競泳のルール
「さて、泳法ごとの説明は以上です。次に競泳のルールについて触れていきましょう。これは実際にプールで泳ぐ際に重要になってくる部分です」
先生はスクリーンを切り替えた。今度は競泳用のプールのイラストが表示される。
「競泳では必ず『8コース制』が採用されています。一般的なプールは25メートルまたは50メートル。この8レーンの中に選手たちが分かれて泳ぎます。スタート時にはプルブイ(腕に装着する道具)を付けることは禁止されていますし、スタート台から飛び出す際も特定のルールがあります」
スクリーンではスタートシーンの動画が再生され、選手たちが合図とともに飛び込む様子が映し出される。みんな一斉に飛び込み台からプールに飛び込む瞬間の迫力はすごい。俺もスイミングスクールとして出る試合では何度も経験した。
「スタート後にすぐ水中で泳ぐのは認められていますが、水面に浮上した時点での位置は『15メートル以内』にある必要があります。それを超えると反則になることがあります。そしてコース違反――つまり決められたレーンから外れることは最も重大な違反行為で失格処分となります」
先生の説明を聞きながら、ふと自分が小学校の時にやっていたクロールを思い出す。先生から「ちゃんとコース内にいろよ!」と怒られた記憶がある。
「またターンについても注意事項があります。壁にタッチする前に肩が壁の角度に対して平行である必要があります。これを『適切なターン』と言います。逆に壁にタッチした直後にすぐにプルブイを使ったり水中で長時間留まることも禁止されています」
「先生、その『タッチしてすぐプルブイを使う』ってどうしてダメなんですか?」
芦川が再び質問した。確かにルールを知っておかないと試合で不利になる。
「これは反則と見做される場合があり、主に『壁からの滑走』を行わないようにするためです。プルブイは水中で一定以上の速度を得るために使用できますが、あまり使いすぎると本来の泳力による競争にならなくなってしまう可能性があるのです」
なるほど……そういう意図があったのか。確かに水中での加速装置みたいなものだから乱用はフェアじゃないよな。
「さらに最後にはゴール判定があります。ゴールラインに接している選手がどれだけ優位でも最後にタッチをした人間が1着となりますが、競技によってはビデオ判定が行われることもありますね」
そう言うと先生はパソコンを操作し、別の映像を出した。0.01秒差で優劣が決まる瞬間の判定風景だ。観客も審判も固唾を呑んで見守る緊迫した空気が伝わってくる。
「このような精密な判定が行われるのはスポーツならではの醍醐味ですね。しかし何よりも大事なのは選手たちの日々の鍛錬です。みなさんも水泳の試合を見るときなどに参考にしてみてくださいね」
授業の終わりが近づくにつれて俺たちはそれぞれペンを持ってメモを取っていた。最初こそ簡単だと思っていた水泳の歴史だったが、内容は非常に濃密だった。
「はい。これで二時間目の座学はおしまいです。また、何か分からないことがあれば、いつでも聞いてくださいね」
中野先生が柔らかい声で言った。そのブラウスの袖から覗く紺色のジャージの袖口が、俺の視界の端で微かに揺れている。先生の存在感は、教壇を降りた後でも十分に大きかった。




