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「ハルオ、こいつは私に任せて、香を車に連れていきなさい」土間がハルオに指示を出す。
「いやだ! こいつだけは俺が相手になる!」
ハルオは顔を高揚させてむきになった。しかし土間は取り合わない。
「ハルオは何が一番大事なの? なんのためにあんたに私のドスを持たせたと思ってんの? あんたの大事な人たちを守るためでしょう? こんな屑に仕返しするために使うってんなら、そのドス、とっとと返してもらうわよ」
ハルオは関口を睨みつけると、香の顔を見た。傷口に血がこびりついている。腕からはうっすらと血がにじんでいた。
「私なら大丈夫よ。両足は何ともないんだから。自分で歩けるわ。あんたが納得できる行動をしてよ」
香はそういったが、刀傷特有の痛みがない訳がない。青い顔が痛々しい。気力だけでも相当堪えているはずだ。
ハルオは香を自分の背中に背負った。抱えあげるにはハルオの体格はいささかきついものがあった。かっこをつけている場合ではない。襲ってくる奴には礼似が援護をした。
「あんたが、息子の代わりって訳か」関口が土間に向き直る。
「相手として不足は無いでしょう?」土間もかまえる。
「まあな。女子供に気が弱くなる奴なのは気に入らないが、腕は認めてやるよ。だが」
関口はそのまま斬りかかった。
「腕だけじゃ、殺し合いは出来ねえぜ!」
土間は、その刃をひらりとかわすと、次の刃もあっさりと跳ね返した。体制が崩れた関口に柄元をたたきつける。
倒れた関口に刃をちらつかせていった。
「殺し合いをする気なんて、サラサラないわ」
関口の胸ぐらをつかみ上げる。
「勘違いも甚だしいわ。私は弱くなって男を捨てたんじゃない」
関口の頬を殴りつける。
「より、強く生きるために、女を選んだのよ」
関口は横倒しに倒れていく。
「たとえ、自分の子に、どんな目で見られようともね」
土間は関口を見降ろした。
「ハルオはあんたより強いわ。あの子は刃物に呑まれたりしない。殺し合いなんて必要ないの」
あの子はあの子のままで強くなれるわ。私と違って。
土間は最後には自分の心に言い聞かせながら、香を背負ってスタジオを出ていくハルオの姿を見送っていた。