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道化



私が通された部屋はすでに会議が始まっていたのか雑然とした空気が漂っていた。

「伊藤先生が参られました」


私と共に行動してくれた、防衛軍の佐藤少佐が会議室に声をかけてくれた。

自衛隊はこの時代だと、防衛軍と名前を変えて存在している。

専守防衛の精神は変わりないが、降りかかる火の粉を払うくらいの権力や軍事力を手に入れている。


ヘリの中であらかじめ説明を受けていたとはいえ、大物政治家や官僚が犇めき合っている所を見て気おくれするぐらいはご愛敬にしておいてもらおう。


「ああ!わざわざご足労いただきありがとうございます。私、文部科学大臣補佐官の高橋と申します。よろしくお願いします」


「はあ、伊藤卓也です。専門は地学、地球環境学などを少々」


「早速で悪いんですが、今回の現象と今後起こりうる災害規模のプレゼンをお願いします。なんせ皆今回の問題が緊急なのか何なのか分かっていませんから」

高橋補佐官はそういうと中央にある3Dスクリーンを起動し、私をマイクまで引きずって行った。


発表のスライドは、私とひまわり改達で作ることが出来たので問題はないはずだ。

ただ、発表原稿は今後の予想が複雑すぎて、手を回す事が出来なかった。

スライドを見ながらのぶっつけ本番である。サポートにひまわり改達がいる事が唯一の救いである。


「こちらの地殻ストレス図から見てわかるように、歪は関西から関東の主要都市を覆っています。このままの勢いで捻じれていくとここの圧力を逃がすために、頻繁に地震が起きるようになり、糸魚川を境に大きな断層が生まれる事になります。その規模は5m~20m程度と予測できます。これは関東、関西の陸路の遮断となり大きな影響を産みます。また、活火山の動きも注視しなければいけません」


『現在、各関係施設で今後の予想や災害規模等の提出を求めております。明朝には集まるかと思いますので、明日もひき続きの会議を要求いたします』


ひまわり改は会場の運営にもかかわっているようで、異議がでる事はなかった。

この国の人工知能衛星とは大変恐ろしい物だ。しかし、これほど頼りになるものはいない。


さて、私は退室することにしよう。

正直問題が大きすぎて手にあまりすぎるのだ。

これからの議題は周辺諸国への協力や脅威判定等、政治色が強くなりすぎてちんぷんかんぷんなのである。


「帝国中華の動向やロシアの……」


「伊藤先生お疲れさまです。コーヒーをお持ちしました」

「ああ、佐藤少佐ありがとうございます」

疲れの溜まっている私は、ミルクも砂糖も入れる事にした。

さて、これからどう帰ろうか。新幹線で帰るか、一泊するか……。


「先生、大変申し訳ないのですが、暫く都内に滞在していただきたく思います」


あー、これは予想していなかった。

「ええと、秘密保持法ですか?」


「それも含めですが、わたくしどもにはまだ先生のお力が必要だと、ひまわり改が言っておりました。明日、各専門家を多数召集しておりまして、是非先生にも出席していただきたく」


監視付きで野に離すよりは、近くでうろちょろされる方がいいということか。

私としても丁度よい。

他の教授に名前でも売っておくか。


「自分としても、この問題の終息地点が気になります。知的欲求に学者は耐えられない物ですからね。そのお話のらせて頂きます」




次の日、朝一で佐藤少佐がホテルに迎えにきた。

「何から何まで申し訳ない」

「いえ、こちらこそ窮屈な思いをしていただいておりますから」


きっと監視の事を言っているのだろう。

国家の危機になり振りは構っていられない。



そして、また佐藤少佐と共に官邸の会議室に向かう事になった。


「こりゃ、死屍累々だね」

卒論前のゼミ生たちを彷彿とさせる光景に苦笑いがもれる。


『おはようございます。いとう先生』

私用にと渡された情報端末からひまわり改の声が聞こえてきた。


『昨夜の会議結果、ご覧になりますか?』

「ああ、頼むよ」


『では、国内の情報操作を行います。危機感を募る工作を行い、個人の備蓄意識・避難場所の確認を促します。地域行政また、企業においてもC級命令として備蓄、社員の安全確保の用意などの徹底を行います』


「事態の発表はいつごろ行うつもりだい?」


『なんとも言いにくいのですが、第一波が訪れるまでには……といったところでしょうか。海外への工作も行いますが、これは日本の情報のコントロールを行い、各大陸の歪みについてはそれとなく指摘する。という事になりました。この件は伊藤先生にもお付き合いいただきたく思います』


「といいますと?」


さて、海外に伝手なんかなかったはずだが……?


『今、スイスで行われている地球科学学会のレセプション会場でそれとなく風潮してきてください。会場の入場チケットは入手してあります』


「なるほど、確かに私の様な名前の売れていない准教授にはもってこいの仕事ですね」

著名な教授だと、ポロっと漏らした事が大問題になりやすい。

それだけ発言を重要視されていることになる。


私のようなしがない准教授なら、「多少気になることを言っていた。帰ったら調べてみるか?」程度の反応で済むはずだ。


しかし、問題は時間だ。スイスとの時差は-8時間。

今日本は、午前9時。


『大変申し訳ないのですが、今直ぐ現地に向かう支度をしていただいてもよろしいですか?佐藤少佐も動向致します。すでに荷づくりもさせていただいております』


なんとまあ、準備の良い事だ。

人工知能の操り人形もなかなか面白いものだろう。道化のようなものだと思えば。


「承知いたしましたよ。踊ってまいりましょう!」






肉付けが苦手

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