発覚
「内陸では地震が起きにくいと思われているようですが、それは大きな間違いです。ここ群馬にも大きな断層があり、太田市から桐生市にかける断層は日本で最大の……」
地学の講義で今日受ける講義は終わりだ。生物が専門だが、科学全般講義はすべて面白い。
伊藤准教授の講義は話題が身近なだけあってためになることも多い、日常生活で使う場面は少ないが。
「実は赤城山にも東西に走る大きな亀裂があり、ここが裂けた場合山体崩壊は免れないでしょう。今日は皆さんの地元の断層を調べてください。昔どの様な地震がおきてずれたのか、また、今後の可能性も含めて講義が終わるまでに私に提出してください。質問がある方は、前に私はいるのでこちらまで来て質問をお願いします」
はーい、とまばらな声が聞こえる。
カチカチとタイピング音が響く。
「ハジメ、どこ調べんの?」
隣から小声で話しかけてきた友人に俺は出身地である「青森」とだけ答えた。
さてさて、パソコンから「地球観測衛星だいち改・子機」の使用許可を得る。
俺達学生が持っているD級許可書では子機の使用までに限られている。
地殻のデータを集めるだけならば子機で十分という事らしい。
PCに調べたい座標を入力する。
座標の一覧表は伊藤先生が事前に配っていた。
子機のレスポンスは早く、一瞬の検索画面の後に、1年前の画像・数値データと共に検索結果を出してくれた。
「あー?座標入力ミスったな」
俺がだそうとしていたのは、八戸にあるとされる断層であって、今映し出されている
山と湖等ではない。
「これは十和田湖?」
あまり上空から見る事はないが青森県民なら分かるであろう形をしていた。
十和田火山の噴火で作られた大きな山に大きなカルデラ、下に続く渓流は涼を感じさせる事を知っている。
座標検索に戻ろうとして、とある事に気づく。
1年前の値より、大きくなっている?
この山は活火山、大きくなっているという事は?
各数値もてんでばらばらで、専門外の俺にはよくわからない事になっていた。
いくつか似たような声が上がる。
手前の女子大生が質問をした。
「先生、去年との比較数値がずれているようですが、これはどの様にみればいいのでしょうか?」
「小さなズレなら無視して構いませんが、最大どの程度ズレていますか?」
「ええーと、大きいズレで5mくらいですね」
「5m!?地点は!??」
「はぁ、北海道の稚内です」
「俺は最大10mズレています。場所は十和田湖周辺」
「これは、かなり……いや、子機の不調も……、今日の講義はここまでにします。次の講義までにそれぞれ地元の活火山について調べて提出してください。以上!」
伊藤先生は足早に去って行った。
「ちぇー、急いでいる癖に課題はだしていくんだなー」
「俺はここでレポート作っていくけど、そっちはどうする?」
「暇だからやってくかー」
こうして俺達はレポートに取り組むことになった。
提出出来たかは、書かないでおこうと思う。
ああ、もし、もしこれが子機の異常でなければ、これから日本は、世界はどうなってしまうのだろうか。
私が持っているアクセス権は限定Bランク、5基の子機と一時的に母機である「だいち改」の優先使用権だ。急いで研究室に戻りPCを起動させる。
「おはよう、だいち」
文字ではなく、音声入力で質問を行うことにした。
少しでも、この嫌な問題を共有したいという考えからかもしれない。
「おはよう伊藤先生、今日はどうしましたか?」
この「だいち改」を含む日本が所有する重要衛星には人口知能が搭載されている。
思考の助け、データのリンクやまとめ等の補助、危機予測その他にも私が知らないAクラス級の機密があふれている。
「先ほど子機を5基借りて日本の各地点を観測した」
「ええ、リンクが完了いたしました。これは……」
だいち改も問題に気づいてくれたようだ。
この一見ばらばらに見える数値も膨大な演算式でひも解けば何かの規則性を見いだせるかもしれない。
「ああ、太陽の磁場や彗星等の引力影響を受けていたりしないかね!?」
「伊藤先生、私が「ひまわり改」に援助を求めます。彼女から現地の観測データを速やかにおくらせましょう。そして、私たちは一切磁場の影響やその他要因は与えられていません」
地上の観測データと照らし合わせれば、より正確に問題を浮き彫りにできる。衛星の問題なら、これで型が着くというわけだ。
「ああ、頼んだ」
数分待っただろうか、教授はスイスの学会に行っていて連絡は付かなかった。
この待ち時間が私には数時間にも感じられたのだ。
「伊藤先生、データがそろいました。」
「はじめまして、いとう先生、わたくし、「ひまわり改」と申します」
ひまわり改、俺のパスでは引っ張り出す事の出来ない大物が付いてきてしまった。
「気象衛星ひまわり改」・水分子の動きのシミュレーションをするために情報処理能力は高い。そして、その計算力の高さで地上の観測データとだいち改のデータを同時に処理して今、結論を出そうとしている。
「はじめまして、君とはなるべく長くお付き合いしたいな」
「ふふふ、いとう先生はお上手なのですね」
今、結論が下させれようとしている。
「さて、結論から述べますと、今日本は列島を左右捻じれる様な形で変形しています」
ひまわり改はそういうと3Dプロジェクターを起動して、僕にもわかりやすいように過去データと現在をレイヤーの様に見せてくれた。
確かに青と赤で書かれた高低差は捻じれているようだった。
そして、真中には黄色い地帯が広がる。
「歪が大きいのは沖縄・北海道、そして、この歪で負荷を与えられている所は、関西から関東までの区間。これは由々しき事態です。だいち改には荷が重いので私が出てまいりました」
「……、他の大陸は?」
「ええ、微妙な数値でしたが、オーストラリア、ユーラシア、アフリカ大陸等、歪みが生じ出しています」
「日本だけの現象で収まるはずがないか……」
「伊藤先生、姉はいち早く各関係省に通達することをお勧めしています」
「そうだろうね。しかし、私はB級パスしかない、君たちの直属の上司と連絡は付くかね?」
人工知能な衛星達は、自分たちを踏み台にして早く話を通せと言いたいのだろう。
「もちろんです。これは将来的には非常事態宣言を出すべき案件になるでしょう。貴方には事態を説明する義務が生まれました。迎えが来ますので第一グラウンドまでのお越しをお願いいたします」
そうして、私伊藤卓也は官邸へと輸送ヘリコプターで運ばれる事になったのだ。
よーし、頑張るぞー