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イセアルーン戦記(仮)  作者: 白たむ
4/12

夜襲

その夜。


ティーガ砦正面の跳ね橋が下ろされ、喚声と共に騎乗の騎士達が砦外に討って出た。


指揮をするのはベルティーニ。

昼の軍議での一件に納得がいかず、独断で諸侯を動かし夜襲を強行したのだ。

跳ね橋を守る騎士は抵抗したが、数人で取り押さえ強引に開放した。


騎馬で駆けるマルティーニの前方に、見る見る内にエクアランの陣地が迫ってくる。

前後を走る騎馬の総数は1700。

援軍として来着した貴族軍の全軍であった。


前方の陣地が俄かに騒がしくなる。

既に敵襲!という警戒の叫びが放たれ、太鼓が打ち鳴らされバラバラと騎士達が出撃してきた。


「全騎、突入ーーーーーーーーーっ!!!」


ベルティーニの気合の掛け声ひとつ、先陣の騎士が迎撃部隊に突撃、強引に食い破り陣地内へと更に突撃を行う。

夜襲をかけた割に喚声を上げさせたり、。

組織防衛を始めようとするエクアラン騎士の動きを翻弄していた。


「マークル!右方の敵に突撃をかけ分断しろ!ゴルドフは左方に向かえ!他は我輩に続けえええええええ!」


騎馬隊の突撃により、敵陣を切り裂き歩兵間の連携を取れなくする。

王道の手ではあるが王道だからこそ強い。


次第に組織的反抗も下火になり、敵陣後方で火矢が数本上がった。

同時に撤退の号令が挙がり、エクアラン騎士達がたちまちのうちに後退を開始する。


奇襲の成功により気分を良くしたベルティーニは追撃の命令を下す。


「追え!一兵残らず血祭りに上げるのだっ!!」


バラバラと駆け出す敵兵に向け、貴族軍の騎兵が次々と襲い掛かる。

徒歩で逃げる敵兵は格好の騎馬の餌食となっていく。


国境に向けて逃げる者、街道を外れた先にある森へと逃げ出す者と様々ではあるが、皆恐怖に駆られた全力の逃走だった。


半刻も追撃を行っただろうか。

てんでばらばらの方角に向けて撤退する敵軍に加え、闇夜という敵が襲い掛かり次第に貴族軍の動きが鈍ってくる。

恐らくは数百単位での戦果を挙げたに違いない。

これで暫くの間、敵軍はティーガ砦攻略に出られないはず。


頃合と判断したベルティーニが、帰還の合図である火矢を放たせた。

数名欠けた者はいるものの、付近に付き従う騎士達は健在であった。


「よし、砦に帰還するぞ!」


これで戦功一番は自分の物であり、あの生意気な若造の鼻を明かしてやれる、と内心は踊り出したいほど高揚していた。


その瞬間である。

闇夜を切り裂いて飛来した弩・弓矢・魔術が次々と炸裂する。


「な、なんだ何事だ!?」


突然の出来事に慌てふためくベルティーニ。


「伏兵だ!囲まれています!!」


配下の騎士達の絶叫が響く。

慌てて馬を翻し元来た道を戻ろうとするが、魔術の爆炎が直近で炸裂しては鍛え上げられた軍馬でも動揺する。

嘶き、恐怖に駆られ駆け出す軍馬は人の手では抑えが効かなくなっていた。


暴走する軍馬の手綱を握る騎士達は、振り落とされまいと必死に馬体へとしがみつく。

が、何かの拍子に力の加減がずれればいとも簡単に振り落とされてしまう。

馬から振り落とされた騎士達は、突如突き出された槍に身体を貫かれ、あるいは後続の騎馬によって踏み潰されて絶命していった。


周囲の騎士達が次々と倒れるのを見て、ベルティーニは己の失策を悟った。


なんとか馬をなだめた騎士達を従え、帰路を駆けるマルティーニであったがすぐに槍衾を敷いて待ち構える重装歩兵の壁にぶつかった。

慌てて馬を止め、逃げ道を探す為周囲を見渡す。

だがわだかまる闇は伏兵を匂わせ、どこを駆けても逃げられる気がしない。

完全に包囲された。

伏兵だけならまだしも、ご丁寧にも火矢で自分の位置を知らせてしまったことに歯噛みする。


意を決したベルティーニが、降伏する!と叫ぼうとした瞬間。

暗闇から飛来した弩に全身を貫かれ落馬する。


弩の威力はフルプレートを貫通し、尚人体への殺傷力を十分に残していた。


口から血の泡を吹き出しつつ、尚も擦れた声でと呟くベルティーニに、複数の槍が突き出され今度こそベルティーニは絶命した。


一方、ベルティーニとは別方向でエクアラン追撃を行っていたマークルは、ベルティーニの撤退の合図である火矢の後に爆音が轟いたのを受け全てを察した。

ここも既に伏兵に囲まれていると思った方が良いだろう。

マークルは周囲に従う騎士達を帰路につかせ、自らはその馬上槍を投げ捨てた。


複数で居れば射撃の標的にされる、ならば単独で武装解除をしていれば無下に撃たれることはあるまい。


そう考えつつ、騎馬を降り大地に立つ。

更には着用していたフルプレートすら脱ぎ始め、完全に戦意を喪失したという意思表示をした。


全ての装備を外したマークルは両手を挙げ、その手に何も持っていないことを示す。

すると伏せていた重装歩兵が姿を現し、マークルを包囲するように近付いてくる。


「やめろ!私はウェインランド王国伯爵家のマークルである!貴軍に投降する!」


その声を受け、マークルは騎士達に組み伏せられ、後ろ手に縄をかけられ連行されていった。


―その頃ティーガ砦

昼に二人がエクアラン軍を眺めていた鐘楼。

そこにまたしても二つの影があった。


「見事に伏兵に嵌りやがったなぁ、好き勝手しやがってバカどもが」

「連中には良い薬になったでしょう。ある意味ではこれからの指揮が執りやすくなります」


現在砦の跳ね橋は下がっている。

逃げてくる貴族軍の残存兵を収容する為である。

だが最初の爆音から大分時間が経っている。

騎士が生き残っていたとしても、逃げる最中に砦を見失い彷徨っているか、もしくは王都やイスタンラントへと向かったか。

或いは、伏兵の残兵狩に狙われ命を落とすか捕虜になるかのいずれかであろう。

そう判断をしたバルバロスが眼下に向かって声を上げる。


「跳ね橋を上げろぉっ!・・・っと弩兵は三交代で監視にあたれ!もしかすると深追いしてきた間抜けが居るかもしれんからな!」


収容した騎士は総数で七百強。

別拠点を目指した騎士も多いであろうが、千名近い騎士達が失われた。

稀に見る惨敗である。

出撃した七名のうち、二名の高位貴族が命からがら逃げ帰ってきたが率いていたはずのベルティーニとマークルの姿は無い。

恐らくは死んだか敵の捕虜になったのであろう。

あの二人なら真っ先に自分が逃げるはず。


しかし、バルバロスとテュレンスの顔に焦りは見えない。

実際のところ、貴族軍の暴走は織り込み済みだったのである。


「さて、見張りは配下に任せて私たちは戻りましょうか。明日も朝から忙しいですよ」

「おう」


階下へと降りた二人は、後は任せたぞ、と待機していた騎士に言い置き広間へと足を向けた。

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