人

前作の恋愛恐怖症候群と軸が重なっていますが、単品で読めるように書く予定です。気楽に読んでいただけると幸いです。

 隣の席の彼を例えるならば、将来有望なCランク冒険者といったところだろうか。よく日に焼けた肌に鍛えられて引き締まった身体、キリリとした目元に緩やかに笑みを浮かべる口元。あまり喋らないが意外と笑う。頼れる兄貴っぽいが、侮れない。そんな威圧感というかオーラがある。


 新しいクラスで隣になったコノエ君は、そんなとても不思議な人だった。

「よ、よろしく」

「おう」


 イケメンかどうかのカテゴリ分けをせよという問題が出たら、私は迷わずイケメンに分けると思う。しかしだ、お近づきになりたいかと問われれば、迷わず『いいえ』と答えるだろう。近寄らず、遠くからこっそり眺めたい部類なのだ。

 同じイケメンでも、大型犬のように人懐っこくて明るいタイプや誰にでも優しい王子様タイプであれば、ここまで緊張しない。他の女子に嫉妬されない程度の距離を保ちつつ『友好的な隣人』としてふるまうことにいささかの躊躇もない。


 つまるところ彼の場合、『あ、この人なんか危険な香りがする』というわけだ。

 挨拶は普通に返してくれるし礼儀正しい人だと思うのだけれど、どこか近寄りがたいのは、身のこなしに隙がないからなのかもしれない。


 君子じゃないけど、危うきに近寄るべからず! という判断を瞬時に下した私は、生暖かい営業スマイルを浮かべつつ顔を十度ほど時計回りに回転させ、前のほうに座っている親友に目力でテレパシーを送ってみた。


 エマージェンシー! エマージェンシー!


 しかし、隣の女子と楽しそうに喋っている我が親友は全く私のSOSに気づく様子はない。くそう……朗らかに喋りやがって、楽しそうだな! 羨ましい。

 私が1人で白旗を振っている間に、コノエ君は前に座る男子と片方の手を軽くあげて……多分挨拶のつもりなのだろう……ジェスチャーで会話していた。


 桜咲く4月。春うららと呼んで差し支えない穏やかな気候。ぼっち回避のための友達工作も必要とせず、授業もほとんどオリエンテーションという時間割。

 コレだけの条件がそろえば、よっしゃ! 昼寝の時間だぜ! とばかりに机にダイブしたいところなのだけれど、隣から来る威圧感のせいで居眠りなどできない。


 昼休みになってようやく、薄情な親友は私の元に弁当を持ってやってきた。

「珠樹、コノエ君の隣だなんて目の保養だねー。うふふふ」

「瑞穂の薄情者ぉ~」

「そんな捨てられた子犬のような目をしないでよ。ご近所づきあいは大切なんだから。授業で急に当てられたり、教科書忘れたりしたときに助けてもらわなきゃなんないでしょ!?」


 でしょ? とか言われても困る。だって私の隣は得体の知れないコノエ君なのだ。そんなハートフル学園ライフな展開は望めない。

 今も彼は、目つきの悪い金髪の人に呼び出されてどこかへ行ってるし、ハートフルどころかピンチと隣り合わせの学園ライフが待ってるかもしれないのだ。ううう。


「代わって欲しい」

「やーよ。あの手のワイルドなイケメンは遠くから眺めたいの」

「同感だよ!」

 さすがは我が悪友。思考パターンがそっくりである。


 彼女は可愛い二段重ねのお弁当箱を取り出し、目の前に広げた。対する私は、サラリーマンのお父さんが持ってくるような渋い包みに入った幅広の一段弁当だ。中身はそぼろご飯に卵焼き、ほうれん草の煮びたしと冷凍食品各種詰め合わせ。手軽だけど鉄板のお弁当だと思う。


 コノエ君は購買でパンでも買うのだろうか……。

 そんなとりとめもない事を考えながら、私は少し端がパリパリになった卵焼きを頬張ったのだった。

 ああっ、母さん。なめ茸を卵焼きに入れるのは良いけど、たくさん作りすぎたからってニンニクのしょうゆ漬けを刻んで入れるのはどうかと思うよ。娘が口臭を理由にいじめられたらどうしてくれるんだ!




 2,3日もすると、クラスの中での仲良しグループが決まってくる。

 私は腐れ縁の瑞穂と彼女の隣の席の子の二人とつるむことが多くなった。席って重要だよね。場合によっては、席が近いという理由で友達になった関係がずっと続くわけなのだから。特に女子はその傾向が強いような気がする。


 そして我が隣人、コノエ君は相変わらず飄々としていた。クラスの男子とつるむことはないけど、普通に喋っているからボッチという印象はない。なんだろう、兄貴ポジション?

「おはよう」

「おう」


 相変わらず彼はそっけないながらも挨拶を返してくれる。忘れ物をすることもないし、うるさくないし、直接迷惑をかけてくることもない。……たまに授業をサボっていることがあるけれど、それは私のあずかり知らないことなので、気にしないことにしている。あと背が高くて威圧感があるのは本人のせいじゃないし。

 ご近所の関係としては、まずまず、だ。


 しかし。

「ああっ、コノエ君ってワイルドで格好良い!」

「今日はクラスにいないのかな」

「隣の席になりたいな」

 他所のクラスの女子達よ! 代われるものなら、今すぐ代わってやるさ!

 羨望の眼差しが地味に痛いんですよ。チクチク刺さるんですよ。


 彼は隣にいる善良な小市民がプルプルと威圧感に震え、羨望という名の嫉妬に耐えていることに気づいているのだろうか。

「いやいや、アンタ毛の生えた鋼鉄の心臓の持ち主だから、そりゃないわ」

「ひどい」

 私の心臓はそんな不気味な代物じゃない。やだやだ、繊細なガラスのハートが地味に傷つくじゃないか。


 ちなみに今、コノエ君はいない。

 ふらりと出て行ったまま戻ってこない主を待つ机の上には、しなびた木の実が転がっていた。サイズは片手で握りこめるほど。ピーナッツのような色をしたそれには、枯れかけた蔦がひょろひょろっとついている。形は鬼灯に似ているだろうか。皮はもっと分厚いように見える。

 なんだか植物なのに心臓のように見える。そんなとりとめもないことを考えつつ、次の授業のために席へ戻る瑞穂に手を振った。


 途端、

 ――ピシリ……と何かが割れるような音がする。


 思わず音の方へ顔をむけると、コノエ君の机の上にあった木の実が粉々に砕けていた。亀裂が入った程度であれば、乾燥していたのかなと思っただろう。しかし、まるで身代わりになった依り代が役目を終えたといわんばかりに力尽きる様子に、なぜか背中をひんやりとしたものが伝ったような気がした。


 心臓のように見えた木の実は、もはや跡形も無い。


「大丈夫か? 顔色悪いぞ」

「えっ」

 粉々になっていたそれを凝視していた私に、上から声がかかる。見上げると、コノエ君がポケットに手を入れたまま立っていた。

 なんでもないとかぶりを振る。彼は「具合悪いなら早めに保健室へ行けよ」と肩をすくめ、ポケットから骨ばった手を出して、粉々になった木の実をさっとかき集めた。すると、まるで手品のように破片は消えてしまう。


 なんだ今のは?

 好奇心と得体の知れない不気味さがない混ぜになった感情をもてあまし、目をそらすことができずにいると、コツンと何かが上靴に当たる。ハッと我に返り、それを拾うと古びたコインのようだった。煤けているが、どうも銀貨のような気がする。

 刻まれているのは見たこともないような文字だし、現代の鋳造技術にしては形がデコボコしているので、誰かが作ったおもちゃかアクセサリーかもしれない。


「落としたよ」

 多分ポケットから手を出したときに落ちたのだろうと、コノエ君の机の上に置く。彼は少し驚いたような顔でこちらを見、すぐにその表情を打ち消した。

「ドーモ」


 彼はコインを鞄に入れるでもなく、またズボンのポケットに仕舞いこむ。チャリンと金属がぶつかったような音が聞こえたので、他にもコインが入っているのかもしれない。けれど、普通そこって小銭ポジションじゃないの? 自販機の前でややこしくならないの?


 うーん、本当によく分からない人だ。


 けれど、私は知っている。彼の正体はただの学生だ。たとえポケットから古びた銀貨が落ちようと、机の上に見たこともない植物の実が転がっていようとも、私と同じただの学生なのだ。多分。

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