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こてつ物語5  作者: 貫雪
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「おい、感情に振り回されている場合じゃないぞ。礼似さんと香が、まずい事になりそうだ」


 違法なのは百も承知だが、良平は携帯を耳にしたまま運転していた。携帯からは、雑音混じりに香のマイクの声が聞こえている。どうやら礼似が状況を伝えるために、盗聴器を自分の携帯に押し付けているらしい。


「どうやら礼似さんも見つかったようだ。このままじゃ二人とも危ない。急ぐぞ」


 そういうと良平は御子に携帯を放ってよこし、自分は車のスピードを上げた。今度は御子が良平の携帯に耳をすませる。


「悪いけどおもてなしを受けている暇はないの。なにしろ怪我人がいるからね」

 礼似の皮肉を込めたセリフが聞こえる。


 おそらくわざとそういうセリフを言っているのだろう。香の傷は浅くなかった。消耗しているのかもしれない。


「その穣ちゃんはなかなかおとなしくなってくれなかったんでね。もてなすほうも苦労したんだ。あんたはおとなしくエスコートされて欲しいもんだ」

 少し雑音混じりに関口の声も聞こえてくる。その周りで少しざわめいた様な気配。


 おそらく他にも数人の人間がいるのだろう。礼似だけでは香を守りきれそうにない。何より関口は腕の立つプロだ。


「結構人数がいそうね。ハルオ。あっちに着いたら、まず、あんたが関口達の気を引いて。土間は関口をお願い。あいつはあんたにしか任せられないわ。私達は雑魚を何とかして香を助けるから」

 御子が指示を出す。


 そうだ。動揺して怒りにかまけている場合じゃない。まずは香の無事が優先だ。土間とハルオは互いの目を見かわして頷いた。



「エスコートして下さるんなら、紳士的にふるまってね。とくに若い子には」


 関口達の取り囲まれながら礼似と香は再び裏口から建物の中に入っていく。今度はさっきの部屋を通り抜けて、廊下を通り、広い、ダンススタジオのような空間に出る。床に座る瞬間、香がふらついたように見えた。動き回って、腕の傷が開いたらしく、腕から出血をしている。今、無理はできない。どっち道、バイクのキーは関口に奪われている。


「さて、せっかく女性が二人もいるんだ。ここは舞踏会としゃれこもうじゃないか。裸踊りなら大歓迎だが」関口が言う。


「脱がせ上手はキライじゃないけどね。もうちょっとマシな場所でお誘いが欲しかったわ」

 そういいながらポケットのナイフを探る。上着の別のポケットには銃があるが、今、関口を脅した所で、香を人質にされれば万事休すだ。


 多勢に無勢。余計な刺激はなるべく避けた方がいい。御子達が早く来てくれれば。



「お、俺は歓迎できないぞ! ふ、二人とも、か、返してもらう!」


 がらんとしたスタジオに、ハルオの声が響いた。後ろには土間と御子、良平もいる。


「次々とゲストの到着か。いやに早すぎる。招待状はまだ出していないんだが」

 関口の刀の切っ先がひらりと動いた。香の顔をかすめる。


「きゃ!」香の小さな悲鳴とともに、襟元が切り裂かれ、膝の上に小さなワイヤレスマイクが転がり落ちた。


 早かった。礼似では反応できない。どうやって関口から香を引き放そう?


「成程な。俺の目をダシ抜けるとは大したお穣さんだな。確かに甘く見ていたようだ」

 関口が香を見下ろしながら感心して見せた。


 香は膝に落ちたマイクを何気なく拾い上げた。ほんの一瞬、香の指先が動く。関口ははっとしたように香から離れると、目元を刀でかばうしぐさをした。「キン!」と言う金属音とともに、マイクが床に転げ落ちる。


「こいつ!」関口がカッとなって香に向かおうとしたが、その目の前に突然ハルオが現れた。刀をドスで受け止めている。早い!こいつ腕をあげやがった。


「か、香さんに、て、手出しは、さ、させない」


 このどもり言葉に騙される。こいつの事も、やや甘く見てしまっていたか。こんなに短い時間で、これほど感覚が研ぎ澄まされるとは思っていなかった。しかし、


「まだ、若い!」関口は刀でハルオを刺しにいくしぐさをする。ハルオは横に飛んだが、その身体を追いかけるようにして、刀が真横に迫ってきた。ハルオは刀をドスで受け止めたが、空中にあっては体制は立て直せない。そのまま体が投げ出される。次の刃が来る。間に合うか? ハルオがドスを構えようとした瞬間に、別の刀が目の前に現れた。鋭い金属音が響く。


「あんたの相手は、私にさせてもらうわ。ハルオよりは手ごたえがあると思うんだけど」


 そういって、土間が関口に立ちはだかった。この隙に礼似は香を関口から遠く引き離し、襲ってくる雑魚をナイフで払いのける。御子と良平も加勢に加わった。



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