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開かない扉

作者: 灰空

とある世界のとある時代。

この世界の文明は私が製造された頃におきた戦争ですべてが灰と塵と化し消え去った。


地上にある物、そのすべてが零になり消えてなくなった……

すべての文明は死に絶え、

わずかに生き残った人類も、元の時代から何百年も昔に戻ったような

原始的な生活を送っている。

そんな世界で、唯一その当時の姿を留めている場所がある。


それは私…… ケティの創造主にして偉大な主人が眠る部屋。

私は、その『木』という古代にあっては一般的だった建築資材をモチーフにした複雑な

塗装を施された特殊合金製の扉の前で、

今日もお気に入りの椅子に座り主人の命令をこなしている。


自分で言うのもなんではあるが…… 優秀に作られた私は、

主人が眠りについてから今まで、彼の命令を守り、

そして忠実にこなしている。


朝日が廃墟の隙間を抜けて地下にあるこの部屋へと降り注ぐ。

私の視界がそれを捉えると同時に

私はこれまた木をイメージして造られた合金製の椅子から立ち上がり、

その場で振り向くと背後に佇む扉の前まで足を進める。


「…… 、時刻○○:○○…… 定時報告。

周囲に生命反応なし。

また、『私』を除く他の機械からの熱源の反応は見られません、

…… 以上で報告を終了します、マスター。」


そしていつも通り、扉の中にいる主人に、私は声をかけた。

朝の提示報告だ。

これも、もう何回繰り返したか分からない。

私の画面に映る扉からは今日も主人の声は返ってはこなかった。


何の返事もないまま、待つ。

そして、外から這入り込む光が、

徐々に私の上を飛び越え

向かい合う扉をの直上から直接に、

それを照らし始める。


それを確認した私はいつも通り、待つことをやめ次の行動に移る。


つまり、戦争中に崩壊し、所々外が覗いて見える通路のほうを向き直り

木の椅子のそばまで歩を進めすわり、いつも通り主人の命令に戻ることにしたのだ。


任務を受けた私は、既に多くの年月をこの扉の前でこのように行動し過ごしている。

主人からの命令は簡潔で明瞭なもの。

「誰も部屋に入れるな。」っと、ただそれだけのものだった。


主人の暮らしていた国家が起こした戦争。

彼はその天才的な頭脳によって

その戦争が、いずれ人類すべてを巻き込み、そして文明を滅ぼすっと予測していた。


そう悟った彼は、その日が訪れた時

再び人類が立ち直れるようにする為、自らが作った睡眠装置を使い、

遥か未来へ自らとその技術を保存することに決めたのだ。


しかしそんな不安定な情勢の世界で無防備に眠りに付くほど主は愚かではなかった。

部屋には門番を用意したのだ。

それがケティ…… つまり私だ。

私はその昔、この世界を灰と塵に変えた最先端技術の粋を極め作られ、

…… しかし、その技術を持ってしても破壊することはできないようにデザインされた

主の生きた文明が残した究極にして唯一の存在。


実際にあの戦争の狂気にも屈することなく、

そして、時の流れにさえ侵されることなく私が存在している事が、その証明っとなるだろう。


このように半永久を生きることができる私に課すモノとして

いつ終わるとも限らないこの主人の命令は

実に適切なオーダーであるっと私は思っている。

だが……


「今日も、何もなし…… か…… 。」


この空白の日々は私にとって時に苦痛でもある。

それは肉体的なものではなく、人間の言うところの精神的なものである。


機械、つまり主人という名の人間の手で作られたモノが

人間の精神などっと言えばおかしく感じるかもしれない。

だが私は、その外見だけではなく思考までも限りなく、

人類のソレに近いように作られているのだ。


「…… 今日も変化なし…… 」


ゆえに私は今のこの状態に…… 人間で言うところの飽きを感じてしまっている。


人間は退屈に負けると死んでしまうらしいっと私のデータベースの中にある。

まさに私もそういう状態になりうるわけだ。


…… 私は主のやることがすべて合理的で正しいと『心の底』からそう思っている。

だがしかし、そのようにプログラミングされているにもかかわらず、私は

この外見と思考能力に関して…… 言ってはなんだが全く無駄な機能であると長い空白の時間の中でそう断定している。


なぜなら、半永久的に稼働を約束されたこのケティも、この不要な機能によって

私としての稼働に時間的な制約を受ける可能性もあり得るのだから笑い事にもならない。


ならいっそ完全な機械になれればいいのだが、

あいにく私の思考ルーチンもケティを構成する一部と解釈されているので

自己保存の原則から根本的な所を破壊することができない。


このことを何度忌々しいと思ったか分からない。


…… しかし、皮肉なことに私は、この破壊も改善もできない機能によって、

『主が目覚めるのを待つ』という

何とも言えない複雑で計算できない思考を手にいれることもできた。


果たして、そのことを主が意図してやったのかは、私にもわからない。


「…… 」


私は、体と首を少し回し、背後の扉を視界に入れる。

木目っと言われる複雑で出鱈目な模様を描かれたこの扉は、

まるで私を表しているようだっと思った。


そして、この扉は今日も開く気配もなく、私の背後に佇んでいる。

この扉の先がどうなっているのか…… 私には全く分からない。

しかし、機械であるはずの私は、……

いつか主が目覚められこの扉を開く日を楽しみに待っている。


「天気、快晴。

風速、微風。」


気を取り直して私は正面を向きなおす。

いつも通り、廃墟を抜ける風の音、ボディに触れる空気の感触、

そしてふと見上げた天井の穴から覗く雲一つない空の蒼さを認識しながら

私は今日もこの扉の前で主の目覚めをまっている。


いつまでも…… いつまでも…… イツマデモ…… 。





無垢なる機械は知らない…… 。

古の戦いによりその扉の先は、最早何も残っていないことを…… 。

ただ、そこにはその扉のみが残されていることを…… 。

そして…… 二度と、かの主が目覚め、その扉をくぐることはないことを…… 。

ケティは知らない…… 。

無垢なる機械は何も知らないまま、自身の未来を夢見て笑う…… 。


何かを待つって言うのは苦痛ですよね。

でもケティは幸せ者ですね。


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― 新着の感想 ―
[一言] 待つのは苦痛に違いありません。 ケティはどうなんでしょうね。 苦痛だけど、目的があって幸せなのか、待つこと自体が苦痛ではないのか。そこに僕は面白味を感じました。
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