プロローグ
メルーサ・ビブラクス統一帝国
100年前に分裂した、メルーサ国とビブラクス国が、再統一を果たしたことにより成立した国である。
そしてここはその首都であり、世界最大の都市でもある、ナスアの街にある公会堂の一角。
「えぇ!?俺が外交官ですか?」
「そうだ、君は本日付でこの統一帝国の外交官となった。」
上司の突然の知らせに驚いているこの男の名はヴェラード・クエストルという。
「なんだ、不満でもあるのかね?」
「不満なんてそんな!ですがあまりにも早すぎやしませんか?」
ヴェラードの疑問は当然だった。通常どんなに早くても外交官に任命されるのは三十過ぎからであり、
彼はまだ22歳になったばかりだ。
「確かに早過ぎるかもしれないが、これにも理由がある。」
上司はたっぷりと蓄えた顎ひげを触りながら、戸惑っているヴェラードに言った。
「君が赴任することになるバスク王国は統一帝国から遠く離れている、その上道中は危険で盗賊もモンスターも多い。だから若く腕にも覚えがある君に白羽の矢が立ったのだ。」
ヴェラードは上司の説明を聞き、少し納得がいった様子であったが、最大の疑問はまだ解決されていない
「しかし、クエストル家はすっかり没落しています。そんな家の長男を外交官になどど、よろしいのですか?バスク王国も歓迎しないのではないでしょうか。」
すると一呼吸置いて上司は
「今回の任官は君の家の力を取り戻す為に、皇帝陛下が下さったチャンスだということだ。」
このことを聞きヴェラードは驚きを見せた。
外交官として自分が活躍すれば、家の名誉も取り戻せる。これはまたとない好機だった。そして自分のキャリアにも箔がつく、そうすれば職を退いた後も悪いようにはされない。
「はい!確かにこの大役を務めて見せます!」
「うむ、ではこの剣と書類をを持って行ってくれ。」
上司はそう言うと、木箱に入れてあった長剣と、蝋で封のされた書類を、ヴェラードへと手渡した。
「これは?」
「その剣は君の護身のため、そして何よりも統一帝国の代表としての身分を示すものだ。書類はバスク王国のアラネア女王に渡してくれ。」
手渡された長剣には統一帝国の国章があしらわれていて、刃も剃刀のように鋭い業物だった。
ヴェラードは書類には目もくれずその長剣を見つめていた、彼も男なので戦う為の武器に憧れのような気持ちを抱くのは当然の事で、ましてそれが世界最大の帝国の象徴であればなおさらだった。
「長剣に見とれるのも結構だが、職務は果たしてくれよ。」
上司の呆れた声を聞きヴェラードはようやく現実に引き戻された。
「当然ですよ!クエストル家のため、そして統一帝国のため、全力を尽くします!」
「ああ、期待させてもらおう。ところで出発についてなんだが、明日にでもさっそく発ってもらおうと思っている。」
ヴェラードは再び、この髭だるまの上司に驚愕させられた。
「あ、明日ですかぁ!?」
「道中何があるかわからんからな、統一帝国が治め交通網も発達しているレント大陸ならまだしも、君が行く、バスク王国があるセビア大陸はいくつもの国が存在しモンスターも多いぞ。足止めがあるかもしれない、ならば早めに発った方が確実だ。」
レント大陸にある国家は統一帝国ただ一つだが、セビア大陸には大小様々な国がひしめきあっている。
また面積もセビア大陸の方が大きいので、モンスターの数も少なくない。
「路銀も多めに用意しているから、多少道中に難儀をしても問題ないはずだ。頑張ってくれたまえ。」
こうして若き外交官が誕生したのだった。