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陸上部の鈴木さんと


校舎に戻る途中、黒いスポーツブランドのジャージを着た女子が歩いてきた。長身で、鍛えられた体つきだ。俺と同じクラスの鈴木瑠奈さんだ。俺たちに気づくと、軽く会釈をした。

「あ、るなちゃん!」

芦川が声をかけると、鈴木さんはニッコリと微笑んだ。

「おはよー、あゆちゃん。佐藤くんもおはよう」

落ち着いたトーンの声だ。

「るなちゃんも陸上部の練習?」

「うん。これから自主トレに入るところ」

鈴木さんは黒いジャージの裾を軽く引っ張った。彼女のジャージは上下セットで、胸元にはブランドのロゴが光っている。芦川の臙脂色のジャージとは対照的に、スタイリッシュな印象だ。

「二人は何してたの?」

「ちょっと自販機でお茶してた」

俺が答えると、鈴木さんはクスリと笑った。

「へぇ、青春だねぇ。私はそろそろ行くよ。またね!」

軽く手を振って去っていく鈴木さん。その後ろ姿を見送った。

俺は天文部の芦川が、陸上部の鈴木さんと気軽に話をしているのを見て、意外だった。あまり接点があるようには見えなかったからだ。ただ、入学式の時は、一人だけ女子中学出身のせいか、周囲と馴染めていない雰囲気があったのが、この1年で、彼女も友人を作り、打ち解けてきているのだと、俺は嬉しく思った。

それにしても同じジャージ姿でも、鈴木さんの黒いジャージは芦川や他の陸上部女子たちとはまた少し違う雰囲気を持っている。機能的でスポーティだが、どこか洗練されている感じがした。

「彼女のジャージも似合ってたな」

素直な感想を漏らすと、芦川が意外そうな顔をした。

「佐藤って意外と人の服装見てるのね」

「いや、たまたま目に留まっただけだって」

慌てて否定する。さっき体操服の話で失敗したばかりだ。あまり女子の服装に注目していると思われたくない。

「鈴木さんのジャージの下ってさ……やっぱり体操服とか着てるのかな?」

芦川が俺の方を見ずに尋ねた。

「え? なんで俺に聞くんだよ」

「だってさっきジャージの下に何を着ているんだろうって言っていたでしょう?」

「まあ……そりゃそうだろ。ジャージ一枚だけだと走ったら寒いだろうし……」

さっき陸上部の女子がファスナーを下げて体操服の襟を見せた光景が脳裏に蘇る。鈴木さんの黒いジャージの下には何が……と考え始めて、また危険な思考に入りそうになる。

「鈴木さんの場合は……もっと機能的なものを着てそうな気がするな」

俺は無難に言っておいた。黒いジャージのスタイリッシュな雰囲気から連想したイメージだ。

「もしかしたら、体操服じゃなくて、陸上競技用のレーシングトップにレーシングショーツかもね」

芦川は淡々と言った。その言葉を聞いて、俺は思わず彼女のジャージの下を想像してしまう。レーシングトップとレーシングショーツ……つまり、体操服よりもさらにフィット感があり、露出度が高い可能性のあるウェア。ジャージという厚手の布地の下に、そんなものが隠されているかもしれない……。そんなことを考えただけで、心拍数が上がるのを感じる。鈴木さんの鍛えられた身体に吸い付くようにフィットした競技用ウェアを想像してしまい、慌てて頭を振ってそのイメージを追い払った。

「佐藤、顔赤いよ?」

芦川が怪訝そうに俺の顔を覗き込んだ。

「えっ!? そ、そりゃ……春だし、日差しも強いしな……!」

必死に誤魔化す。芦川のジャージ姿と、陸上部のブルマーの残像が頭の中で混ざり合い、俺の思考回路は完全に混乱状態だ。

「ふーん……まあいいけど」

芦川はそれ以上追求してこなかった。助かった……。

俺たちは少し気まずい沈黙を保ったまま、教室へと戻る。廊下を歩きながらも、俺の目は無意識に彼女のセーラー服の襟元から覗くジャージの襟を追ってしまう。そこには何が隠されているのか。俺の知らない世界。それがジャージという服の持つ魅力なのかもしれない。そして同時に、恐ろしさも感じる。

(早く席に着いて、冷静にならないと……)


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