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こてつ物語5  作者: 貫雪
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 そのハルオの事で良平は悩んでいた。ハルオを仕込むのがどうもうまくいかないのである。


 ハルオの性格も気質も十分に理解している。刃物嫌いは相変わらずだが、全くの臆病者かと言えばそんな訳ではない。無理に相手に向かっては行かないだけで、冷静に状況を見極める判断力など、優れているくらいだ。


 反射神経もいい、すばしっこさもある。逃げや尾行が得意なだけあって、持久力もなかなかだ。


 だからこそ是非、仕込んでみたいと常々思ってはいたのだが、いざやってみると、ハルオの能力を引っ張り出せている実感がない。ハルオを本気にさせられないのだ。


 ハルオはむやみな怒りや衝動で動くタイプではない。どもりが出るのは極端に相手に気負ってしまうからで、相手の事が見えなくなるほどの感情に駆られた時は、どもる事は無くなっている。日ごろはむしろ冷静な方だろう。


 こういう奴を本気にさせるのは、意外に難しかったんだな。


 ハルオは決して不真面目ではない。苦手な事にも真面目に取り組む事が出来る。


 しかし、その生真面目さが邪魔をして、ハルオの動きに制限がかかっているような、そんな印象がぬぐえない。


 土間さんは俺を指導者タイプかもしれないと言ったが、才能を見抜く目を持つのと、実際に指導するのとでは天と地ほどの違いがあるようだ。どうすればハルオに本気で向かってこさせることが出来るのだろう?


 攻撃は最大の防御。言葉で言うのはたやすいが、これを身体で理解してもらうためには本気でかかってもらうしかない。なまじ逃れるのが極端に上手いだけに、先立ってしかけていく必要性を理解させにくい。


 顔見知りの俺が相手では、ハルオは本気になれないのだろうか? やはり土間さんにあのまま指導を続けてもらった方が良かったんじゃないか? ハルオの才能を本当に引き出せない自分に良平はつい、苛立ってしまう。


 勿論その苛立ちはハルオにも伝わっていた。しかもそれが自分への自信喪失につながってしまうのが、ハルオらしいところ。ハルオ自身は真剣だ。決して手を抜いたり、いい加減な気持ちでやっているつもりはない。


 思い切って向かえといわれれば、本当に正面切って真っ直ぐ向かってくる。これでよけられなければ、馬鹿だ。


 持ち味の反射神経は全く生かされる事がない。何せ身体が、相手が避けてくれることを前提に動いている。


 ハルオ向けに木刀を短刀のサイズに切って持たせているので、動きは軽快で、良平が向かって行っても物の見事にかわされてしまう。あまり喧嘩の稽古にはなっていないのが現実だ。


 本当なら電光石火の良平を、軽々とかわしてしまうこと自体が、たいしたことなのだが。


 それで完全に身の安全が図れるのなら、それはそれで越したことはないが、何せ喧嘩には遠慮もルールもない。


 相手が命懸けで立ち向かった時に、どんな突発事態が起こるか分からない。刃物を手にした以上は、常にそこを頭に入れておく必要がある。命の危機が迫った時の最低限の攻撃態勢は身体にたたき込みたい。


 刃物嫌いのハルオにドスを毎日持たせるのも負担が重そうだ。そんな事を考えてしまう良平にも甘いところがある。おかげで稽古は遅々として進む気配が無かった。




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